(73)いろいろ痩せた王子ハンブル(2)
何も知らない体で挨拶をしているハイス子爵だが万屋から声だけの接触があり、クズ王子には本物のオークを与えている事、この状況を改善してほしければリーンとの話しを白紙にして謝罪する事が最低条件である旨を伝えていると教えられている。
「そ、そうだった。その方達を呼んでいたのは他でもない。次期国王である第一王子ハンブルの件だ。以前ハイス子爵にはリーンを迎え入れると言ったのだが、アレはなかった事にする。こちらとしては善意だったのだが、万屋とか申す訳の分からん組織からクレームが入ったのでな」
国王としては素直に謝罪する事は出来ないので中途半端な言い回しになるのだが、それを許すリーンではない。
「はぁ?それが謝罪?確か、ブタの相手としてお似合いの伴侶オークを見つけてよろしくやっているんでしょ?それを解除するには、私達に謝罪をするのが条件になっているはずだけど?」
「な!?何故それを!!」
必死になって秘匿していたオークの件が明らかになっているので非常に焦ってしまうのだが、次のリーンの一言で黙り込む。
「知っていて当然でしょ?当事者なのだから、こっちにも万屋が接触して情報を渡していると想像できないのかしら?」
王族と話すような口ぶりではないのだが、この場で最強なのは古龍すら従えるリーンと認識されているので反撃する術を持たない国王バレント。
「私ね、ちょっとブタとブタの組み合わせに興味があるんだ。そっちの部屋から気配がするし、匂いもするから見させてもらうね?」
我が物顔で部屋の中を歩いて扉を容赦なく開けると、そこには痩せたブタと魔獣のオークがおり、第一王子のハンブルはオークの腕の中に強制的に抱えられて生気を失ったかのような目をしていた。
「ぷっ、あははははは、お似合いじゃない!!えっと、万屋からの情報によれば、私達が許せばオークを追い出すって事だったっけ?お父さん」
「プクク・・・コホン。そ、そうだね、リーン。許すかどうかは当事者のリーンが決めると良いよ。私から見ても似合っているように見えるから、相思相愛ではないかな?」
「あははは。本当にそうだよね、お父さん。きっとお父さんとお母さんの様に仲良くなれると思うわ!」
もう王族を敬う気がないのか今後どの様な反撃があるのかまで考えが至っていないのか、二人の態度を見て色々不安になるロイだが、リーンやハイス子爵としては結果的にロイの旅の邪魔をする事になってしまった今回の事が許せず、立場上臣下としての義務を最低レベルで果たせばそれ以上の配慮をするつもりは爪の先程も無かった。
過去とは異なり今後王族からの当たりが強くなろうが攻撃されようが領民を守りつつしっかりと迎え撃ってやると言う気持ちがあり、それはひとえに最強冒険者のリーンの存在があるからで、勿論それ以上の力を持っているロイの事は把握できていないので頼るつもりはなく寧ろ最大限に庇護する対象だとの思いが強い。
この場で二人がロイに話しを振らないのはロイを余計な争いに巻き込む可能性を少なくする為で第三者的に見れば今更感は拭えないが、親と姉としてこれも良い経験の一つと割り切っている。
「ば?おい!この惨状を見て人として何か思う所はないのか?どう見ても魔獣だぞ?人ではないのだぞ?」
「え?私の目には男の方も人ではないように見えますけれど、違っていますか?陛下。これでも私は冒険者と言う立場上、目は相当良いのですが?」
一切遜る事をしないリーンだが、この場にいる国王の守護神とも言える近衛騎士であっても古龍に単独で立ち向かえる程の実力は持っていないので睨むような視線を向けるだけで動く事は無い。
「き、貴様・・・」
流石にここまでコケにされては謝罪などできる訳も無く、もう少しだけつつけば爆発直前にまで怒りのマグマを溜めている国王バレント。
そこにハイス子爵までもが再び参戦してきた。
「おや?私が万屋から聞いていた流れとは異なるようですね、陛下。私が聞いているのは今回のリーンを妾にすると言う暴言の謝罪があると聞いておりましたが、違うようでした。非常に残念です。これ以上こちらに滞在して新婚のお二人の邪魔になるのも憚られる為に、一応臣下として呼び出しに応じる義務を果たした以上は、私達はこれで失礼しますよ?」
「ま、待て!ハイス子爵!!万屋と名乗らせている部隊はその方の私設の部隊か?なれば、その部隊を王家の我らに譲渡せよ!」
息子云々は後にするとしてハイス子爵が持っている謎の力の源、今回も無駄に自信満々な態度を崩さないのもリーンと万屋と言う力が有ってこそ、寧ろリーンも万屋の一員なのだろうと判断した国王は、その力を我が物にせんと命令をする。
「仰る事、全く理解できません。万屋と言う名前だけは知っていますが声しか聞こえてきませんし、どの様な組織なのかも分からないので譲渡のしようがありません。お疑いでしたら私達の身辺調査をして頂いても結構ですよ?いいえ、陛下の事ですのでもう既に調査をしていると思いますが・・・真実は既に知っているのではないですか?」
ハイス子爵の指摘通りに身辺調査を隈なく行っていたのだが、万屋の情報を得る事が出来ずにある意味賭けに出た結果あえなく敗退する国王。
「では、私達はこれにて失礼させて頂きます。お幸せに!」
「ブフォ―!」
どう見ても万屋、つまり自らのカードの力でこの大惨事を生み出したと把握したロイは少しだけ本当の兄である王子が可哀そうに思っていたのだが、姉であるリーンを妾にするだのふざけた事を言っていた事を思い出して父と姉と共にこの部屋から出て行く。
残されたのは近衛騎士達と国王、そして生気がなく太っているのに痩せていると言う謎の状態になっているハンブルとその伴侶のオークであり、国王は第一王子を見てこう呟く。
「コイツはもうダメか」




