(200)事後の事実と余計な接触
「はぁ~」
依頼を受けに来たのだが早朝からギルドマスターの執務室に案内されてしまい暗い気持ちのロイと、何も悪い事はしていないし受付からも問題ない旨太鼓判を押されているので笑顔のシルハ。
「ロイ様、大丈夫ですよ!先程受付の方が仰っていたではありませんか。悪い話しであるはずがありません!」
そこは否定しないのだが、カードの者達の暴走を知らないシルハならではの感想だな・・・と思いつつも、慰めてくれる事には感謝の気持ちを伝えるロイ。
「そうですね。ありがとうございます。はぁ~・・・」
今までの経験を総動員した上で周囲が騒動になっていない状態でギルドマスターに呼ばれる程の“しでかし”は何だろうかと必死に考えを巡らせているのだが、短い時間に正解に辿り着けるわけも無く目的の場所に到着してしまう。
「あの、ロイです」
「シルハです」
「入ってくれ」
笑顔のシルハと嫌そうな顔のロイが入室すると、ギルドマスターは苦笑を隠せない。
「はははは、ロイ殿。そう硬くならないでくれるとありがたい。受付から聞いていると思うが、悪い話しではないんだ」
緊張からかはたまた悪い想像をして苦い表情をしていると思っているギルドマスターは何とかロイに肩の力を抜いてもらおうとするのだが、ロイの悩みはギルドマスターが想像できるレベルではない。
「ありがとうございます。ところで隣の部屋に待機されている方はどなたでしょうか?」
ロイが不安そうになっているのはカードの者達には直に理解できるのだが、その内容がまさか自分達の行動について心配している等とは思っていないのでスペードキングは周囲への警戒を引き上げて調査した結果をロイに伝えていた。
警戒網に引っかかったのは脅威になり得ないが一人の女性が隣の部屋でロイのいるこの部屋の様子を気にしている素振りが見られ、実はその女性に護衛が付いていると判断したがそこは重要ではないので女性の存在のみ先行して即座にロイに報告されている。
その報告を受けたロイは、カードがしでかした結果の賠償でも求めるためにこの場に待機している人物かと警戒してしまった。
冷静になればカードの者達の行動・・・万屋がハイス子爵家を守護している事は公知になってしまったのだが、その行動の結果に伴う責がハイス子爵家側に有ろうはずもないのだが、そこも理解できない程に動揺していた。
「流石はロイ殿だ。これほどとは思わなかった。リーン殿と姉弟と言うのも納得だな。一応念のために伝えるが決して隠していたわけではない。そこは理解してもらいたい」
ギルドマスターの話しでは責について述べられていないので、未だ不安な表情のままではあるが首肯しているロイ。
「では今更隠していても仕方が無いな。そもそも万屋に願えば立場も全て明らかになるのだろうから、敢えて晒しておこう。どうぞお入りください、ゼレンラ王妃」
流れが大きくなってきた上にまさかどこの国だか分からないが王妃から叱責を受けるのかと思ってしまい、余計に表情が暗くなるロイ。
「失礼いたします。ソシケ王国のロイ殿ですね?そして今共に行動されている王国フェルトのシルハ殿。初めまして。ご紹介に預かりましたランカ王国のゼレンラと申します」
自分の義理の母親・・・テレシアと同じくらいの年齢だろうか?と想像しながらも、やはり王妃としての不思議な存在感を感じさせる洗練された所作に見とれていたロイ。
今は家族から逃亡して貴族と言う立場を捨てているシルハも見とれているようで、二人共少々口が半開きの状態で固まっている。
「では早速私の方から説明させて頂きますね?陛下の健康維持を目的に定期的にキノコの採取依頼をギルドに発注させて頂いておりましたが、数度過去にない程体調が良くなったので調査させて頂きました。その結果、お二人が入手されているキノコを食べた時にその現象が起こる事が判明しました」
この現象はジョーカーが事前に安全を確認したついでに聖魔法を行使してキノコを盛大にグレードアップしていたからであり、通常のキノコではあり得ない効果が起きていた。
残念ながらギルド納品時の鑑定程度ではこのあり得ない強化が把握できるわけも無く暫く調査した結果判明したのが、ロイやシルハが納品したキノコにのみこの効果が現れると言う事だ。
「陛下は腰痛やら膝の痛みやらも取れて、日々の生活が楽になったと大層喜んでいらっしゃいます。是非とも直接的にお礼をしたいとの事で私がギルドにお伺いした次第です」
正確に目的を告げているのだが当初の想定ではいきなり面談するのではなくギルドマスターとの会話を隣室で聞き、ある程度の人物像を把握した上で問題ないと判断できた段階で姿を現すつもりだったゼレンラ。
結果的にその思惑は完全に崩れてしまったのだが、直接その目で二人を確認して危険な思想も無ければ性格に難も無いと判断したのか一気に目的を告げていた。
ロイもその程度のしでかしであれば想定内・・・と言うよりも、寧ろ常識の範囲内だと思い露骨に安堵の表情を浮かべている。
緊張して喉が渇いていたのか、安堵したとたんに口の中がカラカラになっている事に気が付いて目の前のお茶を口にするロイ。
「それに、実は陛下は過去魔獣討伐時に小指を失っておりました。ですがあのキノコを食した後に小指が復元したのです!」
「ぶ~~~~~!!」
結局常識の範囲ではないと思い知らされ、不敬にも王妃の前でお茶を吹き出すロイだ。




