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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(64)集落とスーレシア達

 何故か相当に疲労と恐怖を感じてしまっているスペードクィーンはロイとお風呂に一緒に入ると言う欲望を曝け出して万屋に依頼をしているリーンに対し、ロイからは絶対に阻止する様に今までにない程に強く命令されていたので必死に拒絶していた。


「はぁ~、使えないわね。いいわ!こうなったら実力行使よ!そもそも他人に頼るのが間違いだったのよ!」


 結局何を言っても折れずに願いを叶えるとは言わなかった万屋、今回は疲労困憊のスペードクィーンに愛想をつかし、さっさと自己完結して決意も新たにリリを放って風呂から出て行ってしまう。


 まさかの事態に取り残された感が非常に強い中で、この態度であればリーンは聖国ロナの諜報員ではないのだなと確信する事が出来たのだが、一応万屋との会話は続いているはずなのでどうすれば良いのか良く分からない。


「え?あの・・・」


<コホン!リリと申す者よ、先程伝えた通りにそなたにはこの宿の管理をしてもらう。同じ環境の者を一名つけるが、その者に対する余計な詮索は不要>


「は、はい。そこはもう。私も詮索されては困る立場ですから、心得ています!」


<では、この集落にいる限りは安全を保障しよう。やがて世界の流れが変われば、集落以外に出向く事も出来るようになるだろう>


 その後は何を話しかけても反応する事がなかった万屋だが、実際にはあっという間に勝手に決意して出て行ってしまったリーンの護衛の為に即追いかける必要があったので、早く切り上げて後を追っていた。


「万屋・・・さん。期待しちゃっても良いのでしょうか?」


 一人浴場に残されたリリの呟きは、今度こそ誰にも聞かれる事は無かった。


「あの、リリさんでしょうか?私、万屋さんからのお告げでこの集落のこの宿の管理を一緒に行う事になったハー・・・エースと申します!」


 風呂から出てみれば万屋が宣言していた通りにこの宿を管理する相棒とも言える存在が待ち構えており、コレはダイヤキングを通して全ての事情を聞いていたロイが手配したハートエースだ。


 思わずハートエースと名乗り始めた所を慌てて引っ込め、名前を省略してエースと名乗る事で一応本名を告げない事にしていた。


「ほ、本当だったんだ!よろしくお願いします。リリです。えっと、ミルハさん達にも紹介しますね!」


「はい!ですが、この宿の管理を行う事については、既に万屋の方で啓示してくれたとの事ですよ?」


 風呂場で言われていた事が即座に一つ実現しているので、これならば自分はこの集落の宿を管理して楽しく過ごせるのだと嬉しくなっているリリ。


 一方でこの集落に向かう分岐迄到着していたスーレシア達だが、何故か整備されたばかりの集落に向かう街道があぜ道の様になっており、迷う事無く綺麗な街道を進んでいたのでリリ達のいる集落に到着する事なく通過していた。


 現時点で残された問題と言えば、女湯から出た為に陰からの護衛が変わったリーンだ。


「ふ、ふふふふ。こうなったら、もう男湯でも関係ないわ!誰が居ようが知った事じゃないのよ!突撃してやれば良いのよ!」


 破れかぶれの特攻をブチかます決意をしており、その恐ろしい程の決意を最も近くで感じる事になっているスペードサードは背筋が凍っている。


「我が主、リーン様の護衛についているスペードサードからの緊急報告ですが・・・」


 一連の流れで情報がロイの元に行き湯船につかりながらどうするべきかを考えているのだが何も良い案が出る訳も無く、結局翌朝にはこの集落を強引に出立するほかないと言う結論に至った。


 先行している事になってしまったスーレシア達の事は気になるのだが、敢えて遅く行動するか分岐があれば異なる道を行けば良いだろうと、あてもない旅だけに自由に行動できる強みを活かせばどうにでもなると思っている。


 翌朝・・・


「おはようございます。今日、いいえ、昨日からこの宿の管理を万屋から任されましたリリとエースさんです!よろしくお願いします」


 宿になっている二階から下に降りると早速リリとハートエースが並んで挨拶をしている姿を目にし、誰にも分からないように軽くハートエースに向かって頷いた後に宿から出て行くロイとリーン。


 リーンとしては今晩急襲してやろうと企んでいるのだが、全てが筒抜けになっているのでロイはあっさりと回避する。


「姉ちゃん、もうここにいても目新しいものはないから次の町に行こうと思うんだ。俺には宿をリリさんとエースさんが管理すると言う不思議な声しか聞こえなかったけど、姉ちゃんはあの建屋を作った万屋と話しをしたんでしょ?」


「え?次の町?今晩のお風呂は?」


 万屋云々よりも今晩の突撃の方が余程リーンにとっては重要なので、作戦が不発に終わった事に露骨にショボンとしてしまいその姿を見たロイは少しだけ罪悪感に襲われるのだが、冷静に考えれば当たり前の事をしたのだと思いそこには触れずにいる。


「姉ちゃん、俺も子供じゃないんだからさ?姉ちゃんも落ち着こうよ。ね?」


「え~、やだやだ。ロイ君と一緒に入るの!」


 もう良い年齢なのにコレってどうなの?と思っているロイなのだが、軽く頭をなでてやると少しむくれていた表情が嬉しそうになるのだから随分とチョロいなと思いつつもリーンの少々不穏な言葉を聞きつつ次なる町では何があるのか楽しみにしている。


「わかったよ、ロイ君。次のチャンスを見つけるね!」

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