(4)パーティー当日
ロイを除く面々が完全に徹夜で作業をし続けた結果、ある程度パーティーとしての体裁を整える事が出来たハイス子爵家。
残念ながらパーティーの準備に有用と思われる収納の能力を持ったリーンは王族から敢えて他の依頼を出されて不在である為にこの場にはおらず、更には何を購入するにも渋られて相当な苦労の上で準備を終えていた。
そんな中でも夜中にそっとロイの部屋の様子を見てしっかりと寝ているのか順番に確認しに来てくれた子爵夫妻、ルホークに感謝しつつ寝ているふりをしていたロイは、自らの本当の父である国王やその他の王族の行動に怒りすら覚えつつ、自分の収納の能力を一刻も早く開花させて少しでもハイス子爵家の力になりたいと思っている。
試行錯誤が続いているのだがハイス子爵家の環境が激変してしまった今でも能力の発動には至っていないばかりか、その兆候すら表れていない。
「ようこそお越しくださいました、陛下。ルホークは体調不良で欠席させて頂きます」
夕方になると無理難題を押し付け続けている国王のバレント、第一王子でロイの実兄であるハンブルが倒れるのではないかと思う程にのけぞった姿勢でやってくる。
立ち位置的には臣下なので一応歓待の言葉を投げているハイス子爵なのだが、何に対してもケチをつけるつもりなので真面な返答はない。
「ハンブルよ、良く見ておくが良い。本来国王からの依頼を受けた以上は全力を持って準備をするべきだが、この貧相な会場。その上に当事者が不在。このような状態で平然と国主を迎え入れる事が出来る臣下などいない方がましだ」
「全くその通りだね。グフフ……でも、どこかに綺麗なお姉さんがいれば良いかな?」
今一つ会話が成立していない王族の会話だが、実際には急に訳の分からないパーティーの準備を二日前に命令された挙句に必要な作業を妨害されてここまで仕上げて見せたハイス子爵は有能だ。
正直相当頭にくる会話を耳にしているハイス子爵だが王族に逆らっても良い事が無いのは嫌でもわかるし、ここで揉めればロイにも心労をかけてしまうと思い耐えている。
この日にロイが直接王族と会う事を避けるべきと思ったハイス子爵の面々の総意でロイはルホークと外出していたので、ルホークの体調不良は疲労から間違いではないが方便だ。
その後にも続々と招待した覚えのない貴族がやってくるのだが、口々にダメ出しをしながら準備されている食料を無駄にし続けている。
「まぁ、こんな貧相な食事を出せるなんてお里が知れますわね。テレシアさん?貴方はコレをどのような意図で私たちに出しているのかしら?」
とある貴族夫人が机の上に綺麗に配膳されている食事の内の一つを不快そうに指し示しながら、言いがかりとしか思えない文句を言っている。
「このお料理は、当子爵家の料理長自慢の一品でございます。非常に食感も良く、栄養価も高い品になっております」
何を言っても否定しか返って来ないと知っているテレシアだが、ヴァイス同様に耐えながら普通の会話の様に返している。
「おほほほ。こんなゴミしか出せないなんて貴族としては非常に悲しいですわね。ひょっとして、テレシアさんは真面な食事をしたことが無いのかしら?」
「そう言えば準備をしたのが長兄と聞いているわ。この結果を見ると能力不足かしら?」
いつの間にか数人の女性に囲まれているテレシアは、周囲から同じような質の悪いクレームを言われ続けている。
中には食事の皿をわざと地面に捨てる人もいるので、非常に悲しい気持ちになりながらも取り繕った笑顔のまま耐える。
食事を無駄にされる事も非常に不快だが一部は調度品にわざとぶつかり破壊している人物もいるので、張り付けた笑顔のまま拳を握ってしまうテレシア。
「あら、ごめんなさい・・・ちょっと躓いてしまったわ」
挙句には背後からお酒をドレスにかけられてしまうのだが、最後まで苛烈で陰湿な虐めを耐え抜いた。
どう考えてもパーティーの後とは思えない程の荒れようになっているハイス子爵家の邸宅では、使用人達が必死に片づけをしている。
流石にテレシアはそのまま手伝うわけには行かずに体を綺麗にして着替えている最中だが、ヴァイスはルホークが連れ出したロイが帰ってくる前に原状復帰しておきたいので着替える時間も惜しいとばかりに必死に片付ける。
こんな日々を送っていると、ある日リーンは家族にこう告げる。
「私、冒険者として登録するわ」
収入に対して無駄な支出が圧倒的に多いので、国家からの余計な依頼が無い時には少しでも収入を得ようと考えたリーン。
同時に自分が高位の冒険者で力を持てるようになれば無駄な依頼も武力によって突っぱねる事が出来る可能性があるので、一石二鳥と考えていた。
本来女性の貴族が冒険者になる事は異例中の異例なのだが、リーンの意図を言われず共理解しているロイ以外の面々は否定する事はなかった。
こうして新たな環境に身を置き始めたリーンは、突然戦闘能力が上がる訳も無く極めて安全と言われている依頼をこなして日銭程度の額を稼いでいる。
この頃になれば無駄にパーティー開催だのの嫌がらせを行う事にも飽きた国王達なので、時折リーンが地べたを這いずり回って活動している様子を聞いて悦に浸っているだけになっていた。
ロイにだけは苦境に陥っていると知られたくないと行動しているハイス子爵家の面々だが、ロイは全てを知りつつも優しいハイス子爵家の人達の意図を汲み取って敢えて知らないふりをして生活をしている。
しかし、何もせずにのうのうと収納の能力の発動の為に行動するだけでは申し訳なく、冒険者登録をしないながらもリーンの手伝いをしたいと申し出る。




