(16)その後とレノア
翌朝、一応何も知らない体でギルドに出勤するロイ。
恐ろしくて、その後の顛末をカードの部隊から聞く事を拒否して出勤している。
「外観は異常なしだ。良かった・・・のか?」
職場の建屋は見る限りでは異常がないので、見境なく暴れたわけではなさそうな事に少々安堵するロイ。
「お、おはようございます」
扉を開いて中に入り、不安を抱えながらも同僚に挨拶をする。
今業務を行っている同僚は遅番、つまり夜勤の同僚であり、昨日リーンが暴れた事を知っている可能性が極めて高い。
「ロイ、昨日は凄かったぜ?」
そこに一人の男性職員が笑顔でロイに近づき、ロイの心拍数を一気に上げる言葉を投げかけてきた。
「す、凄かった・・・とは?」
「よくぞ聞いてくれました。ロイも良く知っている、いや、身内のリーン様がやってくれましたよ!それはそれは素晴らしかった。丁度良い!ギルマスの部屋に行ってみろよ?」
「え?用もないのに勝手に行ったら問題でしょ?」
「大丈夫だ。そこにリーン様の素晴らしい成果が見えるからな。今日来る冒険者達にも漏れなく見せるようにと言われているから、職員であるロイも現実を見ておいた方が良いぞ?」
一体リーンは何をしたのか一層不安になるのだが、死傷沙汰にはなっていなさそうでほっと胸をなでおろしながらもギルマスの部屋に向かう。
その扉は珍しく全開になっており、開き戸の両扉には大々的にこう書かれていた。
先ずは右の扉。
<私は無能ギルドマスターのクノデラです。無能の罪を償う為に本日の夜を持って辞任し、一職員として再起させていただきます>
そして左の扉。
<私は無能料理長であるドノデラです。ゴミや毒しか作れないくせに偉そうにして申し訳ありませんでした。今後は雑務を行う厨房職員見習いとして再起させていただきます>
ご丁寧に両人の拇印まで押してある始末だが、その拇印・・・恐らく相当殴られた際に出た自分の血によってつけられている可能性が高く、その証拠に扉の奥に原形をとどめないほどに顔を腫らしている二人が大人しく正座している姿が見える。
「あ、あの・・・」
ロイの言葉にピクリと反応する二人だが、その目は腫れ上がりながらも怯えの表情が見える。
「「申し訳ありませんでしたぁ!ロイ様に不快な思いをさせてしまい、反省しております」」
一字一句違わぬ状態でこう叫び、綺麗にそのまま土下座の姿勢に移行する二人。
この様子から、ロイは昨日のリーンがどのような行動をとったのか理解した。
恐らく・・・自分を不快にさせた事だけに対して怒り狂い、容赦なく二人をボコボコにしたのだ。
「全く。姉ちゃんもやりすぎと思わなくもないけど、今回は助かったかな?」
こうしてギルドマスターも変更になり、元料理長が料理長に再度就任したギルド。
職員食堂も閉鎖空間であったために異常が見つかり辛かった事を反省して一般の冒険者にも開放する事になったので、冒険者達からの評判は上々になっていた。
一部の者・・・クノデラとドノデラ、そしてその取り巻き達だけは立場が非常に悪くなり、今までの横柄さも相まってか厳しい環境で仕事をする事になっている。
一方のレノアは給金も元に戻り、今まで無駄に出費させられていた分やカットされていた給料の補填分もドノデラが蓄えていた貯蓄から利息と詫び料込みで支払われて、既に明るい笑顔を取り戻しているのだが・・・一つだけ不安要素があった。
あの商会から何故か無償で貰った食材の扱い、そして大量の食材や回復薬が入っていた非常に高価な収納袋の扱いだ。
「やっぱり、お返しした方が良いですよね」
収納袋に入っていた一部の回復薬や食材は使ってしまったのだが、残っている分は返却して使った分は相応のお金を払うべく商会に向かう。
「レノア様。本日は如何致しましたでしょうか?」
相変わらず作られたかのような、完璧な美貌と笑顔で迎えてくれる店員。
「あの、以前頂きました収納袋と中身を返却しに来ました。それと一部食材等はありがたく使わせていただきましたので、その分の費用もお支払いさせて頂こうかと思いまして」
「・・・そうですか。ですが以前も申し上げましたが、とある至上のお方の命に従ったまでです。それにクノデラとドノデラと言う男から補償金を得ておりますのでご心配なく」
ここで初めて元ギルマスと元料理長が補償していた事を知るレノア。
もちろん渋っていた二人を締め上げたのは、ロイから頼まれたリーンだ。
「で、ではこの収納袋は・・・」
「そちらは既にレノア様に所有権がございます。重ねて申し上げますが、人目に付きますといらぬトラブルに巻き込まれる恐れがありますのでその部分にはご注意ください」
返却しに来たのに使用上の注意をされてしまったので、レノアは厚意を受ける事にした。




