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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(78)ミラージュ脱走(2)

 記憶にない程に気持ち良く目覚める事が出来たミラージュはいつの間にかゆったりとした服に着替えさせられており、正直あちこちが痛いし痒かったのだがその全てがすっかり治まり肌も綺麗になっている事に気が付く。


 実はいつの間にか完全に着替えさせられた事、体中綺麗になっている事に少々恥ずかしさを覚えたのだが、それ以上に喜びが勝っていた。


「お目覚めのようですね。体調の方は如何でしょうか?」


「え?あ、はい。とても良くなっています。その・・・色々として頂いたようで、申し訳ありません」


 部屋に入ってきたのは、王都のシン()ロイ商会を切り盛りしているカードの一人であるダイヤエース。


 王族として数多の貴族を見てきたミラージュから見ても頭数個突き抜けているほどに美しい女性なのだが、逆にそのような存在に色々してもらったのだと理解して更に恥ずかしくなってしまう。


「いいえ。貴方は万屋から依頼された大切な方ですから、当然の事をしただけです。では早速他の従業員を紹介いたしますので、食堂に来ていただけますか?あ、そうでした。今日からこの部屋はミラージュさんの部屋になりますので、自由にお使いください」


 一気に話が進んでいるのだが現実的にあの王城から逃げられているし、しっかりと万屋から商会に話しが通っている事を理解して安堵しつつ、自らの部屋になると言われたこの部屋を見回す。


「この部屋を?僕が使わせて頂いても良いのですか?」


「はい。万屋と、そして神たる我らシン()ロイ商会の商会長の御指示ですので、使用して頂かないと私達が困ります」


 短いながらも離れで過ごす前にはしっかりとした部屋で過ごしていたミラージュから見てもこれほど綺麗で過ごしやすそうな部屋は見た事がなく、王城とは異なり無駄な装飾品は少ないながらも素人目から見ても適切に配置されているように見えた。


 部屋の中に適度に設置されている装飾品については王城のそれよりも遥かに高級な品であったりするのだが、その辺りにはあまり興味が無いので深い知識を持っていないミラージュ。


「では早速ご案内いたしますね?少々広いので暫くは案内いたしますが、一人で行動されて迷ったときには遠慮なく誰かを大声で呼んでください」


「え?は、はい。そうならないように、頑張ります」


 行動範囲は狭いながらも王城で迷った事は無いのでそうならないだろうと安易に考えていたミラージュは中々食堂に辿り着けない事に焦り始め、本当に誰かに助けを求める様な事態になりかねないと必死に道順を覚えようとしている。


「フフ、大丈夫ですよ。暫くは誰かが案内につきますから」


 前を歩きながらも背後にいるミラージュの事など容易に把握できるダイヤエースは、振り返らずに優しく声をかける。


「あ、ありがとうございます。なるべく早く覚えますので、よろしくお願いします」


「はい。もう直ぐ着きますが驚かれる前に少し説明させて頂きますと・・・なんと申しましょうか、このシン()ロイ商会の従業員の一部、住み込みで働いている者の一部は私と血が繋がっておりまして、瓜二つとよく言われます。ですので私にそっくりな者が二名おりますが驚かないでくださいね」


 ここまで美しい存在が合計三人いると聞いてどれほど優れた遺伝子を受け継いだのか、自分の兄はあのような状態なのに!と少しだけ落ち込んでしまうミラージュをよそに、目の前にある大きな扉を開くダイヤエース。


 そこには説明していた通りに全く見分けがつかないダイヤセカンドとダイヤサードもおり、他はこの商会周辺に住んでいる一般の従業員も含めて面通しの為に集められていた。


「彼方の二人が私の血縁です。正直誰も私達の事を見分けられませんので名札を見て呼んでいただいても結構ですし、間違っても良いので適当に呼んでいただいても結構ですよ」


「そ、そんな。名前を間違えるなんて・・・でも、正直そうなってしまうかもしれませんね。失礼ながら、本当に申し訳ありませんが違いが判りませんので」


「ふふ。皆さんそうおっしゃいますので、本当にお気になさらずに。この王都以外の商会にも同じ血縁がおりますので、そちらに向かった際にも適当に呼んでいただいて結構ですよ」


 そう言われたミラージュは改めて目の前のダイヤエースを見ると確かに胸元に“ダイヤエース”と書かれている名札をつけていたのだが、その名札も当然ダイヤ部隊作成の逸品である為に何故か落ち着いた、そして高価な雰囲気を醸し出していた。


 この世界ではダイヤだのハートだのと言ったトランプの概念が無いのでそのままの名前を曝け出しても誰も不思議に思うような事は無く、以前ハートエースが名も無き集落でエースと名乗っていたのも修正されて今ではそのままハートエースと名乗っている。


「今日は従業員の紹介を行った後、申し訳ありませんが安全の関係上商会の敷地内で自由に行動して頂く時間とさせて頂きたいと思います」


「え?今日から仕事をしなくても良いのですか?」


 とても王族の言葉とは思えないのだが、一般常識はしっかりと身に着けていたミラージュなのでこのような事を本心から返す事が出来る。


「えぇ。まだ疲れも抜けていないでしょうから、今日は好きにお過ごしください。店の中にも休憩できるスペースが多数ありますから、適当に散策するのも良いかもしれません」


 その後は食事をしながらそれほど多くない従業員と顔合わせをしてから言われた通りに広大な敷地の商会を散策したのだが、あまりにも広く、そして販売品目が多いので少々人に酔ってしまい、これだけの商会をあの人数でどのように処理しているのか不思議に思いつつ休憩コーナーで休んでいる。


「今日はしっかりとポーションを購入できたぜ。一時期少しだけ品薄になったからな。あの時は心底焦ったぜ!」


 近くにいる冒険者達が話しをしているのを漠然と聞きながら休んでおり、ここで本当にあの劣悪な環境から逃げて新しい人生が始まったのだと胸が熱くなっていた。


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