(201)久しぶりの万屋
「ゲホッ、ゲホッ!」
「大丈夫ですか、ロイ様?」
ギルドマスターの執務室で盛大にむせているロイと背中を優しく摩っているシルハ、その二人を笑顔で見つめているギルドマスターと王妃のゼレンラ。
「し、失礼しました。シルハさんもありがとうございます。もう大丈夫です。ですがそのキノコは普通に採取しただけで、特段何かをしたわけではありません!」
慌てて謝罪した後に流れに乗って言い訳を付け加えているのだが、これは継続してキノコの採取を王族から命令されては自由な行動が疎外される上に噂が広がれば同じ効果を望む者からの依頼が絶えず、その内よからぬ連中が現れると知っているからだ。
「そうなのですか?ですが結果を見れば二人が採取したキノコによって異常なほどに体調も含めて回復しているので、原因はさておきお礼だけはしっかりとお伝えしたいのです」
ロイの懸念はゼレンラには該当しなかったようで、この口ぶりであれば本当にお礼を伝えたいだけなのだろうと思っている。
冷静に考えれば対象の人物は既に体調が回復しているのだからこれ以上何かを望む可能性は・・・ないとは言えないが低いだろうと思い直すが、だからと言って王族と面会したいかと言えばそうではない。
「えっと、俺としては遠慮させて頂きたいと言いますか・・・」
対象には自分だけではなくシルハも含まれているのでチラッと様子を見たロイだが、自らの願望が影響している可能性は捨てきれないながらもシルハも難色を示しているように見えたので再度断りを告げようとする。
「あの、やっぱり・・・」
<我は万屋、万屋、よ・ろ・ず・や です。ゼレンラ王妃のその姿勢は称賛に値しますが、我ら万屋が守護すべきハイス子爵家のロイ様にも都合がある事を理解して頂きたいと思います。それとゼレンラ王妃が調査した結果の通りにあのキノコは回復作用があるように我らの方で調整した結果ですので、以降は差し控えましょう>
ロイの困惑を察知したダイヤキングの指示で、急遽万屋として介入したジョーカー。
以前フラウと別れたあの町での魔法による花火以来のナイスフォローだと小さくガッツポーズをしているロイなので、姿は見えないながらも顕現しているジョーカーとスペードキングが見逃すはずも無く、その情報を伝え聞いたカードの者達も歓喜している。
「わかりました。恩人に無理を強制するわけにはまりませんので、ここは引きましょう。ですが一つだけ教えて頂いても宜しいでしょうか?万屋殿」
<どうそ>
「あのキノコ。効果は身をもって感じておりますので疑いようはないのですが、何故今回そのような付与をされたのですか?」
<それは、少しお待ちいただけますか?・・・それは、我ら万屋がロイ様の優しいお気持ちから無意識下で願いを仰っていたのを聞いたからです。ロイ様はこう仰っていました。このキノコを食べた人が健康になりますように!と>
なんじゃそりゃ!そんなグダグダで信用してもらえるわけがないだろう!それに、誰かと・・・絶対にダイヤキングだろうが、相談しているのがバレバレだろう!と思っているロイは最早癖の様になっている天を仰ぎそうになるのだが・・・
「そうですか。そのお優しい心のおかげ、そしてその願いを叶えられるだけの力があるおかげで陛下は健康を取り戻したのですね。お礼申し上げます!」
これで信じるのか!!と中途半端に首が上を向いた状態で目を大きく見開いてしまったロイだがその後にゼレンラ王妃はあっさりと引き、せめてものお礼として金銭を渡そうとしたのだがロイが固辞したのでそのまま深く一礼して部屋から出て行った。
「えっと、これで用事は終わりでも良いですか?」
「あぁ、そうなる・・・のか?随分と心に負担をかけてしまったようで申し訳なかった。まさか王妃が護衛もつれずにこの場に直接いらっしゃるとは思ってもいなかったのでな」
<護衛ならばおりましたよ?>
「うぉ!」
万屋がもう去ったと勝手に勘違いしていたギルドマスターは、ジョーカー扮する万屋の声が響いて驚きの声を上げてしまう。
「え?そうなの?」
同じように、ロイも護衛の存在については報告を受けていなかった事から思わず問いかけてしまう。
<はい。今の我の様に存在を隠蔽しているようですが、本来の力ではなく道具によって隠蔽しておりました>
「俺でも気が付けない存在がこれほどいるとは・・・ちょっと自惚れが過ぎていたようだな。もっと努力しなくてはならないと気が付かせてくれた事に礼を言う!」
なんだか話しが良く分からなくなってきたので取り敢えずさっさと依頼を受けに行くために会話を切り上げて部屋から出て行くロイとシルハ、そしてカードに戻るジョーカー。
「貴方!そこの金髪の貴方!ちょっと待ちなさい!」
執務室から出てギルドの受付に繋がる廊下を歩くと、突然少々大きな声が聞こえてそちらを向くロイとシルハ。
どうやら声の主は明らかにロイを指名しているので、連続した面倒ごとかと眉をひそめてしまいながらも視線を合わせて近づいて行くロイ。
暫くこの町で活動しているロイなので三つ子の惨劇やギルドマスターからの警告もあるおかげで他の冒険者から絡まれる事は無く、ロイを呼び止めた存在のこの態度から想像するとどう見てもこの町の冒険者でないのは明らかで、元より服装も冒険者風ではなく貴族風の恰好をしている。
貴族との接触は面倒だと言う意識があり、やはりロイの眉間にはしわが寄ったままだ。




