(208)シルハと万屋(1)
ロイは単独でシルハを宿に残している以上、彼女の安全を確保するべくスペード部隊の一人を護衛任務に就けているし、実は勝負の相手やギルドマスターにも護衛をつけている。
普段シルハに関しては行動を共にしているので安全は確保されているしシルハ当人を強化する必要性も今のところは感じていないので何もしていなかったのだが、今日は完全な別行動になるので早々にスペードテンを召喚していた。
「今日は久しぶりに一人ですか。こうなると少々寂しいですね。如何にロイ様の存在が私の中で大きくなっているのか、改めて感じる事が出来たのは良いことかもしれませんが・・・ダメですね!部屋にいてもモヤモヤするだけです。お手紙だけ書いた後は町に行きましょうか?」
一人部屋に戻ったシルハは笑顔で呟いた後にソシケ王国の王太子バミュータからお願いされている、定例報告の手紙を書き始める。
ある意味暗号の様な文字になっているので残念ながらスペードテンにその内容は理解できないのだが、そもそもロイを崇拝するかのような言葉の後に書き始めている手紙である事やプライバシーの件もロイから言い含められているので内容を把握するような行動はとらない。
唯々、シルハの安全に関してのみ注意を払っているスペードテン。
実際に解読できたとしてもロイとの近況報告が書かれているだけであり、惚れた弱みか過剰に脚色している普段の生活報告になっている。
読む側のバミュータも恋愛に関する知識・経験が無いので、ロイの懐に深く潜る作戦が滞りなく遂行されているとしか理解できない。
「ふふ。少々ロイ様への気持ちが溢れすぎている気がしますが、これ以上は控えめにする部分がありませんから仕方がありませんね」
バミュータから得た情報や自らの経験から万事屋に聞かれている可能性が高いながらも本心からの呟きなので止める事はできないしする必要もないと考えているので、そのままいつものように手紙を小さく折り畳んで自らのネックレスについている箱にしまい込む。
カードの者達がロイを過剰に持ち上げるのと同じくシルハもロイの素晴らしさを知ってもらいたいので正直に言えば書きたい事はまだまだあるのだが、ネックレスについている箱にしまい込める大きさには限度があるために少しだけ物足りなさを感じつつも作業は終了したので部屋を出る。
スペードテンにはロイへの素晴らしい想い、完全に共感できる内容を認めた書面を大切に保管しているように見えるので、やはりプライバシーの観点からこの件はロイに報告が上がる事はなかった。
シルハは宿を出ると適当に周囲を散策するのだが、何を見ても何を食べてもロイと共に行動していた時よりも楽しく感じる事は出来ずに無意識の内にロイが向かった方向、門に向かっていた。
シルハの目に映っているのは街道からこの町に向かっている冒険者一行なのだが、明らかにロイ一行ではないので少しだけ寂しい気持ちになりつつも慌てて走り寄っている。
なぜならば、冒険者一行が結構な怪我を負っていたのだ。
「大丈夫ですか?私に掴まってください!」
「す、すまない。急ぎギルドマスターに報告したい事があるので甘えさせてもらう」
命に別状はなさそうな所が救いではあるが、シルハから見てかなり強そうに見える冒険者達でもこれほどの怪我を負ってしまう現実を目の当たりにして、いくら万屋がいるからと言っても絶対にロイが安全なのか・・・と、急に不安に感じ始めている。
とは言え今は要望通りに冒険者を補助してギルドに連れて行くのが先決だし、ギルドに行けば回復薬もある可能性が高いと思い気持ちを切り替える。
「さ、私の肩に掴まってください。よいしょ・・・アレ?」
歩行に難がある大怪我を負っているように見える冒険者に肩を貸す形で立ち上がったシルハだが、想像以上に軽く立ち上がる事が出来るばかりか勢い余って冒険者が一瞬浮いてしまった。
「いててて」
冒険者側も見た目華奢なシルハに突然体ごと持ち上げられるとは思っておらず、怪我をしていない腕に負担がかかる上に着地時には今まで以上に足に負担がかかり思わず顔をしかめてしまう。
「も、申し訳ありません!!大丈夫ですか?」
何故これほどまでに力が出ているのか、恥ずかしいやら申し訳ないやらでグチャグチャの感情のまま慌てて謝罪しているシルハ。
「いや、こっちこそ申し訳ない。急いでいるので重ねて申し訳ないが、このまま進んでもらえるか?」
「はい。他の皆様は大丈夫でしょうか?」
他の面々も怪我をしているのだが、直接歩行に障害が出る様な怪我ではないので痛みに堪えつつ町に入って行く。
何時まで経っても疲れる事も無ければ冒険者が負担に感じる事も無いシルハは、逆に冒険者側が何らかの能力で負荷をかけずにいてくれているのかと勘違いしたまま進んでいるが、当然コレはシルハの足元に潜んでいるスペードテンの助力によるものだ。
風魔法を行使して冒険者の体重分を相殺する形、つまり全く重さを感じないようにコントロールしているが、自力で歩いている者達には何も補助をしていないのでやはり相当辛そうな表情をしている。
「間もなくギルドです。直ぐに治療も出来るはずですから頑張ってください!」
この状況はシルハの負担になっており改善する事でシルハの助けになるのは間違いないので、護衛として光魔法で冒険者達を癒しておくべきだと判断したスペードテンは万屋として接触する事にした。
事前に何かあれば万屋として対処して良いとロイから許可を貰っていたので、シルハの陰に潜ったまま声だけを伝える。




