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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(79)国王バレントの決断

あいつ(ハンブル)はもうダメだ。こうなったら、国家存続の為に多少のリスクは飲み込むべきか?」


 第一王子であり次期国王であったはずのハンブルは万屋を名乗る存在によってオークの夫に成り下がっているので、気力、体力、精力、ついでに元からかなり少ない知力も日々吸い取られている為に真面に会話すらできない状態になっていた。


 その姿を目の当たりにしていた国王バレントは無駄に優しく日和見に見え、それでいて頭脳明晰の為に自らの立ち位置を脅かされると思い迫害していた第二王子のミラージュを再び担ぐ事を決意する。


「余が早期に引退すれば国家運営に時間をとられて余計な事をする暇もないだろう。それに、結果的にはあの中途半端な優しさがあれば余に対して何かをする事もないだろうな」


 リーンとロイを監視していた密偵からの情報ではミラージュが市にいる時にロイとリーン二人と接触し、遠目故に確定ではないが収納袋を渡されていたとの報告を受けていたので、しっかりと生存していると認識して騎士と共に離れに向かって移動しているバレントが目にしたものは・・・誰もいないし殆ど何も無い部屋。


 離れにあった家具等の中身については食料調達の為にミラージュが早々に売り払っており、唯一見えるのは薄汚い布団の様なものだけ。


「ちっ!態々来てやったのに、市から帰ってきていないのか?おい!戻ってきたら余に知らせろ!リーンが渡した収納袋の中身も気になる」


「はっ!」


 かなり匂う場所なので、ここに長くいたくない国王は騎士の一人にこう命じるとさっさと王城に帰って行く。


 ババを引かされた騎士は鼻が曲がりそうな匂いに顔を歪めるのだが、機嫌が悪くなっている状態の国王の近くにいる事も相当なリスクが伴うので甘んじて命令を受けてはいるが、なるべく離れから距離を取って刺激臭とも言えるこの匂いから逃げている。


 いくら待ってもミラージュが帰ってこないので、見落としたのかと思い鼻が曲がり涙まで出そうなほどの悪臭漂う離れの中に入って探し再び距離を取り監視を行う事を繰り返していたのだが、夜も更けてきたので一旦報告を入れる事にした。


「陛下に報告が・・・」


「お前、相当匂うぞ?そんな状態で陛下の前に行ってみろ。どうなるか想像できるだろう?用件は何だ。俺から伝えておいてやる」


 数回離れの中に入っただけで匂いが移ったらしく同僚の騎士から顔を歪められてしまったので、現状ミラージュは戻っておらずにその気配すら全くない事を報告してもらう事にした。


 当然翌朝改めて様子を見てもミラージュがいる訳も無く、その結果を聞いた国王の指示によって密偵が調査した結果行動許容範囲内、市にもいない事は把握済みなので、出向く事を禁止していた民が住む領域にまで探索範囲を広げていた。


「何?シン()ロイ商会とかぬかす、あのふざけた商会にいただと?」


「はい。おそらくですが・・・」


「貴様はその目で確認したのではないか?おそらく、とはなんだ?」


「恐れながら、ミラージュ王子の容姿は何と申しますか・・・相当爽やかになっておりまして、私が知る姿ではなかったのです」


 近年では薄汚れているミラージュの記憶しかないので、あれ程にさっぱりして小奇麗になっているのが少々信じられない気持ちでいる密偵。


 密偵と言う立場上本人も相当な汚れ仕事を長期間行う事がある為にその経験から体にこびりついた汚れや匂いはそう簡単に落とせない事を知っており、そのような状況に陥る可能性がある任務の時には事前に体を覆う膜を作成して任務終了後にその膜を剥したうえで、入念に洗浄して漸く人並みの生活に戻れる事を理解している。


 経験で得た知識によればそのような事前準備無しで自分でも経験した事のない様な状況に置かれていたミラージュが、僅か数日で劇的に変化した事が信じられなかったのだ。


 ミラージュが本人であると思い至ったのはかろうじて記憶に残っていた容姿と商会の従業員が当人をミラージュと呼んだからであり、呼びかけに答えるその声はまごう事なき第二王子ミラージュのものだったのだ。


「ならば、余自らがあの商会に乗り込んでやるわ。準備しろ!」


 国王としてもシン()ロイ商会の話しは嫌でも耳に入っており、王都にある事から相当な税を直接王城側に難なく納めている事も把握しているが、自らがそのような場所に赴く事は王族としてのプライドが許さずにいくら貴族達が商会の話しで盛り上がっても決して出向く事は無かった。


 今回はミラージュを連れ戻すついでに相当噂になっている商会を視察でもしてやるかと言う気持ちで、自ら出向く事にした。


「陛下。どうやら密偵の調査によれば、ミラージュ王子は商会の従業員になっているようです」


「は?王族が、一商会の従業員だと?」


 他の密偵が掴んだ情報を聞き、王族であり息子であるミラージュを半強制的に幽閉して劣悪な状態に晒し続けていた国王が言えるセリフではないのだが、王族が市井の者の下につくと言われているのと同義なのでここでも無駄なプライドが刺激されて機嫌が悪くなる。


「商会ごときが、王族を顎で使う・・・か。立場をわからせる必要があるな。だが、念のために万屋が直接あの商会に係わっていないかの調査は入念にするように直に伝えろ!」


 流石にあれほどの力を見させられ、唯一の希望だった第一王子を主に精神面で完全に破壊されてしまっては正面切って敵対するのは得策ではないと行動する国王。


「事前調査では万屋の噂は有りますが商会との繋がりは把握できておりませんし、あの商会の中にいる者達が現時点で接触している様子も見受けられません」


「そうか。万屋の噂は貴族の市でも聞こえてくるから、その程度であれば問題ないだろう。だが、念には念を入れて数日調査を継続しておけ!視察の準備も怠るな!」


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