(7)ロイの門出
ハイス子爵家の環境が激変し、元の状態に戻る勢いが付きすぎて劇的に改善されてから既にある程度の時間が経過している。
ヴァイスを含めて何がどうなったのかは誰も理解できなかったが結果として地下には高価な品々が何故か大量に積まれており、更には不可能と思われていたリーンの完全復活、ルホークへの無駄な依頼もリーンの復活を喜んでいる僅かな時間に全てが終了していた。
正直助かったとの思いが強いハイス子爵家の面々だが、だからと言って過剰に復活を主張してはより一層苛烈な悪事が襲い掛かると理解していたので大人しく生活をしている。
冒険者として活動しているリーンもそのまま行動しているのだが、この頃になると流石に王族達も完全に飽きが来たのかハイス子爵家に対する悪事は鳴りを潜めている。
「ロイ君、本当に行っちゃうの?」
「えっと、何時までもおんぶにだっこじゃダメじゃないです・・・ダメだから、一般人として世間を知りつつ活動しようと思うんだ!」
教養的には不足しているし知識も無いのは事実であるので、これ以上ハイス子爵家に迷惑はかけられない事もあって自立する事を決意したロイ。
この頃にはすっかり子爵家で家族としての生活に慣れていたので、時折邸宅内を散策している際に子爵一家がこっそりと色々と話している内容を聞いてしまった時があり、申し訳ない気持ちになった事も一つの切っ掛けになっている。
その内容とは・・・ロイは国家から能力有りと判定されつつも全く使いこなせるに至らないゴミと認識されていたのだが勝手に連れ帰った挙句に養子にまでしたハイス子爵に対して王族が良い感情を抱くはずも無く、子爵と言う爵位の低さもあって様々な嫌がらせを過去に受けており今は改善されているが、次があった時にはどうすべきかの対策を話していた。
自分が独立した事を国家が把握すれば子爵家に対する嫌がらせを行う必要が無いのではと言う淡い期待もありつつ、見分を広げる良い機会だと独立を曲げる事はなかったロイ。
ついにハイス子爵が、ロイの決断を支持する。
「・・・本当は心配だが、ロイの決断を支持しよう。だが忘れないでほしい。ロイもハイス子爵家の一員。いつでも頼りにして良いし帰って来ても良いんだぞ?」
「ありがとうございます。お父さん!」
何処までも優しい養父に感謝しつつ独立の第一歩だと気合を入れるロイは、貴族の爵位を継げない面々や市民が稼げる職業・・・ハイリスクハイリターンと言われている冒険者として活動するのではなく、その冒険者を統括する立場のギルドと呼ばれている組織の職員になる事を決意する。
王族としての最低限の教養とハイス子爵家に来てから家族や使用人達から学んだことを活かせれば、多少の苦労はあってもしっかりと業務を遂行できるだろうと考えていた。
予想通りに業務の内容を事前に調査していたロイは無理なく仕事ができると判断して行動した結果、王都のギルドに無事就職する事が出来た。
この頃になっても全く能力発動の気配すらないと思われているので流石に王家としてもロイへの関心は全くなくなって何の妨害も無かった結果なのだが、だからと言ってハイス子爵家の立場が良くなったわけではない。
こうしてロイはハイス子爵家から独立し、ギルド職員としての新たな一歩を踏み出して生活を始めた。
ソシケ王国と呼ばれている国家の王都にある、冒険者ギルド。
この世界には冒険者と言う職業が存在しており彼等は日々体を張って命がけで仕事をしているのだが、その仕事内容は多岐にわたり小間使いから外敵排除、素材・食料の入手等様々で、そう言った人々を管理している組織がギルドだ。
達成難易度によって得られる報酬が異なり、実はその冒険者の受付を担当した者に入る手数料も異なってくる。
こうする事で受付も冒険者を大切にして育てて行こうと言う気持ちになるのだが、どうしても例外は発生する。
例えば・・・何時まで経っても小間使いの依頼しかこなせない冒険者もいるし、逆にある程度の地位を得てしまって直接冒険者と交渉する事が無くなったギルド職員もいる。
「おい、ロイ!お前、昨日の上りはなんだ!一昨日の十分の一だぞ!やる気あるのか?」
朝も早くからがなり立てているのはこのギルドのトップ、ギルドマスターであるクノデラと言う男。
かなり前に冒険者として活動しておりその後ギルドの職員、更にはいつの間にかギルドのトップになっていた存在で、以前は冒険者だったと言っても誰も信じられないような体形・・・所謂小太り状態になっている。
ギルドマスターになればその日のギルド総売り上げが報酬に直接響くため、先日の売り上げが非常に悪かった受付担当のロイを叱責している。
受付側から言わせれば冒険者は気の向くままに行動する者がほとんどなので安定した成果を出してくれる者などそうはおらず、逆にどうすれば良いのか聞きたいと思っている。
「そんな程度だからお前はハイス子爵家も追い出されたのではないのか?実家とは上手くやっているなどと言っているらしいが、怪しいな」
「そんな事を言われても困りますね。それに昨日は最も高難度の依頼をこなしてくれる人物が依頼遂行の為に移動する日なので、成果が下がるのは当然ですよ?」
「お前、ギルドマスターであるこの俺に口答えするのか?知っているぞ。御大層な能力・・・鑑定の結果出たお前の能力、かの有名な“収納魔法”だったそうだな。だが何一つ収納できないので、出せる物も何もない本当のクズ能力。そんな能力しかないから王族だけではなく子爵家からも勘当されたんじゃないのか?」
ギルマスであるクノデラが言う通り、収納魔法と言う能力は非常に貴重で希少だ。
国王が臆病なのか慎重で冷静なのかは不明だが、過去の慣例から貴族を含めて能力者は国家の管理下に置かれる。
国家繁栄の一助として管理する事も確かなのだが、あまりにも強大な力を持っている者が現れた場合には危険な能力が完全に覚醒する前に首輪をつける意味もある。
その中で収納魔法については少々扱いが異なる。
国家自体を直接的に危機に晒すような能力ではないのだが、その者達を国家お抱えとする事で国家繁栄の為の道具としている。
この収納魔法は行使に多大な力を必要とするので、この力を持つ者は他の一切の能力を持てないと言う事が一般的な知識として広く知られている。
もちろんロイが収納魔法持ちだと鑑定された時には、ロイは王城で王族として良い暮らしをする事が出来ていたのだが・・・何を収納しようとしても入れる事が出来ない、そもそも能力を発動できないと言う散々たる状況であったために比較的早い段階で立場は激変していた。
「しっかりと他の能力を持てないところだけは、立派な収納魔法だな!ハハハハ」
クノデラは気が済んだのか、捨て台詞を残して受付を後にして自室に戻って行く。
「ロイ、気にするな。金にガメツイ男のヒステリーだ。それに俺達はロイが家族と仲が良いと言う事は誰もが知っている。と言うより、クノデラも普通理解できると思うのだが・・・なぁ?」
同僚の一人がロイを慰めてくれたのだが、最後は少し微妙な表現になっている。
その理由は・・・
「おっまたせ~!!ロイ君のお姉ちゃんがやってきましたよ!ねぇねぇロイ君!昨日私と会えなかったから寂しかった?フフ、ごめんね!急いで古龍の爪を取ってきたから!そうそう、古龍とは仲良くなったから次からは同じ依頼であればもっと早く帰って来られるよ?嬉しいでしょう?ロイ君。今日はこれでロイ君のノルマも達成かな?一緒に朝ご飯を食べに行こうよ!」
ギルドの扉が激しく開く音がしたと同時にロイの前にまるで瞬間移動のような速度で移動して一気にまくしたてる女性・・・少々小柄で垂れ目の可愛らしい顔をしており、やや長い金髪を靡かせてその綺麗な金目でロイだけを見つめている。




