(32)アザヨ町(1)
「迷っている?相当街道から外れているって事?」
「はい。ここから徒歩で三十分ほど必要になるかと思います」
全く同じ顔が並ぶカード達を第三者に見られるのは得策ではないと考えているロイは、自らの足でスペードキングが示す方向に進み始める。
スペードキングも陰からロイを護衛しつつ、進行方向の邪魔な草を陰魔法によって処理している。
そうこうしている内に、ロイの視界にもその対象が見えてきた。
「随分と・・・って、何かを探していないか?」
迷っていると言うよりはトコトコ歩いて視線を注意深く地表に落としているように見えるので、何かの作業をしているのであれば声をかける事で逆に邪魔になってしまう為に少し様子を見る事にしたロイ。
やはりどう見ても迷っているのではなく何かを探しているように見えたので、どのみち助ける必要があると判断して驚かせないように少し遠くの位置からわざと音を出しつつ近接する。
「あの、ちょっと良い?何か落とし物かな?俺で良ければ手伝うけど?」
街道から相当離れた位置で作業していたのに突然見知らぬ男から声を掛けられてビクッとする少女だが、ロイの笑顔に少しだけ安心したのか若干警戒しつつも素直に答えている。
「えっと、落とし物じゃなくって、餌を探しています」
餌と聞いて相当お腹が減っているのかと不憫になるロイだが、体形はどう見ても標準的・・・むしろ相当健康そうに見えるので事情が分からず首を傾けてしまい、少女は慌てて付け加える。
「あ、餌、すみません。その、魔獣を獲るための罠用の餌です」
追加で説明してくれた事で事情を把握したロイだが、目の前の少女が少々警戒している状態に変わりはない。
「あ、そうなんだ。どんな餌なの?良ければ手伝うよ?」
と口にしながらもこんな場所で少女一人だけで活動しては危険なのではないかと言う思いは捨てきれていないが、スペードキングからの注意喚起が全くない事からこの周辺には危険な魔獣は潜んでいないと判断した。
「え?あ、はい。ありがとうございます。でも、もう見つけましたので大丈夫です」
モグラのように地中に潜んでいる危険度の相当低い魔獣を探していたようで少女の手には細い糸が握られており、その糸の先は恐らく釣りのような形で餌が付けてあるのか地面の中に引っ張られている。
こうなると特に手伝う事は無く、少女も糸を持っているだけで何かをする様子はないためにアザヨ町について聞く事にしたロイ。
「あの、君はアザヨ町に住んでいる人なのかな?俺は旅をしていて今からアザヨ町に行こうと思っているのだけど、もし住民であれば宿とか名産とかを教えてくれると嬉しいのだけど」
「あ、そうなのですか?ようこそアザヨ町へ!と言いたい所なのですが・・・」
周囲を警戒するような素振りを見せたので、改めて確認したスペードキングからの情報によって周囲には地中にいる魔獣以外には人だけではなく獣すらいないと聞いているロイは少女を安心させる事にした。
「大丈夫ですよ。この周囲には俺達以外には地中の魔獣以外には誰もいませんから」
信憑性が少しでも上がればと言う期待からあえてギルド職員のカードを提示しながら丁寧な言葉で話したことが功を奏して少女は続きを話してくれたのだが、どうしても不安な部分があるのか声は非常に小さくなっていた。
「あまりこのような事を言っては町の評判に直結するので問題なのですが、最近は行方不明者が増えているのです。年齢、性別、町民か来訪者か否かは関係なさそうとお父さんが話しているのを聞いたので・・・ごめんなさい!実はあなたの事も少しだけ人攫いかと疑っていました!」
突然謝罪されてしまったロイは何故自分の疑いが晴れたのかはよくわからなかったが、実はギルド職員のカードを提示した効果だ。
「そうなんだ。じゃあその餌が取れたら一緒にアザヨ町に向かおうか?」
ロイとしては町がそのような状態でこんな場所に女性が一人でいる事に良い思いをしていないので、餌を取り終えて共にアザヨ町に向かっている道中に理由を聞いている。
「・・・と言う事で、最近は何故か人がいなくなってしまうので、自分で食料を調達しなくてはならないのです」
簡単に予想できたことだが何時自分が攫われてしまうかわからないので自衛している人が多く、つまり活動を行わずに引きこもっているので、本来食料を入手すべき人材も一切動かずに全てが不足し始めている状態だと言うのだ。
この情報を聞いているロイの陰にいるスペードキングからカードのダイヤキングに情報が行くと、カード状態の者達で緊急会議が行われている。
「我が主をお迎えする町がそのような状態である事は由々しき問題だ!まったく、最近の町や村、なっとらん!なっとらんぞ!何故至高のお方をお迎えする態勢になっていないのだ!」
「ダイヤキング殿の仰ることは至極当然だとは思いますが、ご主人様をお迎えできる場所を人族が準備できるとは到底思えません。ですから、シンロイ商会と万屋の力をもってして改善する必要があるのです!」
いつもの通りにダイヤキングが持論を展開すると誰しもが賛同しつつも、ロイの為だけにどうすべきかを考えるべく話しを持って行くハートクィーンとその通りだと全員が賛同するこの会議は、誰も諫める者がいる訳も無くただ忠誠心が暴走する場になってしまっているのだが、ロイの考え・・・慈愛を持つ行動をすべきとの方針を思い出した時点で若干落ち着きを見せる。




