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暴走能力を持つ主の苦悩  作者: 焼納豆
207/234

(206)恐怖の森

 過去について調べるつもりもなかったカードの者達は、恐怖の森に存在する巨大な魔核を手に入れる勝負と聞いて即座にジョーカーが現物を手に入れていた。


 その上でダイヤキングの指示によって代替品である純度の非常に高い鉱石を設置し、周囲の多少澱んだ魔力を吸収して魔石・・・則ちその後も魔力を吸収し続ける状態を確認したので環境に大きな変化が起こる事は無く全く問題ないと判断してその場から去っていた。


 現実的に魔核と魔石についてはその存在は大きく異なっているのだが共に人族にとっての効果は同じであり、色々な道具を動かす燃料やら各種素材になり得る重要な物であると認識されている。


 魔石とは色々な素材の原石とも言える鉱石を基に変化したもので、魔力を吸収、蓄積する事により魔石になる。


 一方の魔核は魔獣と呼ばれる存在の心臓であり、魔獣が生まれた直後からもとより魔力を帯びているので厳密に言えば魔石よりも魔力に対する親和性が高い。


 カードの者達にとってもその程度の認識なので何を置いても勝負を勝たせる必要があるので魔核を入手し、ロイが無駄に環境を変化させるのを禁止している事からダイヤキングが代替案を出しただけ。


 長期的に継続した観察などするわけも無く、幾ら純度が高く魔力吸収効率が高いとは言っても周囲の膨大な澱んだ魔力を吸い続けられない魔石には早くもヒビが入り始めている。


 そうなると周囲の魔力の吸収量は急激に減少し、生息している獣や魔獣が濃い魔力に晒され続けた結果どうなるのかと言うと・・・その殆どが変異種となり相当な力を持つ存在に生まれ変わる。


 変異種ともなれば魔核やらなんやらが通常の個体と比べると別格になるので素材としては有用だが仕留めるのには命がけ、場合によっては容赦なく死亡する未来が待っているのでおいそれと手を出して良い存在ではなくなっている。


 中には凶暴化する個体も出てくるのだが鉱石を設置した場所、元より魔核が存在していた場所が恐怖の森の奥深くになるので今の所人族の国家(・・)には何も影響はないが、永遠にこのままなのかと言うと決してそうではない。


 今までは魔核によってある程度魔力が吸収されて均衡を保っていたのだが、今は吸収できない分の余剰魔力が放出されているのでその均衡はあっさりと崩れる。


 結果的に凶暴化した魔獣や獣を避けるように縄張りを移動する個体が出てくるので、押し出される様に比較的早い段階で通常個体ながらも普通は目にしない獣や魔獣がポツポツと人族の目に入る事になる。


 つまり今のロイ達の様に森の奥に進もうとしているのであればかなり早い段階で相当な強さを持つ敵、それも少なからずパニックに陥っている存在と相対する事になるだろう。


 状況を正確に知っている者がいない中で一行は恐怖の森に続く街道を移動しているのだが、やはり高レベルの依頼が密集している箇所である事から時折相当な強さを持つ存在が音も無く襲い掛かってくる。


 何故か最も外側を歩いているロイに矛先を向ける存在がいないのだがコレは足元のスペードキングが局部的に強烈な殺気を飛ばしているので、無意識下でその存在を認識した敵は危険な存在であると判断したロイに向かう事はなかった。


 ギルドマスターや数人の冒険者、ミラーラ王女の護衛であり決闘の相手でもある目眼の護衛が夫々襲い来る敵を排除しているのだが、相当な戦力があるのかロイでは目視すらできない動きでしっかりと対応している。


「凄いですねぇ~」


 どのように対応しているのか正確に把握する事が出来ないロイは本心からこのように呟くのだが、この場にはもう一人何もできずにいるせいで多少余裕がある存在・・・ミラーラ王女がおり、彼女だけがこの言葉に反応する。


「あら?貴方は随分と余裕がありそうですね。何故貴方だけ襲われていないのか不思議ですが、その力が今回の決闘をあっさりと受けた秘策かしら?だとしたら考えが甘いわね。まだここは恐怖の森ではないのよ?その油断が大きな命取りになるわ!」


 勝手な想像で話しを進める所はダイヤキングにそっくりだなと思いつつも、その言葉の奥には身を案じている雰囲気を感じたのでロイは普通に対応している。


「ありがとうございます。恐怖の森の中では油断しないようにしますね。お気遣いありがとうございます」


「べ、別に気なんか遣っていないわよ!」


 所謂ツンデレなのだろうか、ロイとしては激甘の女性(リーン)や同じような存在である母親にはそのような属性が無かった事から、初めての経験で一瞬何とも言えない不思議な気持ちになっているが悪い気はしていない。


「それでも、ありがとうございます!」


 爽やかな笑顔で会話をしているのだが、周囲ではかなり激しい戦闘が継続して行われている。


 この状態が続きつつも当然歩みは止めていないので、やがて今迄いた森よりも明らかに雰囲気の悪い何とも表現し難い薄気味悪い森がロイにも見えた。


 力のないロイでさえ雰囲気を感じ取れる森なので、誰に聞くまでも無く恐怖の森に到着したのは理解できて全員が足を止める。


 境界に差し掛かっているのかこの頃になると恐怖の森側を刺激する事を嫌ったのか獣や魔獣の襲撃はパッタリと収まり、周囲への警戒は必須だが休憩する事も出来ている。


「では、少々休憩して準備が終われば勝負開始とする!」


 ギルドマスター自身もかなり疲弊しているので、見た目上は平静を装っている眼鏡の護衛も同じく疲弊しているだろうと判断して休憩後に勝負を開始すると宣言したギルドマスター。


 可能であれば早く勝負を開始して夕刻までの滞在ではなく少しでも早くどちらかが魔核を持ち帰って勝敗を決して危険地帯から退避したいと思うのは誰もが考える事なので、ロイはその辺りについて周囲に聞こえないようにギルドマスターに言及する。


「お気遣いありがとうございます。少しでも早く勝負をつけるために、あちらの状況が整えばいつでも勝負を開始してください」


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