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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
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(54)アザヨ町の万屋

「あの時は動揺していたが、落ち着いて良く見れば・・・確かに冒険者達が唸るのを否定する要素が見つからない」


 初回にこの商店を訪問した際には一目惚れとも言えるハートエースにそっくりなハートセカンドとハードサードを見て動揺し店内をしっかりと見るには至らなかったのだが、その時と比較して更に販売品目が増えている商会に入店して素直に称賛しているジル。


 そこにダイヤキングから作戦を聞かされているカード部隊の一員でありこの店を任されているハートセカンドとクラブエースが、敢えてジル達の通り道で待機して上手く風魔法を行使した上でジル達だけに聞こえるように世間話しを始める。


「そう言えば何やらアザヨ町では万屋と言った店舗を持たない商店があるようで、不思議な活動をしているらしい」


「そうなのですか?店舗を持たない商店。何を売るのでしょうか?」


「それが・・・品を販売する事もあれば、普通では達成不可能と思われる依頼を遂行してくれることもあるらしい。所謂何でも屋のようだが、一旦依頼を受ければ達成率は100%だそうだ」


「それは凄いですね。ですが商材を販売すると言う事であれば我らがシン()ロイ商会と競合する事になりませんか?」


「それはないだろうな。結果的に同じ商品を依頼する人物がいたとしても、どうやら万屋では依頼を受けるか否かについては不思議な基準があるらしく今の所は大量に品を納品するような事は無い様子なので、我らがシン()ロイ商会と完全に競合する事は無いのではないだろうか?」


「そうですか。でも、その依頼ですが・・・迷い人や迷い猫探しの依頼でも受けてくれるのですか?それに、どの様に万屋に接触するのか良く分かりませんね」


「依頼の受注可否に関しては基準があるらしいが、依頼達成難易度ではない事だけは確実の様だ。依頼を受けてもらうには・・・噂によれば、何と我らがシン()ロイ商会の店舗の内部で希望する内容を呟けば、依頼を受けてもらえる可能性がある時に向こうから接触があるらしい」


「では、私も希望を呟いてみる事にしますね」


 正直二人は大根役者であり何の説明をしているのだと言う世間話しなのだが、根が真直ぐのジルは突然得られたこの情報を天からの恵みであると判断する。


 今は意識が少女からの依頼達成に向いている為に少女に笑顔が戻るのであれば達成方法については拘る必要は無いと考えており、このように余計なプライドを持っていない事もジルの人柄を表している。


 ついでに説明口調の世間話しをしているハードセカンドについても依頼者の方が重要であると思っているので口説くような事も無ければ崇めるような事も無いが、そこもしっかりと観察されているので最終的には神であるロイの判断は正しかったと改めて崇拝しているカードの者達。


「爺、聞いたか?」


「はい。爺のこの耳にもしっかりと聞こえました。呟く程度であれば今すぐにでもできる事ですから、試すのも一興かもしれません」


 風魔法の影響で二人にしか聞こえない話しと言う状況で情報提供を行ったカードの部隊だが、この情報を聞いたジルは自分達で何をしても痕跡すら見つける事が出来なかった猫探しに関して依頼を受けてくれるレベルがどこまでかわからないので、単純に行方に関する情報を得るかはたまた捜索までお願いするかは別として、先ずは話しが真実なのか確認するべく祈る気持ちで依頼内容を呟く事にした。


「その通りだな。一刻も早くあの少女に笑顔が戻るのであれば、手段を問う必要はないからな。頼むぞ・・・」


 店舗の中を移動して人気のない場所に到着すると祈るような気持ちで一人状況を話し始めるジルの表情は真剣そのものであり、同じく横にいるバリアドも何とか噂が事実であるように祈る気持ちでジルを見つめている。


「猫。と言っても正に家族として共に生活をしている少女の元から、その猫がいなくなってしまっている。その猫を探すように依頼を受けたのだが、残念ながら今の今迄足跡すら掴む事が出来ていない。その猫の情報・・・いや、正直ここまでお願いするのは非常に心苦しいが一刻も早く少女に笑顔を取り戻してもらいたいので、可能であればその猫の保護をお願いできるとありがたいのだが」


 ありのままを直接的に呟くジルと、周囲の気配に何か変化が起きないか期待しつつも視線はジルに固定されるバリアド。


<お話しは聞かせて頂きました!>


「むぉ!」


 かなり近くにいるジルが突然驚いたので不思議そうにしているバリアドだが、とりあえず危険はなさそうなので静観している。


 ハートセカンドが変声した上で、風魔法を使ってピンポイントにジルの耳にだけ聞こえるように調整して話しかけたのだ。


<あなたの希望、叶えましょう。貴方は義の心がありますね。その心に報いるように、我ら万屋がその依頼を承ります。明日同じ時間にこの場所に来れば、その迷い猫を引き渡しましょう>


「ほ、本当か?それは助かるが・・・報酬はどの程度準備すれば良いのだろうか?」


 少女から依頼を受けたと言っているジルだが実際にはお願いされただけで報酬などは受け取るつもりは一切ないが、逆の立場になった時には何を置いても報酬を支払うつもりでどの程度支払えば良いのかを聞いている。


<あなたの義の心が我ら万屋の報酬です。そしてもう一つの貴方の希望、シン()ロイ商会で働く事も叶えましょう>


「え?何故そこまで知っている?」


 思わず声に出してしまったのだが、これ以降は万屋を名乗る不思議な声が聞こえる事は一切なかった。


「爺。ナナちゃん(迷い猫)と、俺の野望であるこの店での就職も叶えてくれるそうだ」


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