(61)ロイとリーンと集落
「うわぁ、凄いねロイ君。あの建物、なんだろう?人が住んでいるのかな?でも、他の建物とは全然質が違うね?一際目立っているよね?」
「そ、そうだね、姉ちゃん。本当に無駄に目立っているね」
リーンはロイと共に行動できるだけで嬉しく楽しいのだが、不思議な景色とも言えるこの状況が更に彼女のテンションを上げて行く。
ロイとしてはこの状況はどう見てもカード達の暴走だとわかるのだが、最も暴走しがちなダイヤキングは何も言ってきていないし顕現させてもいないので何故このような事になっているのか事情が良く分からないまま“万屋より”と書かれている看板の文字を半ば放心状態で見つめている。
「おや、声が聞こえたと思ったら・・・やっぱり万屋は不思議な力が有るんだねぇ」
立派とは言い難い家から出てきたミルハは、ロイとリーンを見て万屋からの指示とも言える来客に対するおもてなしをさっそく実行するために動き出す。
「えっと、今あの建屋の看板に書かれている万屋の事を仰っていましたけど、あの建屋だけ何と言いますか・・・不釣り合いと言いますか。どう言った事でしょうか?」
「よくぞ聞いてくれました。何と万屋を名乗る不思議な声が私の願いを叶えてくれたのさ。信じられないだろうがあの建屋、今日の昼には更地だった場所に突然出来たんだよ。中に入ってくれれば設備の素晴らしさも感じて貰えるよ」
「ロイ君、不思議な事もあるんだね?」
普通ではありえない話しを聞かされているのだが、ロイと共に過ごせる事でそれ以外の事には注意散漫になっているのかリーンはこの程度の感想になっている。
「そ、そうだね、姉ちゃん。それで、あの建屋に行っても良いですか?」
「もちろんだよ。実は万屋を名乗る不思議な声からは、来訪者にはしっかりともてなしをするようにきつく言われているからねぇ。中には風呂や眠れる部屋もあるから好きに使ってくれると良いよ。食事は・・・」
「あ、一応対応できますので大丈夫です。寝床まであるなんて、うれしいなー」
ミルハの話しを聞いてどう考えても自分の為に用意した建屋である事は否定できなくなり少しやけっぱちになっているのだが、一方のリーンは違った方に意識が向いている。
「あの、今お風呂があるとの事でしたが、それってどう言ったお風呂ですか?」
姉であるリーンの質問を聞いて、一気に心拍数が跳ね上がるロイ。
以前リーンがロイと共にお風呂に入りたいと言っていた事を思い出し、間違いなくカードの面々もその情報を把握しているので最悪の事態に陥りかねないと異常なほどに緊張し、目の前の女性ミルハの口に視線が釘付けになる。
「あぁ、大浴場があるからゆっくりできると思うよ?御覧の通りに集落だから人数は少ないのに、全員が一か所に入ってもまだ余る大きさの湯舟があるよ」
「やった!」
ミルハの説明だけ聞けば混浴と聞こえ、実際には全員が一カ所に入っても余るほどの広さがあると説明しているだけなのだが、この説明を聞いたリーンは異常に喜びロイは対照的に絶望の表情をしている。
「じゃあ、行ってゆっくり入ってくると良いよ。一応男女で向かう先は分かれるけど、行けばわかるようになっているよ!」
背中から聞こえるミルハの言葉によって、一瞬で絶望と歓喜の表情が逆転していたロイとリーン。
ロイとしては非常にありがたく嬉しい結末だったのだが、このまま何もフォローをしなければ例え男湯で集落の人がいようがリーンが乱入しかねないと本気で危惧しているので慌てる。
「ね、姉ちゃん。寝るときは同じ部屋にしようね?明日からの予定についても色々と相談しておいた方が良いと思うんだ?」
「!?・・・そ、そうだね。そうだよね。これからも旅は続くから、いくらでもチャンスはあるもんね?」
何やら不穏な言葉が聞こえてくるのだが、敢えてロイは聞こえないふりをして機嫌が直ったリーンの態度に安堵する。
「うわっ、ちょっとやり過ぎな気が・・・」
ホール、脱衣所、そして浴場と全てが無駄に豪華になっているので思わずこう言ってしまったロイなのだが、その後湯船に入ると大きな空間でゆっくりと足を延ばして寛げるところには満足していた。
「ふぃ~!やっぱり、ゆっくりできるのは良いよね」
この一言を拾ったスペードキングがダイヤキングに連絡しカードの者達は狂喜乱舞で喜びまくっているが、実は本来の目的の混浴大浴場の事については忘れていた。
ロイが寛いでホカホカした体で気持ち良さそうにしつつ風呂から出て着替えると既にリーンはロイを待ち構えていたようで、階段の近くには宿泊部屋と言う看板がご丁寧に準備されていたのでその案内に従って進んで行く二人。
ロイは軽く食事をしてもう寝るだけだと思っていたので疲れた体を癒せると思い何となく幸せな気持ちでいたのだが、ゆっくりできたのはここまでで、その後はリーンが無駄に食事を大量に出し、無駄にロイの口に食事を運び、更には布団も同じ布団で寝ると言う暴挙に出たため折角寛げていたのが精神的に一気に疲れ切ってしまったロイ。
そんなロイにしがみつく様にして寝息を立てているリーンを見ているロイ。
「なんでこんな俺なんかにこれほど良くしてくれるんだろう?姉ちゃんもそうだけど、家族皆、ちょっとやりすぎな感は否めないけど・・・邪険にされるよりは良いかな」
無条件で慕ってくれている姉を始めとした家族、血がつながっていないと知りつつ非常に良くしてくれている家族に感謝しつつリーンを見つめている。




