(72)いろいろ痩せた王子ハンブル(1)
「た、ただいま」
「ただいまー!ロイ君と一緒に戻ってきましたよ~」
一月以上は経過しただろうか、色々と思う所がある上に逃げるように王都から旅立ったので少々バツが悪いロイと、長い間ロイと共に行動できて元気いっぱいのリーンが王都のハイス子爵家邸宅に戻って来た。
出迎えたのは両親であり、兄のルホークは執務に忙しく領地にいるので王都の邸宅であるこの場には来られない。
「お帰り。二人共心配はしていなかったけれど、元気そうで良かったよ。ロイにとっては予定外かもしれなくて申し訳ないけどね」
ある意味勝手にギルドを辞めて旅立ったのだがそこには触れずに優しく出迎えてくれるハイス子爵としても、本来はロイまで王都に戻る必要は無いと思っていたのだがそうなると絶対にリーンも戻ってこないのは火を見るよりも明らかなので、半ば無理やり王都に戻した事に対する後ろめたさがあった。
「元気そうで嬉しいわ。ロイくん、リーンちゃん!」
母であるテレシアも久しぶりの我が子二人を見て嬉しそうにしているのだが、リーンとしては無駄な用事はさっさと済ませて再度ロイと二人で旅をしたいと言う気持ちが大きいので、戻って来て直なのだが王城に向かおうとする。
「お父さん。あのブタの対処に行くのでしょう?さっさと行って帰ってきたいな。私にはロイ君と旅を続けるって言うこれ以上ない程重要な用事が待っているから、些事は早めに片付けたいの!」
「そうだね。せっかくの旅を邪魔してしまったから、さっさと片付けておこうか」
「本当に迷惑な話しですよね?これも貴族としても務めの一部である以上は、仕方がありませんけれど・・・」
両親と姉の会話を黙って聞いているロイなのだがまるで王族に対して敬意が無いばかりか自分との旅の方が比較にならないほど大事だと聞こえてくるので、やはり自分の常識がおかしいのではないかと言う気持ちに襲われている。
「では、早速行くか?リーン。テレシアは待っていてくれ。ロイは・・・」
「ロイ君はどうする?お姉ちゃんと一緒に行く?」
「え?俺って、必要なのかな?」
突然話しが進み、王城にこれから共に向かうと誘われて動揺するロイ。
普通であれば国王や王子と言った王族との謁見が“これから行きます!”と言って受け入れられるものではない事位は知っており、そこを完全に無視している二人に対して不安そうな視線を向ける。
「ロイ君。お姉ちゃんがいるから何があっても大丈夫だよ?何かあったら、あのブタを含めて全部粉々にしてやるから安心して!」
「えっと、全然安心できないけど・・・父さんは俺が行った方がいいと思う?」
「う~ん。経験を積むと言う意味では同行するのも有りだとは思うから、一緒に行くかい?でも、王城の面々に対して色々と思う所があるだろうから強制はしないよ?」
ハイス子爵の中では言葉の通りにロイに経験を積ませると言う意図も確かにあるのだが、本当の父親から受けた仕打ちを思い出す可能性に思い至り、強制ではないと付け加えている。
もう一つ、リーンが王城で暴れた際にはロイがいた方がその場を収めるのに力になると言う思惑もあるのだが、ロイとしては確かに見分を広げる旅に出ていた事もあって中々経験できない事だと父であるハイス子爵の申し出を受ける。
「そうだよね。うん、わかった。俺も同行させてもらおうかな?」
「やった!ロイ君と一緒だ!じゃあ、行こ?」
何をしに行くのかはどうでも良くロイとどこかに一緒に行けると言う事に喜んでいるリーンを見て、ハイス子爵はこれであれば暴れる事は無さそうで自分の考えは正しかったのだと確信して王城に向かう。
「子爵のハイスだが、陛下にリーンと共に来たと伝えてもらいたい」
王城の入り口では当たり前のように衛兵に止められるのだが、どうやらハイス子爵一行の訪問を心待ちにしていた王族側から指示が出ていたようで伝令が走ると同時にハイス子爵一行は入城を許されていた。
「あれ?陛下に確認しない内に入って良いんだ」
思わずロイが呟いたのだがリーンやハイス子爵は思う所があるのか、さも当然のような表情を崩す事は無い。
「こちらでございます」
「ありがとう。いつもの謁見の間ではないんだね?」
「はい。陛下からハイス殿一行が来られた際には、即こちらにお連れするように言われております」
騎士に案内されたハイス子爵は謁見の間ではない場所に案内された事に不思議そうな顔をしているのだが、リーンは正直この場所がどこなのか分からないし興味もないので何も思う事は無い。
―――ガチャ―――
軽い音と共に扉を開けた騎士は三人の入室を促すと、中には少々疲れた表情の国王バレントが座って待っていた。
「おぉ、待ちかねていたぞ。ハイス子爵よ!それとリーン。もう一人はロイか」
「そうです。で、リーンが戻った際には王城に至急来るようにとの命令通りに来ましたが、今日はどう言ったご用件でしょうか?」




