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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(62)集落に住む者

 各国家には間者と呼ばれている諜報員や暗部と呼ばれている存在がおり、場合によっては物騒な事を行う人員を備えつつも自国の防衛のため、国家によっては他国を侵略する足掛かりにするために常日頃活発に活動させている。


 任務は多岐にわたり非常に過酷である事が一般的なのだが存在自体が国家機密事項に含まれるのが一般的なのでその内容が公になる事は無く、命の危険があるばかりか最悪敵国に捕まれば拷問され続ける可能性すらある立場であり、常在戦場の意識を持つように訓練されている。


 結果、いくら訓練されていようが非常に心身を疲弊させてしまうので、任務の途中で死亡したと偽り逃亡する者がいるのも事実。


 秘密を他国に売って身元の保証を得る事も可能な程の価値ある情報を持っているのだが、そんな事をすれば元所属国家から苛烈な攻撃を受けるばかりか情報を売って身分の保証を願い出た国にも裏切られる可能性があるので、経験豊かな者、能力が高く数多くの情報を持っている者ほど逃亡時には絶対に情報を漏らすような事はしない。


 実はこの集落にも国家に所属していたとある諜報員が任務に疲れて逃亡し生活していたのだが、ダイヤキングの案により最強のカードであるジョーカーを使って有り得ない事象を起こした所を目の当たりにし、どこの国家の機密情報にも該当しない新たな情報である万屋に関する事を上司に報告すれば相当上の立場での復帰、則ち現場に赴く立場ではなく安全な立ち位置から高額な報酬を得られるのではないかと思っている。


 長く逃亡していたのは万屋に関する情報を集めていた事にすれば良いと思っているので、早速その女性は所属国家である聖国ロナに向かって移動をするための準備を始める。


 聖国ロナとはジンタ町の教会で暴利を貪って癒しを行っていたスーレシアが所属している国であり、スーレシアからシン()ロイ商会に関する情報を得た国主であるロマニューレがその仕入れ作業を妨害し、一部の物資を略奪していた国家だ。


「まさかこれほどの事象を目の当たりにするとは思いませんでしたよ。これで、何とか私も穏やかに過ごせるようになれるでしょうか?この集落の方々とお別れするのは非常に悲しいですが・・・」


 どのような場所でも生き抜ける様に訓練されているので準備と言ってもそう時間がかかる訳でもなく直ぐに出立できる状態になると、荒んだ心に温かい風を送ってくれた集落の人々に対する感謝を呟いて人知れずに集落を出て行き、後ろ髪を引かれないように集落から一気に遠ざかった状態で休憩をしている。


 どこに元所属していた部隊の目があるのか分からないので休憩と言っても普通の旅人が行うような休憩ではなく、周囲を警戒しつつ木の上で気配を殺して休んでいる。


「はぁ~、あのうさん臭い連中のせいで商売は上がったりだし、ロマニューレのババァはちゃっかりと利益だけとっているみたいで、予想通りこっちにはなにもなし。正直酷いですね」


 久しぶりに諜報員らしく行動したので疲れていたのか注意散漫になっている時にどこかで聞いた事のある声が下から聞こえてきたので慌てて注視すると、そこには聖国ロナのシスターであるスーレシアが同じくシスターのテルミッタを伴ってトボトボ歩いていた。


 話しの内容は正にこれから自分が交渉しに行こうとしている国主であるロマニューレに関する事でもあったので、予定を変更して会話を全て拾う事にした元諜報員のリリ。


 遥か上の木に人がいて会話を聞かれているとは想像していない二人なので、突然謎の人物が自分達が独占的に行っていた癒しを勝手に行って報酬を得る手段を潰した事、シン()ロイ商会に対する商流を邪魔する様に聖国ロナの聖主に伝えた事、その後の聖主ロマニューレの相変わらずの態度について愚痴を零しており、その会話を全て聞いたリリは聖国の事を明確に思い出した。


「そう言えばそうでした。あの方(ロマニューレ)は私達の様な末端の進言など聞いてくれる方ではなかったですね」


 何故自分が組織から抜ける事を選んだのかを改めて思い出し、仮に万屋の事を報告しても希望していた昇格などあろうはずも無く、益だけ奪われて今迄通りの活動を強制される事になると悟る。


「あの集落で過ごす事で、随分と甘い考えになってしまったようですね・・・」


 荒んだ心を癒してくれた集落の人々に対するお礼とも言える言葉を漏らしながらこの場を去って結局は集落に戻って行くリリは、間違いなくあの二人は自分の事など知らないはずだと思いつつもひょっとして・・・と言う気持ちが抑えられずに悶々としている。


 移動速度はいくら相当任務から離れていたと言っても一般人であるスーレシア達とは比較にならないので、あっという間に集落に戻って万屋の看板がある建屋に入り半ば強制的にゆっくりする為に湯につかる。それも、最後の湯と言う気持ちで・・・


「は~、これほど不思議な力が有る万屋。私の事も救ってもらえないかなぁ~」


 リリの記憶にあるのは幼い頃から諜報員としての苛烈な訓練と教育だけであり両親についての情報がある訳でもなく当然友人などいる訳もなかったのだが、この集落に来て人々の温かさに触れて普通の人としての生活を送る事が出来ていた。


 ほんの少し前にトチ狂った行動をして聖国に戻ろうとしてしまったのだが、今は改めて自分の立ち位置を正しく認識して落ち込みつつ、周囲は湯気で何も見えないので思わず欲望を口に出してしまう。


 この辺りがまだ現役時代の緊張感が戻っていない所なのだが、残念ながらこの言葉をカードの誰かが聞いていると言う事は無く別の人物が聞いていた。


「あら?貴方はこの集落の方かしら?万屋さんってこの建屋の看板にもあったけれど、それ程凄い力なのかしら?それに貴方を救うって、見た感じ特に問題なさそうに見えるけど何かあるのかしら?」


―――バシャ―――


 完全に油断していたので思わず大きく反応して立ち上がり、声が聞こえた方に視線を向けてリーンと目が合うリリ。


 少し前の甘い考えで聖国に戻ろうとした事を反省したはずが連続して大きな油断をしてしまった事に非常に後悔しているのだが今更何をどうする事も出来ず、長く諜報部隊として生きてきたリリにしてみれば目の前のリーンがただ者ではない事位は嫌でもわかり逃亡、戦闘、何れも不可能だと悟る。


「ここまで・・・ですか」


 聖国に戻される真っ暗な未来しか見えなくなったリリは、最後の贅沢と覚悟して再び無防備に湯船につかる。


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