(221)新たな神の存在を知る
再び旅を続けているロイとシルハ。
「うーん。今迄本当に適当に歩いてきましたけど次はどうしましょうか?あちらに乗り合いの馬車がありますから、適当に乗ってみるのもアリですかね?」
特段目的地を決めているわけではない二人なので、一般の人々と共に馬車での長距離移動の旅にしても良いのではないかと考え始める。
乗合であれば行動に制限が出てしまうし向かう先によっては護衛と共に移動する事も有るが、今までにない経験ができるとも言える。
「良いですね!行ってみましょう!」
視界の先には多数の馬車が止まっているので、そこに行けばどの馬車がどこに行くのかはすぐに分かる。
自国に戻る選択肢は今のところはないのでそこだけを気を付けて目的地を決めようと考えているロイは、笑顔のシルハと共に馬車に向かう。
「シルハさん。正直俺はどこも聞いた事が無いような場所ですが・・・行きたい所はありますか?」
「私も名前を聞いても全く場所がわかりませんので、ロイ様が感じたままに選んでいただければと思います!」
目的地を決めているわけではないが少しくらいは情報を得た上で決めても良いと考えたロイは、それぞれの馬車の御者に話しかけている。
目的地周辺の環境、例えば山なのか平野なのか、はたまた海に近いのか・・・や、特産物、治安、色々と聞いた結果一つの町を選択した。
「ロイ様?色々と情報を得ていたのは分かりましたが、この馬車を選んだ理由をお聞かせいただいても良いですか?」
「実は、農耕地帯が多くて食事が美味しいらしいです。豊穣の町と言うらしいですよ?」
かなり情報を集めた結果、目的地を決めた理由が食事なので少しだけ恥ずかしい気持ちで答えているロイ。
「そうなのですね!楽しみです。やはり旅の醍醐味はお食事、景色、色々ありますから、是非とも楽しみましょう!」
ロイの不安は的外れだったようで、シルハはロイの言葉に賛同して嬉しそうに指定された馬車に乗り込む。
流石にロイも慣れたのか真の冒険者ではないシルハの相手も普通にできるようになっており、短いながらも結構濃い経験をしているので会話が途切れず、また道中に何かがある訳でもないので安全に数日かけて目的の町に到着する。
「うわぁー。綺麗ですね、シルハさん」
ロイとシルハの視界に入ったのは一面の麦畑であり、これほどまでに広大な土地の見事な風景を見た事が無かったために二人揃って感動している。
当然全てが畑である訳が無く、体の向きを変えれば町に相応しい住居が立ち並んでいる。
「ロイ様。これならばお食事の方も期待できるのではないでしょうか?」
「本当ですよね。早速宿に行って食事をしてみましょう!」
二人の予想通りに宿で出てきた食事も非常に美味しく正に旅の醍醐味だと感動したまま就寝するのだが、カードの者達はこの町の調査をある程度終えた段階でその情報を基に会議を開催していた。
「もう知っての通り、この町はまるで我が主を迎える体制になっていない事がこれ以上ない程に明確になっている」
いつも通りに口火を切ったのはダイヤキングだが、その内容はロイが感じた感想とは真逆で否定的だ。
「確かにダイヤキング殿の言う通りだ。我らが主、神である我らが主を差し置いて別の神を称える等、まるでどこぞの聖国の様な町だとは・・・非常に残念だ」
農作物を糧としている為か豊穣の神を祀っている町だけに、その神以外は信仰に値せず全ての事象は神の御心と言う極端な町である事が判明していた。
当然万屋やシンロイ商会を要するロイが称えられるべき唯一の存在であり神なので聖国ロナ、更にはそこに属しているスーレシアやテルミッタの様な不埒な者を含めて他の者達を称える等論外だと考えているカードの者達。
だからと言って即座に過剰な行動を起こせばどう見ても良い気分になっているロイに対して悪影響を与える可能性が高いと、本当に珍しく正しい判断をしていた。
「なれば暫くは様子を見つつ・・・我が主の行動を少しでも妨げる現象が起きた暁には、我ら万屋の出番だと言う事を明言しておこう!」
「「「「「異議なし!」」」」」
こうして今日の会議はあり得ない程冷静に、そして多少なりとも常識が崩壊してしまったロイにしてみても許容範囲の結論に収まって閉会された。
翌日・・・農耕地帯ではなく町を散策しているロイとシルハは町の中は他の町とそう変化はないのだなと思いながらも、時折名産物として売りに出している食材を摘まみながら観光を楽しむ。
「・・・ロイ様」
するとシルハの視線に何かが映ったようで少々悲しそうな、心配するような声が聞こえてきたために、ロイもシルハが向けている視線の先を見ると・・・そこには少女が一見では何らかの鉱石らしき品を大切に小さな両手で抱えるように持っており、その周辺を少し大きな子供達が距離を置いて囲うように位置取っていた。
少女の服装はお世辞にも良い物とは言えず、その姿を見るだけで手に持っている鉱石に見える品は粗悪品か何も価値のない模造品だと想像できるほどだった。
「おい、そんなゴミを何時まで抱えているんだ!」




