(225)そんな神は不要(4)
「おはようございます、シルハさん。それと、おはよう!ゆっくり眠れたかな?」
スペードキングからシルハと少女は一階に移動したと聞き、朝食を食べるために同じく一階に向かったロイは既に席についている二人に挨拶をする。
「おはようございます、ロイ様」
「おはようございます。あの、私はリルって言います。昨日はありがとうございました」
若干慣れたのか自己紹介までしてくれる少女だが、多少余裕が生まれたせいで緊張しているのか敬語になっている。
「そっか、リルちゃんか。宜しくね!そんなに緊張しないで?普通に話してくれて良いからね!ですよね、シルハさん?」
「そうですよ。ここにはリルちゃんの味方のお兄ちゃんとお姉ちゃんしかいませんから!」
シルハのその性格からか、優しさが溢れる様なふんわりとした笑顔を見てリルの肩の力が抜けたように見えるので自然と笑顔になって席に着くロイ。
当然の様に、コレがリーンならどうなっただろうかと思っているのだが口には出さない。
未だに大切に鉱石に見える品を持っているのは視界に入ってしまうが、その辺りを話題にしては折角若干でも笑顔が戻ったリルに再び暗い影を落としかけないのでロイもシルハも敢えて問いかけるような事はしない。
ロイとしてはどの道今日の夕方の定例報告時にでもダイヤキングから詳細な情報が齎されると思っているので、今日は一日リルと行動を共にして少しでも元気になって貰う方向に舵を切る。
「リルちゃん。知っているとは思うけどお兄ちゃんとお姉ちゃんは旅をしているんだ。この町について・・・えっと、観光できる場所があれば一緒に行ってくれるかな?」
この町について聞いてしまうと嫌な事を思い出してしまうと感じ、慌てて具体的な要望を伝えているロイ。
「あの・・・私が知っている場所はそう多くないけど、それでも良ければ案内するね?」
未だに少々緊張が見えながらも敬語が取れたので良い兆候だと感じたロイとシルハは、食事を済ませるとそのまま宿を出てリルに付いて行く。
昨晩得た情報からこの宿も苦境に陥っていると理解したロイなので、安全の為にカードの部隊を一名こっそりと配置している。
これはロイの良心からの行動だが、この行動がダイヤキングを刺激する。
「ご存じの通りに宿の護衛としてハートシックスが配置されている。では何故我が主は四部隊の内、回復・防御が得意なハート部隊を配置されたのか・・・そこに神である我が主の狙いが隠されている!」
ロイは万が一を考えて高度な回復が出来るハート部隊を配置しただけに過ぎないのだが、ダイヤキングを筆頭としたカードの者達にとってみればそこには海よりも深い考えが隠されている事になる。
「本来は陰ながらの護衛であればスペードの部隊から選択されるはずだ。だがしかし!敢えてハートシックスを選択成された。つまり・・・だ」
カードの者達全員がダイヤキングの次の発言に集中する。
「あの店の裏にはご存じの通り空き地がある。そこをハートシックスの力で土壌改善し、肉以外の食材を自生させようとのお考えに違いない。調査の結果、宿の方々が入手できる素材は劣悪な品ばかりだからな」
「そうだったのか!流石はダイヤキング殿。我が主のお考えの一端にお気付きとは、恐れ入る。では、早速ハートシックスに指示を出しておこう」
ダイヤキングの勝手な案に同意したハートキングが、自らの部隊の配下とも言えるハートシックスに対して早速動くように指示を出す。
ロイからは行動に対して許可を得ていると勝手に解釈をしているのでハートシックスも直ぐに行動し、既に宿の裏の空き地は何故か種も無いのにこれ以上ない程に各種食材が豊作状態になっている。
何もなければ裏庭とも言える空地には宿の夫婦も含めて誰も侵入しないので永遠にこのままだが、万屋として商会設立に関する件を伝える時に教えれば良いと考えている。
更に・・・まだダイヤキングの勝手な解釈による演説は続いている。
「つまり、我が主はあの宿自体にシンロイ商会を設立せよと暗に指示を出されていたのだ。フハハハハ。宿についても我らダイヤ部隊が全力を持って改修すれば、他の宿など競合相手にすらならない。結果的に訳の分からん神を崇めてふざけた行動を行った面々は我らが主を崇める少女、そしてあの宿に頭が上がらなくなるのだ!」
繰り返しになるがダイヤキングはロイの指示である万屋の行動制限、そしてシンロイ商会設立、リルの扱いについて行動すれば、それ以外は何をしても良いと許可を得ている気になっている。
こうして勝手な解釈の元、早速万屋としてこの宿の夫婦に接触する。
その内容はこの宿を改修してシンロイ商会とするが基本的に経営権はそのまま夫婦が持つ事、助力の証拠として既に裏庭を事前に改修済みである事、リルを家族として迎える事を告げた。
突然訳の分からない声が聞こえて驚く夫婦だが、裏庭に行きあまりに立派な食材が出来上がっていた事から話しの内容は事実だと理解し、正直このままでは自らの生活も厳しくなる事は目に見えていたので申し出を受けた。
その後再び不思議な声が聞こえ、指示の通りに片隅に移動して目を瞑るといつの間にか意識が飛び、目が覚めた時には見た事も無い様な綺麗な建屋が視界一杯に広がっている。
恐る恐る中に入ると気配を消す必要がないとばかりにハートシックスが待ち構えており、豊穣の町のシンロイ商会の従業員として今後共に活動すると告げていた。
いつの間にか従業員まで増えた事で給金が払えるのか心配になったのだが・・・
「私に給金は不要です。シンロイ商会の本部から頂きますので、ご心配なく」




