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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(59)万屋の話し

 敢えて勘違いさせるように、相当苦労してこの場所に到着する事が出来た迷い人の体でこの集落に来たジョーカーだが裏の無い善意を受けている。


『この集落であればロイ様にもゆっくりとお休みいただく事が出来そうですね。この女性の希望も叶える事が出来ますし、流石はロイ様!』


 何でもロイの功績になってしまうのはカード部隊の特徴になっているのだがこれはジョーカーと言え例外ではなく、心で大賛辞を送りつつどのように行動するのかを考える。


 カードは顕現していればカードになっている者達とは直接意思疎通ができるのでここで出てくるのはやはりダイヤキングであり、その指示に従ってジョーカーは行動を始める。


「ごちそうさまでした。お礼と言う訳ではありませんが、この魔道具はこの集落の為に役立てて頂けませんでしょうか?正直、冷静に考えれば私には不要なものですので」


「え?確かに集落としては助かるけど、相当貴重な物なんじゃないのかい?アンタは旅人だろう?どこか買い取ってくれるような場所に行く事もあるだろうから、そこで売れば良いさ」


 あっさりと断ってくることも想定の範囲内ではあるのだが、主であるロイとその姉であるリーンが宿泊する場所に相応しい人がいてくれると言う一点に喜びを隠せない。


「確かに売る事は出来るのかもしれませんが、コレは自分にとっては価値がありませんから。そうだ!お風呂に入りたいと言っていたではありませんか?コレがあれば入りたい放題ではないですか?」


 あたかも今思いついたかのように言っているのだが、事前にダイヤキングと打ち合わせた通りの流れになっておりジョーカーの演技が下手なだけ。


「確かにそれは魅力的だけれど・・・御覧の通りこんな集落では風呂桶なんて準備する事は出来ないし、全員が入れるような大きな浴槽なんてもっと不可能だよ。でも、その気持ちだけは受け取っておくよ。ありがとうねぇ」


 少々諦めの笑顔になっているのが心苦しいが、この拒絶についても想定の範囲内なので次の手に出る。


「実はご承知の通りに自分は旅をしているのですが、とある町や村に立ち寄った際にこのような噂を聞きました。直接その神の御業を目にしたわけではありませんが、否定する要素もありませんでした」


 ジョーカーが神と口にするのはロイの事以外に有り得ず、つまりはこの場所でも万屋の話しを広げてやろうと言うダイヤキングの作戦に喜々として乗った結果だ。


「何でも万屋という謎の存在に対して願えば、条件は不明ですが受け入れてもらえれば達成率は100%だと言うのです。これも噂ですが願いを行う人物を見て受けるか否かの判断をしている様なので、貴方であればきっと叶えて頂けるのではないでしょうか?」


「ははははは、嬉しい事を言ってくれるねぇ。そうかい。そんな噂があるのかい。万屋、夢を見させてもらおうかな。この集落に大きなお風呂が出来れば良いねぇ」


<その願い、この万屋、よ・ろ・ず・や!が聞き届けよう!>


「!?」


 集落の外にいるジョーカーが魔法を行使してこの家に響くように音声を送るのだが、万屋を無駄に強調してしまうのはダイヤキングの指示によるものでジョーカーも納得の上の行動だ。


 女性の目の前にいるジョーカーは敢えて驚いた体を装って女性に語り掛けるのだが、一応本来の目的を達成するための布石は忘れない。


「お、驚きました!やはり噂は本当だったのですね。これでこの集落にも大きなお風呂が出来ますよ?今後自分の様な来訪者が来た場合に開放してあげる事が出来れば、長い目で見れば行商人も来て物資も潤沢になるかもしれませんね」


「そ、そうだねぇ。確かに自給自足の生活だけだと不便な事もあるからねぇ」


 女性は未だに現状を理解しきれていないようであり、不思議な声が聞こえてきたのだがお風呂が実現するのかどうかは非常に懐疑的だ。


「では、自分は万屋がどのようにお風呂を作るのかはわかりませんが、この魔道具を使用して頂きたいと思いますので外に置いてきますね」


 打ち合わせの通りに魔道具をお風呂の設備の一つとして使ってもらうべく、敢えて女性に説明して外に魔道具を置いて戻ってくるジョーカー。


「本当に出来ればうれしいねぇ。集落の生活は楽しいけれど、集落だけに苦労するところもあるからねぇ。夢を見る位は良いのかねぇ」


 この集落で万屋が認知されるのは間違いないので、更にシン()ロイ商会の設立まではいかなくとも行商タイプで商会の認知度も上げる事が出来るとの思いから世間話しを続けて何が不足しているのか、何が欲しいのかをしっかりと聞き出しているジョーカー。


―――ズズン―――


「な、なんだい?」


 突然大きな地響きが起き、女性だけではなく集落の全員が驚いて外に出ている。


 もとより外に出て畑仕事をしていた者もいたのだが、彼等の目に映ったのは・・・今迄は絶対に存在していなかった立派な建屋であり、集落の外にいるジョーカーがその力を十全に使って準備した大浴場兼宿泊場だ。


 宿泊場という余計な場所も追加で作ってしまったのはやはりロイにはしっかりとした場所で休んでもらいたいと言うカード部隊の総意からであり、寝具を始めとした高級な素材や魔道具で満ち溢れている設備になっている。


<良く聞くが良い。我が万屋、よ・ろ・ず・や!が、そこな女性の願いを叶えた。今後この建屋で疲れた体を癒し、旅人をもてなすと良いだろう。おもてなしは大切だからな。良いか?万屋とおもてなしの件、努々忘れるでないぞ?>


 全員の意識が建屋にある事を確認した集落の外にいるジョーカーは相変らずくどいレベルで万屋について念を押すと共に、本来の目的であるロイとリーンがこの場所に来た際に無下に扱われないようにしっかりと伝えている。


 自分の願いを叶えたと名指しされた女性は、あっけにとられて建屋を見つめ続けていた。


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