(57)リーン襲来(2)
リーンは非常に嬉しそうにしながら、懐に忍ばせていた小さな飛翔型の魔獣に手紙を持たせて空に放つ。
「これで大丈夫!ねぇねぇ、今までの旅で面白かった事とか楽しかった事とか聞かせてよ?ロイ君!」
ロイにとっては非常に重要なお願いであった家族への連絡があまりにもあっさりしており、例えば道中他の飛翔型の何かに襲われる可能性もあるはずなのだが、どう見てもその辺りに対処しているようには見えなかった為に一気に不安になる。
ギルド職員としてある程度の期間活動していたので今リーンが目の前で放った飛翔型の魔獣の情報は当然ロイも持っており、そこから考えると飛行速度は速く飛行可能継続距離も異常に長いが戦闘力は皆無だったはずなのだ。
正直、重要な家族への連絡をこれほどあっさりしていても良いのかと言う気持ちはあるのだが、一応実家と言えるハイス子爵家領地には行商人に扮し王都の邸宅にもカードの面々が店員をしている商会があるので、連絡が付いたかの確認についてはそう時間がかからずに情報を得られるだろうと気持ちを切り替える。
「わ、わかったよ、姉ちゃん。まだ数える程しか町とか村に着いていないけど、正直どこの場所でも食事は美味しかったね」
「良かったじゃない!そうよね。食事が美味しいとすっごく嬉しいよね。わかるな~。フフ、これからお姉ちゃんもロイ君と一緒に美味しい食事を沢山食べよっと」
何を言っても全力で肯定してくるのだろうなと思っていたロイの予想通り、リーンは嬉しそうにロイの話しを聞き、喜び、楽しく感想を告げている。
「そうそう、ロイ君。私ここに来るまでに、王都にもあったあのすっごく良い名前の商会をいくつか見つけたの。シンロイ商会!流石に王都ほどの大きさはなかったけれど品揃えも豊富だし値段は安いし、不思議な陳列方法だったの。ロイ君はもう見た?」
「!?え、えっと・・・一応見た、かな?」
自分の秘匿している力の一部とも言える商会なのであまり深堀してほしくないのだが、無駄に嘘をついてもリーンにはバレてしまう可能性が極めて高く、何とも言えない曖昧な返事をするロイ。
「そっか。商品が突然手元に来るシステム、凄いよね?どれほど凄い職人が作ったのか、想像するだけでも楽しくなっちゃうな」
一方でリーンは自分が見た事、感じた事をロイに知ってもらいたいと言う気持ちだけで話しており、ニコニコと嬉しそうにしている表情に変化がないまま有り得ない場所でのティータイムは過ぎて行く。
「よしっ!そろそろ行こうか?お姉ちゃんとしてはロイ君と一緒に野営も良いけど、やっぱりちゃんとした場所でゆっくりしてもらいたいからね。できれば大きなお風呂がある場所だったら最高だよね?」
「え、えっと、風呂の大きさって?確かに大きい方がゆっくり入れて嬉しいのは事実だけど・・・」
少々自分に会えなかった事で相当不満が溜まっているはずの目の前の姉リーンが暴走する事は間違いないと思っているロイは、有り得ないとは思いつつ予想が出来ている事を本人の口から否定してもらいたいと言う気持ちからこのように問いかけたのだが・・・
「え?だって一緒に入るには大きい方が良いでしょう?あっ!!そっか。狭い所で一緒に入るのも良いよね!さっすがロイ君!お姉ちゃんは良い案だと思うよ!!」
「ちょ、ちょっと、違うから。違う!!やっぱりお風呂は一人でゆっくり入るのが普通だよ!絶対!!本当に!!」
リーンと共に旅をする第一歩を踏み出した瞬間から頭痛がしているロイは、いきなりこれでは相当先が思いやられると肩を落とす。
今までの問題児であったダイヤキングとは異なり違った方向に暴走を始めるリーンだが、当然この会話はスペードキングからダイヤキングに転送されており、幾度となく繰り広げられているカードの会議が開催される。
「成程。リーン様は我が主と共に汗を流したい・・・と、そう仰っているが、我が主はそれを拒んでいるように見える。フム。しかし、我らが知る情報では幼い頃には共に入られていたと記憶しているが、直近では我が主がご自宅を出られてそのような機会は失われていた」
「ダイヤキング。恐らく我が主は本心ではリーン様と共に在りたいと思っている事は間違いない。常に家族を気遣われるお方だからな。久しぶり過ぎて少々恥ずかしさと言う感情が表に出てしまっただけではなかろうか」
「ふ・・・む。ダイヤジャックの言う事、納得できるな。ならばどうするか。我らの事をロイ様が秘匿されている以上はリーン様が同行されているこの状況で日中の召喚は厳しいが、事前準備をする必要があるのも事実。やむを得ない。ここは我らの総意にて作戦を実行し、事後報告で許容いただく他あるまい」
勝手に妄想し勝手に結論を出すのもいつもの事で、カード部隊の中でも特殊な存在が勝手に顕現して作戦を実行する事になる。
「頼んだぞ、ジョーカー!」
「ロイ様の為ならば、我に任せてもらいましょう!」
通常のカードとは異なる存在であり仲間であってもその存在自体が朧気で性別すら不詳なのだが、ロイを慕いロイに忠誠を誓っている所は変わらないこのジョーカーは二枚存在し、この二体だけがロイの意志を介在せずに自由に顕現する事が可能になっており、全ての能力を非常に高いレベルで使いこなせる奥の手とも言える。
今の今迄勝手に顕現するような事は一度としてなかった事から、ロイとしても特にその辺りに対して制限をかけるような命令はしていなかった。
勿論ジョーカーも勝手に顕現などするような事は無いのだが今回はロイと姉であるリーンの久しぶりの再会であり、親睦を深めるために一肌脱ぐべき状況だとダイヤキングの煽りもあって決断した。
二体のジョーカーがロイに気づかれないまま、当然リーンにも気配すら察知されずに顕現すると、さっさとこの場を後にして進行方向の先にある町に向かい、リーンの一言が原因で僅か数時間で局部的ではあるが大きく町が大きく変革する事になった。




