(68)リーンの対応
―――バサバサ―――
「あれ?私が家に向かわせた魔獣じゃない?どうしたのかな?」
肩に乗っている魔獣の足に括り付けてある手紙を取り開封して読み進めたリーンの表情は、ロイと共に行動できて幸せそうにしている柔らかな表情から憤怒の表情に一瞬で変化する。
中身については口にしていないがロイはカードの力で何が書かれているのかを知っているので怒る事は予想していたが、想定以上の変化に戸惑いを見せる。
「ふ、ふふふふ。そう、あのブタ野郎が偉そうにそんな事を言ったのね。ロイ君命のこの私に向かって、妾?・・・良い度胸じゃない!すり潰してやろうかしら?いいえ、そんな事じゃこの怒りは静まらないわ。爪でも剥いで逆さ吊りにしてやろうかしら?ふふふふ」
「ちょ、姉ちゃん!大丈夫?落ち着いて!」
「え?あぁ、ごめんね、ロイ君。何でもないわ。でもちょっと残念なお知らせ。お姉ちゃん、少し王都で用事が出来ちゃったの。別に大した用じゃないからすぐに戻ってくるから安心してね?」
その言葉が終わるか否かの瞬間で、ロイには見えない程の速度で砂塵だけ残してこの場から消えてしまったリーン。
「え?あれって拙くない?ダイヤキング!!」
「我が主。非常に残念ですが、我が主が危惧されている通りにこのままリーン様はあのブタ共を始末しかねません。まぁ、それも止む無しでしょうか?万屋としての出番が無くなるのは残念ですが、当然の結末とも言えます!」
「いやいや、違うから!何自信満々に恐ろしい事を言っているのさ?相手は王族。わかる?王族!!その後の事を考えると、父さんや領地の人達にも迷惑がかかるでしょ?何とか止めてよ!ダイヤキングなら良い案があるでしょ?早くしないと手遅れになっちゃうよ!」
「我が主の命であれば否やはありませんが、少々主にも泥をかぶって頂かなければあの勢いのリーン様を止める事は出来ないのですが」
その実力から考えればリーンを惑わせてこの場に戻す事や力技で気絶させる事も出来る力を持っているカードの面々だが、ロイの事になると何故か少々恐ろしくなるリーンを体感している一部のカードの者達からの情報によって最も安全な策をとる事にしていたダイヤキング。
「わかった、わかったから。泥でも砂でも被るからとりあえず姉ちゃんを止めてよ!本当にすり潰しかねないよ!!」
その数分後・・・
「おっまたせ~、ロイ君。フフフ、ちょっと急用が出来たと思っていたけれど、お姉ちゃんの勘違いだったよ!ごめんね、そそっかしくて!」
ロイはこれ以上ない程の笑顔とともに有り得ない程に上機嫌でこの場に戻って来ている事を訝しむのだが、流石のリーンでもこの短時間で王都に行って帰ってくることは不可能なのでダイヤキングが上手くやってくれたのだろうと安堵して旅を続けている。
カードからは何も報告が無いので事態がどう動いたのかは気になっているが、詳細については知らない事になっているので何となくボヤっとした聞き方になってしまう。
「えっと、姉ちゃん。勘違いって、何があったのか教えてほしいな?」
「え?そっか。ロイ君のお願いならお姉ちゃん断れないなぁ。えっとね、なんだか王子から私が妾にならないかってお父さんが呼び出されて言われたらしいの。私はロイ君命だから、あんなブタ野郎の元に妾だろうが本妻だろうが行くつもりはないからちょっと立場をわからせてやろうと思ったけれど、途中で万屋、あの集落の立派なお風呂がある宿を作った存在から連絡があったの。グフフフ」
「えっと、立場をわからせるって、向こうは王族だよ?と言うよりも姉ちゃん!怖いんだけど?」
「あ、ごめんねロイ君。それで、えっと、どこまで話したっけ?」
涎を垂らしそうなほどにニヤニヤしていたリーンを見て背筋が凍る思いをしたロイだが、とりあえず話しを最後まで聞くために聞かれた事に素直に答える。
「途中で万屋から連絡が有ったって所だよ、姉ちゃん」
「そうそう、その万屋があのブタ共の対処をしてくれるって言うから、それならば!って戻って来たんだ」
リーンの性格からその程度で王族どもを許すわけもないのだが、ロイは危機的状況が去ったと安堵の表情を見せるだけでこれ以上の事は聞かなかった。
王族に対しての対応はダイヤキングが上手く収めてくれるだろうと無駄に信頼してしまったからであり、その大きな要因は怒り狂っていたリーンを難なく冷静にさせた事なのだが、少し前にロイにも泥をかぶってもらうと言われていた事はすっかり忘れている。
「ウフフフ、グフフフ」
疑問が解消して再びリーンと街道を歩くのだが隣を歩くリーンから怪しい声が漏れているので安心して進む事が出来ず、意図せずにしっかりと先行するスーレシア達からは距離が取れた事だけが良い収穫だった。
「さっ、ロイ君。今日も野営だね?実はお姉ちゃん、こんな物を用意してみました!」
相当大きな風呂桶を収納魔法から取り出したリーンと、それを見てゆっくりと風呂に入れる喜びを知ったロイも喜ぶ。
「流石姉ちゃん!これでゆっくりと疲れを癒せるね!」
「えへへ、そうでしょう?ロイ君。じゃあ、一緒に入ろうね?」
「・・・・・・え?」
その後は・・・ダイヤキングの指示によってリーンの怒りを鎮めたのは、リーンの願いであるロイと一緒にお風呂に入ると言う欲望を叶えると伝えた為だと教えられ、眩暈と絶望に襲われつつもなすがままになってしまったロイだ。




