(228)商会開店(2)
数日にわたって襲来を受けたので都度宿の夫妻とリルを避難させつつ、店番として活動しているハートシックスとダイヤフィフス。
この頃になれば子供から情報を得た親も半信半疑ではあるがあり得ない品が陳列されていると聞き、興味が迫害行動よりも勝りポツポツと子供と共に店の内部に入っている。
カードの二人は相変わらず三人を上層階に避難はさせるが、特段入店拒否を行わずに黙って微笑を携えている。
この姿を見た町の人々は、例え同性の女性であろうがその姿に見惚れてしまい動きが止まってしまったのはお約束。
「こ、これは確かに・・・相当な品である事は間違いなさそうだ」
とある男性がショーケースの中に展示されている鉱石を一目見て相当価値のある品だと理解したのか、目を丸くしながら唸っている。
こうなると他の商品も気になり流れるように見ているのだが、何故か商品の最後には食事のレプリカが飾られていた。
食堂も継続して営んでおりショーケースから目的の食事を選択するとチケットが手元に来るので、そのチケットを店員に差し出す仕組みにしていた。
ショーケースの機能については他のシンロイ商会と同様に説明が記載されているのだが、残念な事にこの町の人々は商会の商品を購入するに相応しい人物だとは判定されていない結果、誰一人として紙に記載されている通りに手元に商品が転送される事はない。
もとよりショーケースの中にある商品を見て欲しいと思えば手元に来るなど眉唾だと思っているので、そもそも豊穣の神を称えないこの店であれば無駄な願望が書いてあるだけだろうと相変らず相当見下している気持ちがあるので騒動にならなかった事だけは良かったのだろう。
展示されている品々は高価であり本物の可能性が極めて高いと認識し、更に何故か同列に展示されている食事のサンプルも美味しそうに見えるのだが、全ての品を購入する事が出来ない。
無駄な信仰心や今まで行っていた迫害が正義だと思っているのでそのような店から購入する事を躊躇っている事実もあるのだが、そもそも商品が手元に来ないので購入しようがないと言う事も有る。
数日同じ状況が続いただろうか・・・どうしても鉱石が欲しいと思った男性が、店にいるダイヤフィフスに思い切って声をかける。
「そこの・・・ダイヤフィフス?店員だろう?お前は新顔だから邪教に染まっていない内に俺が正しい道を示してやろう」
名札を見て呼び慣れないし聞き慣れない名前を何とか言い切った後に自らがしっかりと豊穣の神を称える様に指導すれば品を購入しても問題ないと考えたのか、不遜な態度を崩さずに接触している。
「お前が信仰している神はいるのか?当然数日はこの町で生活をしているはずなので如何に豊穣の神が素晴らしいか、称えるに相応しいかは知っていると思うが?」
「称える神・・・お一人だけいらっしゃいますね。この町だけではなく大陸が、世界が認めるべきはそのお方のみ。唯一無二の絶対的な存在です。非常に慈悲深く慈愛溢れる敬愛するご主人様以外に誰かを称える等、あり得ません」
途中までは豊穣の神を称えている可能性があると思い機嫌が良かった男だが、最後まで話しを聞けばどう考えても別の存在、そもそもご主人様と言っている以上は神ではない存在を称えていると理解する。
逆に言えば主は主、神は神として別格の存在を改めて称える事に障害はないだろうと思ったのか気を取り直す。
「そうか。その主と言うのはお前に想われて幸せなのだろう。だが信仰とは人の常識では考えられないお方に対して行うものだ。つまり主は主として崇拝するのは良い事だが、他にも称えるお方がいても良いのだぞ?」
「はぁ?」
ダイヤフィフスを含めたカードの者達にしてみればロイだけが絶対の主であり、この男が言う通りに人の常識では考えられない程の超常の人物なので“その他に”と言われると非常に機嫌が悪くなり露骨に態度に出る。
怒りを含んだ表情でもやはり美しいので、怯えながらも何故か感動すると言う不思議な感情に襲われつつも本来の目的を遂げようと話題を変える。
「そ、それでだ。あのケースにある鉱石だが、この私の慧眼によれば非常に価値のある希少な鉱石だと確信している。お前達が偶然手に入れて何の気なしに展示しているのだろうが、価値が分からなければ非常に痛い目を見るぞ?偽物を掴まされる事もある!」
ショーケースに展示している品には価格も併せて提示されており、そこには鉱石が本物と仮定すれば一割程度の売価が示されていたので自分がしっかりと本物だと理解させる事で恩を売り、更にはその恩を対価に表示通り一割の金額で手に入れようと思っていた。
「あぁ、余計な講釈は一切不要です。我らシンロイ商会にまがい物など一切ありませんから、心底余計なお世話です」
どうしても機嫌が良くならないので表情も厳しいままにそっけない対応をするダイヤフィフスと、明確に拒絶の対応を受けてしまった以上は周囲の目もあるのでここで揉めては恥だと男は尊大な態度を崩さずに退散する。
「はっ、モノの本質・・・称える神の存在すら理解できないのであれば、本物に見えても全てがまがい物なのだろうな。所詮はこの程度の店なのだ!」
冷静に考えれば鉱石だけではなくその他の回復薬なども有り得ない程高価に見えるのだが、その全てが破格なので自分の判断が間違っていたと自らを強引に納得させている。
「そうだ。絶対にアレは偽物だ。悔しいがあの美貌にやられて目が曇っていたに違いない!」
帰宅途中にこう呟きながら男は自宅に帰るのだが、やはりどうあってもあの鉱石を手に取ってみたいと言う気持ちが抑えきれずに突拍子も無い行動にでる。
できる事と言えば・・・豊穣の神に関する脅しは一切聞かず、更には町を挙げての迫害にも一切ダメージを受けていないように見えるので、可能かどうかは別にして夜間に忍び込んで奪うのか日中に訪問して普通に購入するかになる。




