(82)リーンの暴走とカードの後押し(1)
未だ休憩所で国王バレントと騎士や密偵達がダイヤセカンドの力で動けなくなっている頃、ミラージュの事情を全て聞いたリーン。
ロイが口にしたのはミラージュが落ち込んでいるようで可哀そうであり何とかしたいと言うある意味曖昧なものであったのだが、そこはロイ大好きリーンなのでロイに良い恰好を見せたいと言う一心で拡大解釈する。
たとえ相手が王族、そしてこれから相手にするのが国王であろうがリーンにとっては全く関係がなく、その辺りの暴走っぷりは以前のギルドマスターへの恫喝で身に染みて分かっていたはずのロイなのだが、根が優しいのか基本的に殆どを善で受け取ってしまう性格からか・・・何度目になるか分からない程の油断をブチかましていた。
ロイの中ではリーンも両親や兄、そして領地の民に意識が少しは向いているはずで、流石に国王相手に恫喝をかましたりはしないと言う性善説、今回で言えば一般常識の範疇なのだが、そう言った意識でいた。
「わかった。このリーンに任せておいて!あなたはこの商会の従業員。今も、そしてこれからも。これで良いのよね?」
「え?はい。僕は政には興味はありません。仮に国王になって家族が増えた時、権力闘争に巻き込まれる我が子が僕と同じ境遇になってしまうのかもしれないと考えると、民には申し訳ありませんが絶対に権力の有る様な立場にはなりたくありません。僕は、僕は・・・普通に民と触れ合えるこの商会で身を立てたいのです!」
リーンは最後の確認に全力で宣言したミラージュを見ると、優しく頷いた。
「良いわね貴方。その考え方は好きよ?私も大切なロイ君と家族を守れれば、それ以上の事は望んでいないの。フフフ、わかったわ。ロイ君のお願いもある事だから、このリーンが一肌脱ぐわよ。いらっしゃい!」
国王の事はあまり記憶にないのだが、今聞いた話しから想像するに未だこの商会内部に留まってミラージュを探しているはずだと確信しているリーンは、一先ずミラージュが国王に会ったと言う休憩所に向かう事にした。
「ロイ君はどうする?できればお姉ちゃんの雄姿を見てほしいけれど、少し暴れる事になるかもしれないから万が一が有ったら心配ね。う~ん、悩むわね!」
悩むポイントが普通の人とは大きくずれているのだが、ロイとしてはこの言葉を聞いて一気に不安になったので敢えて同行を願い出る。
「ね、姉ちゃん。俺も行くよ。ここは巨大な商会で警備体制もしっかりと整っているはずだから、安全だと思うし」
ロイの一言が伝わったダイヤキングからの願いで対策として表立った戦闘が得意なクラブの部隊を人目につかないように直接複数召喚する羽目になり少々疲労を感じているロイなのだが、リーンが暴走する可能性を考慮するとこの位は必要不可欠だと割り切って、無駄に笑顔のリーン、かなり不安そうにしているミラージュと共に歩いている。
全ての状況をリアルタイムで共有しているロイとカードの者達なので、ロイ一行が近接してきていると知ったダイヤセカンドは拘束を解除する。
「な、何が起こったのだ!」
「陛下。恐らく何らかの術によって我らの動きが阻害されたのです。正直どのような術なのかまでは判別する事はできませんが、可能性としては得体のしれない万屋が何かしら行動を起こしたと言う事も考えられます」
「!?・・・また万屋か。だが、ここまで来ては後には引けんだろう?」
比較的冷静に状況分析している密偵の言葉を聞いてはいるが、態々この商会までお付きの者達とやって来て手ぶらで帰る事などできない国王バレントは再びミラージュを探すための命令を下そうとするのだが、その視線の先には直近でも王城で見た事のある存在、相当有能で強力な力を持っている冒険者リーンと探し人のミラージュ、そして良く覚えていないが能力の名前だけは立派だが一切使えないと切って捨てた息子でもあるロイが見えた。
「向こうからやって来たぞ!当然だな。あまりにも高待遇になる事に恐れおののき混乱して逃げた事を恥じているのだろう」
勝手な解釈をして尊大な態度を崩さずにミラージュが来るのを待ち構えている国王バレントだがその予想は当然大きく外れており、ミラージュはある程度の距離でリーンから言われていた通りにロイと共に立ち止まり、リーンだけがそのままつかつかと複数の騎士、当然戦闘力の高い密偵にも守られている国王の元に近接する。
あまりにも平然と近づくので、密偵と騎士が敢えて進路方向に介入して動きを止める。
リーンはこの程度は薙ぎ払えるのだが一応周囲には新しくできたロイに似ている銅像に願いを呟きに来ている一般人がいるために自制している。
理解できているとは思うが、リーンはこの場にいる一般人への配慮も当然のようにしているのだが、最も重要なのはロイに似ている銅像に被害が無いようにと考えている事を付け加えておく。
「王城で会ってからそう時間が経っておらんが、この短い時間で再び相まみえるとは思っていなかったぞ?ハイス子爵家のリーン。余に何用だ?前回の不敬な態度の謝罪か?余は今その方と共にこの場に来た第二王子に王位を継承させるために忙しいのだ。謝罪であれば後日王城に来ると良い!」
国王としては普通の対応であり、これだけ大所帯で流石に自らを国王だと少々大声で名乗っているので願いを呟いていた者達も視線を向けている。
「あのねぇ・・・アンタ、親としてどうなの?普通は家族を守る為に必死に行動するのが父親なのじゃないかしら?生まれながらにして相当な権力と財がある存在であれば猶更でしょう?それをあれ程のブタを育てた挙句に勝手に切り捨てて、更には散々煮え湯を飲ませていた第二王子に王位を譲るって、ロイ君の事も有るし・・・頭大丈夫かしら?」
周囲の視線を一身に浴びているリーンなのだが彼女が気にしているのはロイの視線だけであり、当のロイは自らが所属する国家元首に対して事情はさておき何の迷いも無く平然と暴言を吐いて見せた姉リーンに愕然としていた。
冷静に考えればあの王城でも父であるヴァイスと共に暴言を吐いていたのだが、流石にここまで民の目がある中での暴言は国王としても引くに引けなくなるので抑えてくれるだろうと言う甘い考えがあったのだが、当然のように裏切られる。
大きく目を見開き口は半開きになっているのだが、その姿をさりげなく確認したリーンは自分の行動に感動してくれているのかと勘違いして更に暴走する始末だ。




