(70)王都に戻らざるを得ないロイとリーン
「え~、ちょっと不安だから読みたくないけど」
「あははは、大丈夫だよ!ロイ君。子爵家に何かある訳でもないし、しっかりと王族に罰を下してくれた内容が書いてあるだけよ。あっ、でも一応関係者だから、一回王都に戻らないといけなくなっちゃった。急ぐ事は無いからゆっくり旅を楽しみながら行こうね?もちろんその後はもう一度旅をするの。フフ、これで予定以上に一緒に旅ができるわね。すっごく良い仕事するじゃない、万屋さん!」
旅の道中に実家から王族に起こった事象の説明の手紙が送られて王都に戻る必要があると告げており、リーンとしては数日前にロイと合流したのだが面倒と思う事無く王都から合流地点までの旅も一緒にやり直す事が出来ると期待に胸を膨らませていた。
「え?まぁ、ウチに影響が無いのならば・・・でも、折角ここまで来たのに戻るのって、正直面倒ではあるけど」
少々文句を言いながらも、これでどう頑張っても先行しているスーレシア達に会う事は無いだろうと思いながら手紙を読み進めるロイ。
その手紙にはこう書いてあった。
<リーン。どうやらそっちにも何とも不思議な万屋が接触したようだが、王子との関係についてしっかりと対応してくれたので安心してほしい。が、少々問題が起きた。一応子爵家は王家の家臣であるが故、ここまでの惨状になってしまっては対応せざるを得ない。万屋は自分達の常識では考えられない力を持っているようで、あの王子に対してそこまで異性に飢えているのならば!と、代わりの存在を強制的に与えたようなのだが、それがオークなのだ。それも本物の魔獣であるオークでしっかりと調教済みらしいのだが、このオークを排除すれば万屋として罰を与える。解除して欲しければリーンの件を白紙にした上でハイス子爵家に対して謝罪を行う事と言われたらしい。そこで陛下よりリーンの帰還を求められた。勝手な言い分ではあるが臣下故に断る事は出来ない。だが急がずとも構わないので、ゆるりと旅を楽しみつつ戻って来てほしい。ロイにもよろしく伝えてくれ>
「え?王族にオークを与えて、子爵家に対して謝罪をさせるの?まぁ、姉ちゃんの件に関しては謝罪があっても良さそうな事だけど」
本来ロイが知る訳もないリーンと王子ハンブルの関係だが、一回目の手紙を読んだ際にリーンが怒りでブツブツ呟いた内容を加味すれば推測できなくもないのでそこについて突っ込む事は無いリーン。
「で、でもさ?姉ちゃんが戻らない間はずっとオークの相手をさせられているって事でしょ?急いで帰ってあげないと!」
「ロイ君は相変わらず優しいね。でも大丈夫よ?お父さんの手紙にも書いてあるじゃない?罰の意味もあるのだからゆっくりで良いのよ。そんな事はどうでも良いから王都までの旅を楽しみましょ?ね?」
カードの者達と同様リーンにとってみてもロイを捨てた王族など本心からどうでも良く、ロイが大切である為にあっさりと提案をはじき返す。
「そ、そうなの・・・かな?」
最近はダイヤキングを筆頭としたカードの暴走にも慣れ始めてしまい、ここまで自信満々に言い切るリーン、そして父であるハイス子爵の手紙にも確かにゆっくりで問題ないと書かれていた事もあって自分の常識がおかしいのかと思い始めているロイ。
「そうそう。勝手に騒いで勝手に自爆しただけでしょう?その後始末に態々行ってあげるだけでも十分すぎる程の優しさだとお姉ちゃんは思うよ?」
ここでダメ押しをされてしまったので結局王都に戻るのに相当な時間を擁していた二人は、道中立ち寄っていたアザヨ町やらジンタ町等に再び訪れてシンロイ商会にも立ち寄り楽しく過ごしていた。
「ねぇ、ロイ君。あの商会って王都にもあるじゃない?こことは比べ物にならない程の大きな商会がさ?そこの店員さんもすっごく綺麗で全員そっくりだけど、こっちの店員さんも全く同じ顔をしているんだね」
「そ、そうかな?そうかもしれないよね。きっと大家族が経営している商会だと思うよ?」
少々苦しい言い訳になるのだが、リーンとしてはロイと会話を楽しんでいるだけで深い意味は無く問い詰めるような事は絶対になかった。
リーンはこの旅をなるべく長く楽しみたいと言う気持ちでいるために敢えて宿泊を多くして移動速度も極端に遅くしているのだが、その間リーンを今か今かと待ち望んでいる人物が王城で苦痛と屈辱の日々を過ごしていた。
あの日の夜にダイヤキングの依頼でハートクィーンを顕現させたロイだが、その後のハートクィーンは力に物を言わせてあっという間に王都に戻る・・・のではなく、道中寄り道をして一体の巨大なオークを拉致していた。
無駄に癒しの力で心を掌握して人を餌とする部分だけを調教した状態なのだが、本能とも言える子孫繁栄については一切手を付けていない。
この種族、外観は正にブタに見える種族ではあるが子孫繁栄に対する欲望が強いために誰彼構わずに襲い掛かる時があり、その部分を一切調教しないままに王城になだれ込むが、そのまま王城に入ると間違いなく戦闘になり主であるロイの希望ではないと理解しているハートクィーンはスペード部隊が得意とする陰に潜る術を使えないので気配を消して移動し、国王と王子がいる部屋に忍び込んだ後に突然現れる。
「な?く、曲者か!」
流石に国王が衛兵を呼ぼうとするのだが、既にこの部屋には防音の結界を張り巡らせているので一切声は外に漏れない。
「怪しい奴め!ふぅ。そのベールをはいで素顔を見せてみろ。俺の目にとまれば可愛がってやるぞ?ぐふふ」
相変わらずのクズ具合を見せつける王子ハンブルは未だに衛兵がなだれ込んでこない事には意識が向いていないようで、目の前に突然現れたベールを纏った二体に視線が向いている。
「コレが王族・・・呆れるばかりですね」
「ぐふぅ。声は中々に好みだぞ?ぐふふ」
正直カード部隊は男性、女性、各々の声については性別の違いはあるが、同性であればその外観同様に区別をつける事は難しく万屋として活動する時の様に変声していない状態であれば男性は非常に渋い声、女性は鈴の音を鳴らすかのような甘い声になっている。




