(71)あの時の王城
国王は謎の二体が目の前にいるのに何時まで経っても衛兵が来ない事に焦りを覚えている様なのだが、唯一の出入り口はその二体がしっかりと塞ぐように立ち塞がっている為にどうすれば良いのか分からず右往左往しているように見える。
一方の王子ハンブルは、素顔は見えないながらもとても可愛らしく凛としたハートクィーンの声が聞こえていたのでその巨体を軽く揺らしながら全く危機感なく笑っている。
「流石はブタですね。欲望だけに忠実で何も考える事が出来ない。そんな貴方に相応しい異性を、万屋の一従業員であるこの私が紹介して差し上げましょう」
「ぐふぅ。俺に相応しい異性・・・受け入れられるべき理想は高いぞ?中途半端な存在ではこの俺が靡く事は無い!」
何故か自分が選ぶ側で異性が自分を渇望しているかのような言い分なので呆れてしまい少し動きが止まってしまったハートクィーンだが、何とか気を取り直す。
「大丈夫です。貴方に相応しい存在が私の横にいるのですから」
共にベールで完全に顔を覆うと同時に外套を纏い体形すら理解できない状態にしているのだが、ハートクィーンと比べて相当大きな存在である事だけは隠しようがない。
「随分とデカいが・・・ぐふふ。見た目が良ければ受け入れてやらない事もないぞ?」
すっかり国王は黙り込み王子ハンブルと謎の人物との会話を聞いているだけなのだが、国王としてはこの非常時とも言える状況でも堂々と対応できる素晴らしい息子、次期国王に相応しい存在になったと思っている。
実はこの王城には追放されていない息子がもう一人いるのだが、こちらは非常に真面目で野心がなく甘いと言う事で王位継承候補からは外されて離れで過酷な生活をしている。
極論を言うと無駄に欲望丸出しの王子ハンブルの方が愚王バレントにとって扱いやすく、更には野心家であり国家繁栄の為に必要な存在であると認識された結果だ。
余談はさておき、この状況下でも余裕の態度を崩さないハンブルを見て自らの選択は間違っていなかったと無駄に自信を持つところは“どっちもどっち”なのだが、ハートクィーンとしては徐々にイライラしているので早く任務を終了してロイの元に戻りたいと思っている。
「では紹介しましょう。ブタに相応しい相手はこれしかいないと確信し、我ら万屋が準備しました」
「ブフォォー!!」
ハートクィーンが一気にベールと外套を取り去るとそこにはまごう事なき魔獣のオークが存在しており、ソファーに深く沈んでいるハンブルを見て興奮したかのようなとてつもない声を上げる。
「うわぁあああ!」
国王は情けなくも悲鳴を上げて頭を抱え、ハンブルはその体型からかソファーから即座に立ち上がる事が出来ないので無様にもがいている。
「それ程喜んでいただけると万屋としても嬉しいかぎりです。さっ、隣に座って差し上げなさい。まだ手は出してはダメですよ?」
「ブフォ!」
―――バキバキ―――
完全に人の言葉を理解しているようで涎を垂らしながらハンブルの隣に寄り添うように座ったオークなのだが、二体の体重を支えられずにソファーの足は一瞬でへし折れた。
座の部分が壊れているわけではない事に加えてそもそもオークは身体能力が高いのでこの程度でバランスを崩す事は無い為に、無駄にハンブルを支えてあげる様な姿勢を維持している。
「あらあら、随分と仲が良いではないですか。どちらが人か・・・正直区別がつかない程ですから、短い時間で仲が良くなるのも当然ですね。同族意識があるのでしょう。さぁ、ここでいくつか忠告です。一度しか言わないので良く聞きましょう」
何をどうして良いのか分からない様子だが、一応話しは聞く事が出来る状態にある国王バレントに対して説明を始めるハートクィーン。
「一つ。ハイス子爵家に出していた妾の件ですが、これほど立派な妻を娶った以上は不要でしょう?直に撤回しなさい。一つ。強制的に妾にするなどと言う言語道断の行い、直接本人に謝罪しなさい。一つ。この次期王妃に攻撃をした場合、万屋の全力をもって王族全てを叩き潰します。次期王妃から攻撃をする事はありませんが、だからと言って雑に扱っても同じですよ?我ら万屋の力を信用しないのであれば試してみるのも止めはしません。ハイス子爵家の温情があれば何時かは次期王妃との離縁も可能かもしれませんね。ではお幸せに」
その後、しっかりと視線を固定していたのだが霞の様に消えてしまったハートクィーンを見て、王族全てを叩き潰すと言う言葉は脅しではなく実際にできる力を持っていると嫌でも理解してしまった国王バレント。
これだけ騒ぎになっても扉のすぐ外に控えている騎士達が守りに来ないのも異常なのだと改めて認識しつつ、無駄に肥え太っている巨体を更なる巨体が抱きしめている状態を力なく見つめる。
「確かに、一切攻撃を仕掛ける様子は見られない」
正直有り得ない事が起りすぎて、そこじゃないだろう!と突っ込みたくなるような言葉を発してしまった国王バレントだが、何時までもこのままと言う訳にはいかずに奥の部屋に移動する様に声をかけてみる。
「その方、あちらの部屋に移動してはどうか?」
そこは巨体の王子ハンブルが苦も無く生活が出来る様な広い専用部屋であり、更に巨体のオークがいても問題なく潰れたソファーのように強度不足に陥る家具もない。
「ブフォ!」
わかった!とばかりに返事をしてハンブルを抱えたまま奥の部屋に消えて行くオークを見て、何を勘違いしたのか無駄に野心が湧いている国王バレント。
「・・・早くハイス子爵に連絡を取らねばならんな。しかし万屋。恐ろしい程の力の持ち主だ。逆に言えば、その力を手中に収める事が出来れば」




