(205)決闘へ(3)
「ふぁ~、おはようございます」
「ふふ。凄い寝ぐせですよ、ロイ様」
昨日は精神的に疲れていたのか熟睡できたのにまだ少し眠いなと思いながら食堂に向かったロイは、間違いなくロイを待ってくれていたシルハと笑顔で挨拶する。
「あ、ありがとうございます」
ついでにシルハが優しくロイの寝癖を直してくれたので、完全に目が覚めたロイ。
「今日はいよいよ勝負の日ですね。まだ日は登っていませんが、これから一度ギルドに向かうのですか?」
「そうですね。ギルドマスター達も恐怖の森入り口まで移動する様ですから、リスクを考えると全員・・・ミラーラ王女も含めて皆で移動した方が良いと思いまして。でも、あの森の名前はもう少し何とかならないのですかね?ちょっとセンスがないような気がします」
何も知らない人物が今のロイの言葉を聞けばギルドマスターやミラーラ王女の力を借りて安全に恐怖の森入り口に到着しようとしている姑息な男!と映らなくもないのだが、本当の力、ロイの後ろに隠れている万屋の存在を知っているシルハからしてみればギルドマスターとミラーラを守る為にロイが行動を共にすると言っているのは理解できる。
「ふふふ。名前については何とも言えませんが、相変わらずお優しいですね?」
「え?そうですか?シルハさんの目も疲れのせいか少々曇って来たのかもしれませんね?さっ、朝食にしましょう!」
持ち上げられるのもリーンや家族から過剰に褒められている経験が豊富なので軽く流したロイは、朝食を食べると一人ギルドに向かう。
今日は昨日決めた通りにシルハは一人でゆっくりする日にしていたので、ロイと同行せずに宿の部屋に戻って行った。
「そう言えば今回はどう動けば良いのか聞いていないけど、スペードキングはダイヤキングから何か聞いている?」
薄暗い道を歩きながら、一応まだほとんどの人が寝ているのでいつも以上に小声で話しかけるロイ。
「このままギルドに向かって頂ければ良いとの事です、我が主」
「ありがとう」
いつも通りと言えばいつも通りなのだが昨晩の内に対応はダイヤキングに一任する方向にしていたロイは今後どう行動すべきなのかを聞き、明確な指示が出た事から言われた通りにギルドに向かって進んでいる。
「おっ、ロイ殿もこれから向かうのか?」
丁度ギルドの前の通りに入った所でギルドマスターと数人の冒険者、更にはミラーラ王女と実際の決闘相手になる眼鏡の護衛が重装備でこれから移動を始めようとしていた。
「あ、貴方!?適当に周囲を散歩してきます!と言わんばかりのその格好。ふざけているのかしら?それとも降参してこの場に謝罪しに来たのかしら?それならば許してあげない事も無いわよ?」
確かに今のロイは軽装であり、旅をする際にダミーで背負っている荷物すらなく手ぶらでこの場に来ている。
そもそも収納魔法を持っているカードの者達がありとあらゆる品を保存しているしいざと言う時には自分が持っている収納袋の中に入っている物資を活用すれば良いので、危険な場所に行くと言われてもこれと言って荷物が必要になるとは思えなかったロイ。
この辺りもやはり一般常識が欠落し始めていると言えるのだが、普段行動をサポートしている存在が存在なので本当に第三者的な一般人が指摘し続けなければ今後も改善の見込みはない。
その結果・・・返事も自分の常識基準での返事になってしまう。
「えっと、大丈夫ですよ?森の中に有る大きな魔石・・・じゃなかった。魔核を探してくるだけですからね。問題ありません」
目的の魔核は既にカードの者が収納しているので現地には魔石が設置してあり、その事実を知っている為に思わず魔石と言ってしまい慌てて言い直しているロイ。
「・・・わかったわ」
ミラーラ王女はこれ以上ロイに何を言っても決闘は中止できないと判断して、諦めたかのように歩き始めてしまう。
ギルドマスターや数人の冒険者達はロイのその姿に驚きこそすれ噂が事実である可能性が高い、つまり万屋を背後に持つロイであれば今の有り得ない妄言も本心から言っているのだろうと判断して無意識の内に緊張したのかゴクリと唾を飲んでいる。
「そう言えば質問があるのですが、ギルドマスターに聞いても良いですか?」
「ん?何でも聞いてくれ、ロイ殿」
今後の対策方法についてダイヤキングから何も聞いていないのだがロイが仮に森に十分程侵入した後に魔核を手に入れたと宣言して戻った場合、ミラーラ王女側が不必要に森の中に取り残される可能性がある。
冒険者に対して気遣いが出来ているロイなので、気遣いの対象が王女の護衛に変わっても同じように過剰な不利益を与えるのはまずいと言う考えで質問する。
「仮に・・・ですよ?魔核が早い段階で見つかったとします。その場合には相手がその状況を知らなければ夕方まで危険な場所に滞在する必要がありますよね?それって無駄だと思うのですよ。その辺りはどうお考えですか?」
言葉の裏には魔核を早い段階で見つけて戻って来られると明言しているので、万屋ならばそうなのかもしれないと思ったギルドマスターはその対策も万全だと告げる。
「大丈夫だ、ロイ殿。森に入る際にこいつを渡しておくからな」
範囲としては広くはないが、通信できる貴重な魔道具を見せるギルドマスターだ。




