(63)リリとリーン
「え?ここまで???何を言っているのかしら?何処まで行きたいの?」
突然全て諦めたような表情で全てが終わったかのような事を言われればリーンとしても何が何だか分からないのだが、これほどの強さを内包している人物であれば間違いなく裏の存在だと判断してしまっているリリにとってみれば、この心配するような言葉も余計な事をせずに早く事情を話せと言われているように聞こえる。
「わかりました。全てお話しします」
「??」
リーンは何が何だか分からないのだが、一応女湯と言う事で暫定的にスペードサードの代わりにスペードクィーンが陰に潜って護衛をしているので、少し前にリーンがリリに話しかける前とは異なってその会話の中身は当然の様に全て聞かれている。
「・・・と言う事で、私には正直帰る場所がありません。貴方がどこの国に属している方かはわかりませんが、私は聖国ロナの情報をたいして持っていませんよ?」
もう好きにしてくれと言わんばかりの表情で自分が聖国ロナの諜報員であった事、苛烈な任務に嫌気がさして逃亡している事、この集落の人々に触れて人の心を取り戻した事等を不思議と素直に全て話してしまっている。
会話の中で聖国ロナと聞いたスペードクィーンが今まで得た情報からシンロイ商会の邪魔をした者達であると理解し、リリに対して癒しの力を行使して口を滑らかにさせていたのがその理由だ。
「そう。何か誤解しているのかもしれないけれど私は唯の一冒険者で、大切な弟と旅をしているだけ。どこの間者でもないわよ?敢えて言うのなら、ソシケ王国の者ね。だからあなたが心配しているような事は起こらないわよ」
リーンの言葉を聞いても素直に信用する事が出来ないのは、油断させて・・・と言う事を自分も任務で散々行ってきた経験があるからで、その辺りの汚れ仕事については全く経験がないリーンは中々表情が崩れてくれないリリを見て途方に暮れる。
「私としてはそう言う事なので安心してほしいけれど。それと、万屋に対するお願いについてはこの建物についてお願いしたのはミルハさんと呼ばれている女性、集落に住んでいれば知っているわよね?その方のようなので、色々と聞いてみると・・・」
<そこなリリと申す者よ!私は万屋である。願いを言ってみるが良い。内容如何によっては叶えてやろう!>
ジンタ町で暴利を貪っていた面々が所属する国から逃げているリリの情報を聞いたロイから万屋として救えるのであれば救うようにとの指示によって行動を始めているカードの面々だが、大金をよこせだのと言うふざけた願いであれば叶えるつもりはなかった。
話しを遮るようにこの場だけに響く声が聞こえてくるので即座にリーンは警戒態勢に入り周囲の気配を探ろうとするのだが、一切気配を掴む事が出来ずに別格の力を持っている存在なのだと言う事を認識する。
そもそもこの建屋をあっという間に完成させたと言う程の実力者なのだから当然と言えば当然なのだが、古龍すら従える事が出来たのに・・・と言う思いがないわけではない。
「え?あの・・・」
言い淀むリリを見て、リーンは思った事を口にする。
「せっかくだからお願いしてみてはどうかしら?正直この声がどこから聞こえるのか、誰がどこにいるのか全く気配が掴めないので、相当な力を持っていると言う事だけは確実よ?ちょっと悔しいわね」
目の前の別格の存在と思っているリーンが言い切るので、半ば破れかぶれで願いを言ってみるリリ。
「その、できればもうあのような仕事はしたくないのです。正直一瞬国に戻って優雅に過ごしたいなどとあり得ない夢を見てしまいましたが、今はこの集落の人達と楽しく過ごしたいです!でも、私の存在が明るみになればきっとここの住民の方にも迷惑がかかるので、夢のまた夢ですよね」
<なるほど。リリと申す者よ、そなたの姿を知っておる者はどの程度いるのだ?>
「全員とは言えませんが聖主のロマニューレ様、私の所属していた部隊の隊長、一部の同僚と言った所です」
<ふむ、この集落にその連中が来る可能性が捨てきれないと言う事か?>
「はい。実際に聖国ロナのシスターである二人もこの集落に向かってきているのを確認しましたので、あの二人が私の事を知っていればそこから情報は洩れて私を捕らえに来ると思います。最悪はあの二人も諜報員で私の事を調べに来た可能性すらありますので、私は皆さんに迷惑がかかる前にこの集落から出て行かなくてはならないのです」
<なるほど。ではその方の願いを叶えてやろう。丁度この建屋の管理人が必要だったのだ。同じような環境の者を一人つける故、仲良く仕事に励むと良いだろう。それと、そのふざけた二人はこの集落に来る事は無い。安心するが良い>
露骨に安堵した表情を見せたリリを見て笑顔を見せるリーンだが、即座にとんでもない話しをブッコんで来た。
「ねぇ、万屋さん?私もささやかな願いがあるのだけど、聞くだけ聞いてくれないかしら?」
今回万屋として対応しているのは臨時でリーンの護衛をしているスペードクィーンであり、クィーンと言う立場もあって他の一般のカードの者と比較しても別格の強さを持っているのだが否とは言わせない雰囲気に一瞬だが吞まれてしまう。
<ど、どうぞ>
何故かドモって口調も戻ってしまったのだが、その声を聞いたリーンは花が咲くかのような笑顔に変わって希望、要望、欲望を伝える。
「えっと、知っていると思うけど、今私はロイ君と一緒に旅をしているのね。それで、この集落にはお風呂のおかげで数泊する予定だけれど一緒に入る機会がないじゃない?だからそこを何とかしてほしいのよ!出来るわよね?」
<そ、それは・・・貴殿がごしゅ、ロイ殿に願うべきではないだろうか?>
「そんな事は分かっているわよ。でも、恥ずかしがり屋さんだから中々首を縦に振ってくれないの!」




