(55)ジルの行動
少し前に聞いた噂話が事実であったと告げるジルの話しを聞き、近接していたのに何も聞こえなかったバリアドはここまで不思議な現象を起こせる力を持つ万屋であれば依頼をしっかりと達成してくれるのではと思っている。
「若・・・近くにおりましたが、正直爺には何も聞こえませんでした。若は確実に万屋と接触できたと言う事でしょうか?」
「その通りだ、爺。何故か俺の野望まで完璧に把握していたようだからな。そこまでの情報網を持っているのであれば、あの少女に笑顔が戻るのは間違いないのではないかと期待してしまう。一応明日、この時間にこの場所にナナちゃんを連れてきてくれるそうだ」
「そうですか!非常に良い事ですが絶対と言い切れない部分がありますから、ぬか喜びにさせないように、依頼者に伝えるのは実際に猫をこの手で保護出来てから連絡した方が良いでしょう」
結局町の外に出るのは明日の状況を把握してからと言う事にし、何も購入せずにシンロイ商会を出て行くジルとバリアド、そしてその二人を感心したような表情で見送っているカード部隊の面々。
その日の夜・・・何時もの通りにカード部隊の会議が開催される。
「流石は神たる我が主!やはり全ては主の掌の上だと言う事が証明された一件だと言えよう!」
「まさしくその通り!」
ロイは伝承と言う体で伝えられたジルに対して助力をするように伝えただけなのだが、ダイヤキングを筆頭としたカード部隊の面々にしてみれば先の先まで見通す事が出来、慈愛溢れるロイの素晴らしい行動を称賛する場となっている。
「して、アザヨ町の商会は迷い猫についてはもう手元にあると言う事だったな?それと、あの男性をシンロイ商会の店員とする・・・か。しかし万屋の正体については秘匿する必要はあるが、人族としての今迄の知識を基に情報を展開してもらうのは有用!流石は我が主の素晴らしき御慧眼!」
ここでダイヤキングは驚いた雰囲気で固まるので、周囲のカードの者達も何が起きたのか真剣な表情になる。
「私はまた真理に到達してしまったぞ!良く聞いてくれ。神たる我が主は、我らカード部隊だけでは万屋の情報展開をするには偏りがあると考えられたのだ!今後依頼者となり得る人族と同じ種族が情報を展開した方が良いと言う所までお考えだったに違いない!流石は我が主!」
勝手に想像し、妄想し、それを無駄に肉付けして膨らませて行くダイヤキングとカードの者達の暴走は止まらず、結局相当な時間を費やしてロイの称賛の声だけが響き渡りこの日の会議は終了する。
彼等にしてみれば非常に充実した時間であり、そのような状態になっているとは分からないロイは家を飛び出たと聞いているリーンの動向に気をつけつつも旅を続けている。
翌日・・・
「爺。正直な所、相当緊張するな。過去にない程の緊張状態と言えるだろう」
「若。気持ちは分かりますが、結果はもう直ぐです」
指定された商会のとある場所に再び来ているジルとバリアドは、緊張した面持ちで万屋からの接触を待っている。
「ジル様とバリアド様ですね?」
突然背後から声をかけられたのだがジルとバリアドも簡単に背後をとらせるような油断をしたつもりはなく慌てて振り向くと、そこには真っ赤な猫を優しく抱いているハートセカンドがいた。
「確かに俺がジルで間違いないが、おぉ、貴方が万屋なのか?」
抱かれている猫が目的の迷い猫である事は間違いないだろうと思ったジルは目の前のハートセカンドと瓜二つの存在がこの商会で働いている事を知っているのだが、同じ顔の人物が商会以外にも存在していた事実を知っているので目の前の女性は商会の店員ではなく万屋なのかを確認する。
「いいえ。私はこのシンロイ商会の一従業員です。今回、万屋を名乗る方からこの猫をこの場にいらっしゃるジル様とバリアド様にお渡しする様に指示がありました。それと商会長からですが、ジル様がこの商会の従業員になる事を許可するとの伝言があります。ジル様は商会で働かれる事を希望されていると言う事で宜しいでしょうか?」
一気に話しが進むのだが、全てが希望通りであるので全く否やはないジル。
「その通りだ。であれば、今後は同僚と言う事になるのだろうか?是非とも宜しくお願いしたい!」
やはり相当な美しさと気品に溢れている存在であると再度確認する事が出来、愛情ではなく崇拝の域にまで達してしまったジルと、これで根無し草の無駄な旅も終えて落ち着いてもらえると安堵しているバリアド。
「では、あの少女を一刻も早く猫と再会させてやりたい。商会での仕事についてはその後に詳しく話しを聞かせてもらうと言う事で良いだろうか?」
「もちろんです、ジル様。ではよろしくお願いしますね?」
崇拝の域に達しても心が揺さぶられる程の笑顔を見させられたジルだが、先ずは猫の対処が先と意識を切り替え、優しく猫をハートセブンから受け取ると一礼してバリアドと共に商会から出て少女の待つ家に向かう。
「ふふ、随分と真直ぐな人ですね」
一連の行動をしっかりと把握していたハートセカンドが、思わずと言った形でこう呟いていた。
その後は特段問題がある訳でもなく相当時間は経過したが無事に猫と再会できて涙ながらに喜ぶ少女と、はしゃいだ姿を見て自然と笑顔になっているジルとバリアド。
「爺。あの商会で働けると言う事は、きっと今後もこのような笑顔を見る事が出来るに違いない。頑張るぞ!」
三ヶ日も終わりで、日常が見えてきました。




