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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(74)王都にて

 王都の邸宅に戻ると王城での不敬と言う言葉では生ぬるい態度をとり続けていた父と姉が反省や後悔の無い普段と変わらない態度になっているので、やはり自分の常識が世間一般とは大きく乖離しているのかと思っているロイは久しぶりに自室に戻って寛いている。


「こうしてみると、王都って平和だよね」


「本当にそうだよね。一緒に少し散歩でもする?」


「うわっ!?姉ちゃんいつの間に!」


 何となくボーっと窓から外の景色を眺めていたロイなのだが、独り言に反応されて驚く。


「えへへへ、ロイ君に会いたくて来ちゃった。ルホーク(にぃ)にも連絡がついて、何をおいても明日の夕飯はロイ君と一緒に食べるためにこっちに来るって!」


「え?ここから領地って、そんなに早く到着するっけ?」


「もう出立しているみたいだから、一日中休まず移動すれば大丈夫でしょ?」


 ここでも良く分からない事を言われて改めて常識が変わったのだなと思いつつリーンの申し出を断っても別の申し出があるのは間違いないので、それならば散歩程度であれば被害は少ないはずだと半ば諦めの気持ちで了解する。


「そうなんだ。わかったよ、姉ちゃん。じゃあ散歩に行こうか?」


「やった!どこに行く?何食べる?何が欲しい?ウフフフ、楽しみだなぁ!早速、行こ?」


 貴族の邸宅がある場所は民が住む領域に近い場所であっても治安が非常に良いのが当たり前であり、店も相応なレベルの品や対応が求められる。


 ロイとしてはあまりこの周辺の散策を積極的に行った事は無く、比較的早い段階でギルドの有る場所の近くで一人暮らしをしていた事からある意味新鮮な感覚で周囲を歩き、リーンのこれ以上ない程の過剰接待を受けていた。


「我が主。今の所危険はないですが、つけられております」


 そこにリーンにすら聞こえないようにスペードキングから情報を得たロイは、国王とのやり取りを見ればこうなるのも仕方がないだろうと肩をすくめる。


「ロイ君?肩こっちゃった?お姉ちゃんが揉み解してあげようか?」


「え?いやいや、大丈夫。何となく動かしただけだからさ」


 目ざといリーンに驚きつつも、そのリーンですら察知できない気配を難なく掴むカードの者達の能力に改めて感心しているロイ。


「あれ?ロイ君。あっちが少し騒がしいね。確かあっちには貴族向けの市があったと思うけど、行ってみよう?」


 リーンに対して否と言う選択肢はないので、ざわついている場所に向かうロイ。


 今の所カード達が危険を知らせるような事が無いので何も問題ないと判断してリーンの後を追って行くと、そこには立派ではあるのだが相当汚れている服を着ている男性が周囲の者達から罵声を浴びせられていた。


「おい、出来損ない!ここはお前の様に父に捨てられた存在が来て良い場所じゃない。さっさと消えろ!」


「そうだそうだ。匂うんだよ!お前には残飯がお似合いだぜ!」


 ロイとしても非常に不快になる言葉なので表情が変わってしまい、その表情を見たリーンの表情も変わる。


 知っての通りリーンはロイ至上主義なので、ロイがこの状況を見て不快に思ってしまった事が許せずにいた。


アンタ(・・・)達、私の目の前で良い根性しているわね。すり潰されたいのかしら?」


 ソシケ王国の王都で知らない人はいない程に有名になっている、ハイス子爵家の長女である冒険者リーン。


 そもそも収納魔法持ちの時点で国家の重要管理対象者になるため相当有名になっているのだが、更に通常では使えない他の魔法まで使いこなしている挙句に古龍まで手懐けて見せたのだから、どの様な立場の者でさえその存在は知っている。


 ある意味雲の上的な存在であるハイス子爵家の長女、冒険者リーン・ハイスを知らなければ国民ではないと言っても過言ではない程なのだが、その女性がどう見ても怒りの表情を伴って突然現れたのだから薄汚れた服の男に意識が集中していた者達は蜘蛛の子を散らす様に慌てて去って行く。


「はぁ、ここも落ちたわね。一応貴族に名を連ねる者、関係者しかいないはずなのに。で、貴方は何故あのような状況になっていたのかしら?」


 リーンは貴族に対して興味が無く、目の前の男性がどのような存在であるかなど分かるはずもないのでストレートに問いかける。


「ぼ、僕は、聞いての通り親に見放されたので一人で食料を買う必要があります。ここ以外の場所に行くのは立場上許されていない為に食料を購入しようとしたのですが、御覧のありさまで困っていました」


「わかったわ。貴方もどこぞの貴族でしょう?その立場を失っても生きていける位に強くならないとダメだと思うわよ?」


「仰る通りです。リーンさん」


 この男性にもリーンの名前は知られているようで、その流れで行くと当然弟の特殊な収納魔法持ちのロイの事も知られているのだが、自らも迫害されていると言って良い状態になっているからかロイを見下すような視線を向けるような事は無かった。


 貴族、特権階級の者であれば当たり前のようにロイの情報を持っているので程度の差はあれ見下す態度になりがちなのだが、そのような気配すらなかった事からロイ成分を補充し続けて幸せになっているリーンは余裕があるのか赤の他人を助ける事にした。


「あら?貴方は見込みがあるわね。気に入ったわ。はい!コレを持って行って!」


 料理の数々と服が入っている収納袋をその場で譲渡して、笑顔で去って行ったのだ。


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