(36)スーレシア一行と
ジンタ町で癒しを行える唯一の場所である教会を牛耳り結果的にはシンロイ商会によって居場所を失った挙句に暴利を貪って貯めていた財産まで失っているスーレシア一行は、通常であれば徒歩で10時間程度必要なアザヨ町までの道のりをトボトボ歩いて数日かけて漸く到着する事が出来ていた。
「こ、これでまた優雅な生活が待っているわよ!」
町の入り口が見えている場所に到着したスーレシアは、子飼いの癒し手テルミッタに向かって明るい未来が待っていると告げる。
この場所から見える町は祭りでも開催されているのかと勘違いする程異常に盛り上がって活気があるように見えるので景気も良く癒しに対する対価も相当手に入れられるだろうと思うのは仕方がないが、この活気は無事な町民が戻ってきた喜びによるもので今この時点では残念ながら町の財政状況は宜しくない。
衰退する状況を改善しようと開拓を始めてしまった為に行方不明者が増加すると言う訳の分からない状況になっていた町なので、ある意味その日暮らしをしている町と言っても過言ではない。
「つ、着いたわ・・・」
道中どこから来たのかは不明だが、方向からジンタ町を経由して王都にでも向かう可能性が高い一行を見つけて半ば強引に癒しを行った対価を得る事が出来ていたので、多少ではあるが懐に余裕があるスーレシア達は一先ず宿で休む事にした。
宿を選択するほどの気力がないので入り口から近い宿・・・奇しくもロイが宿泊している宿と同じ場所に宿泊する事にして即部屋に入り休んでいるスーレシア達と、今日までシンロイ商会の様子を確認すれば次の町に移動しようと考えているロイ。
ロイからしてみれば移動は夜だろうが昼だろうが関係ないので、日中に様子を見てそのまま出立すると決めてミレニアに挨拶する。
「ミレニアさん。俺、この後新たにできた街道と店を見てから旅の続きをしますので、短い間でしたけれどお世話になりました」
「そうなのですか?残念ですが仕方がありませんね。実は、私にとってロイさんは幸運を運んでくださる方だったのですよ?ロイさんが来てから行方不明者は帰ってくるし街道はできるし、そしてあのお店!シンロイ商会の商品は安い上に何でもあるのです。その全てが素晴らしいのですよ?フフフ。お店の名前もロイさんにそっくりですから、本当に不思議な縁ですよね?」
「そそ、そうですね」
元を辿れば全てロイの仕業と言っても良い状況なので若干歯切れが悪くなるロイだが、何とか挨拶を終えてスーレシア達が眠りこけている宿を後にして出来立ての街道を歩いて行く。
道中に笑顔の町民とすれ違う事で気が付いたのは誰しもが今後の発展を疑っておらず、また努力しようと言う声も聞こえてくる事から、今回のダイヤキングの多少のやりすぎと思うこの行動も許容できていた。
街道が整備されている為に数十分で集落のような場所に到着し、再びあの商会の看板が掲げられている相当大きな店舗に客として入って行く。
事前に一般客として入るので過剰な接待はしないように、寧ろ放っておくようにと釘を刺した事もあり普通に店舗を見る事が出来たロイは、ホンの数分前にダイヤキングの行動を許容していた事を後悔している。
この店の運営はハートセカンド、ハートサード、そしてクラブエースで運営する事になっているのだが、彼等は事前の指示通りに自分を相手にせず接客を行っているので自由に店舗を見た所、ショーケースの様な入れ物・・・どう見てもダイヤ部隊特性の魔道具だろうが、少し興味のある品物があったと思った瞬間にその品物が何故か手元に突然現れた。
かなり驚きどうやって戻すのだと慌てた所商品は勝手に戻り、よくよく確認すると店舗中に店のシステムについての記載があった。
<気になるモノを思い浮かべれば、実際に手で触って確認できます!不要と思えばそのまま消えますが、お買い上げいただく際には入り口で清算下さい。これぞ神の御業、シンロイ商会の技術です!>
このような魔道具を王族時代も含めて過去に見た事がないので、販売されている商品そのものの種類・性能・品質とその販売金額の低さもさることながら、ショーケースだけで既に常識を逸していると頭痛がしているロイ。
その説明の内容も一般客には自画自賛にしか見えないのだろうがロイにしてみればロイを異常なまでに称えている内容なので、眩暈・頭痛、そして得体のしれない不安感に襲われるロイ。
「こ、これもか・・・」
この店舗は商品の種類ごと、例えば食料品、野営に必要な品、武器、魔道具、薬草、食料、夫々分かり易く分類されて纏めて展示しながら販売するスタイルになっている中で、今ロイがいるのは薬草のコーナー。
ショーケースには新鮮で効能の高い薬草が各種並べられているのだが、普通はこのレベルの薬草をこれだけの種類を揃えて販売している店など存在しない事はギルド職員であったロイは基礎知識として知っている。
薬草は採取後徐々に劣化するのが当然で、これもどう考えてもショーケースに何かしら劣化しないような機能をつけているのは今までの経緯から明らかなのだが、この部分に関しては少ない人数で店舗を回さなくてはならないのだから・・・と、強引に自分を納得させているロイ。
唯一の救いはダイヤ部隊が作成した有り得ない効能を持つポーションが販売されていない事だと現実逃避紛いの事を思っているのだが、仮に実際に販売されていたとするならばダイヤ部隊にとって程度の低いと思われているポーションですら一般の人々には見た事もない様な効能があるので、大騒動になる事は間違いない。
「ま、まぁ、もう町民の目に入っちゃったし、仕方がないよね」
誰に言っているのかわからない言い訳をして必死に心の安定を取り戻そうとしているロイは、軽く視線でこの店舗に留まる三人に挨拶をすると再び町に戻って他の町に続く街道を進む事にした。
偶然とは言えスーレシアと会う事は無くアザヨ町と離れる事が出来たロイは、少し街道を歩いたところで商会では今以上の対応をしないように念を押した。




