(155)領主の館へ
なんとも説明口調で不信感が拭えないセリフを告げているダイヤキングなのだが、立場的には万屋になりきっている事から明らかにできるのはハイス子爵家を守護しているという部分だけなので仕方がないと思いつつも言われた通りに御者を代わるロイ。
「フラウさん。こちらは僕の家を守護してくれると宣言してくれた万屋の方です。何でもできるので、僕はここで失礼させていただきますね」
「あっ・・・ありがとうございます。またお会いできるのを楽しみにしております!」
「機会があれば。では、失礼します」
本心を言えばフラウは顔も見えない不思議な万屋と名乗った人物よりも少しでも会話し身分が確かなロイと共に行動したかったのだが、ここまで無事に連れてきてくれただけでもありがたい事なので我が儘を言いそうになるのをぐっと堪える。
口ではもう一度会いたいと言っているのだが、噂によれば館内で酷い扱いを受ける上に二度と日の光は拝めない可能性もある事からその希望は叶わないだろうと悲壮な覚悟をしつつ、優しいロイの後ろ姿を目に焼き付けている。
直ぐに馬車は動き出したのでフラウも最早どうしようもないと心を閉ざし始めるのだが、あろうことか横にいる御者の万屋がこのような事を口走る。
「我ら万屋、ハイス子爵家のロイ様の願いを叶えフラウ殿の護衛を行う事にした。ロイ様がそのご要望を直接口にはしていないがあのお優しい方の考える事を先読みし、あのお方がその身を危険に晒す前に万屋で対処するべき案件と判断した次第」
何が何だかわからないが、僅かな光が見えたフラウは黙って万屋の話しを聞いている。
「これから向かうのは第一王子の館であろう?安心するが良い。貴女が到着する頃には、あの腐れ王子は我が身をしっかりと顧みているだろう」
この国で第一王子を“腐れ”と堂々と言い切ってしまう存在など知らないので、どれだけ恐れ知らずなのだろうか?と思いつつも、やはり嫁ぐ事には相当拒否反応があるのは事実なので期待してしまう。
「その後だが、貴女が家に戻る事はお勧めしない。自らも理解されているようだが碌な扱いを受ける事はないだろう。むしろ王族との婚姻を破壊したと言われて劣悪になる可能性すらある」
「ですが、私には行く場所、頼れる場所などないのです」
「ふははははは、そこは我らが万屋、よろずや、よ・ろ・ず・や にお任せいただこうか。貴族令嬢としての華やかな生活と言うわけにはいかないが、少しは働き、報酬を得、と、楽しく過ごせる環境を提供する事、商会長の名に懸けて約束しよう」
あの王子に嫁いだり平然と妹とそのまま婚姻関係になる元婚約者の元に行ったり、更にはその手配をした両親の所に戻るなどはあり得ないと考えているフラウ。
家庭環境もあって家では使用人が付きつつも相当家事をしていた事から働く事に抵抗感があろうはずもなく、まさかそこまで面倒を見てもらえるとは!と感動している。
疑う事を知らない所が少々危険ではあるのだが、良く言えば純真と言えるだろう。
「あの、そこまでしていただけるのは正直とても嬉しいのですが・・・万屋さんやハイス子爵家の方々にご迷惑がかかる事はないのでしょうか?」
「フム。なかなか配慮のできる方なのだな。さすがはロイ様が護衛をされるだけはある。しかし貴方の心配は全く不要だ。その様子であれば噂は聞いていないのだろうが、我ら万屋はそもそもハイス子爵家の属するソシケ王国の王族に対し、伴侶としてオークを送り込んでいる実績があるからな。安心すると良い」
ロイが護衛をした事は今回の話しには全く関係がないのだが、理解の範疇を平然と超えてくる、それでいて全く安心できない話題が出てきてしまい固まってしまうフラウ。
「そうか。なるほど・・・あの腐れ王子にも同じ様に人外の伴侶を与えておけば良いのだな。裸にひん剥いて路上に晒そうかと思っていたのだが、撤回しよう。いや、少々手遅れだな。路上に晒した上に人外の伴侶を与るとしよう。ふはははは、素晴らしい!」
一人呟いている存在の言葉は解るが意味が全く理解できないフラウは何故か希望の光よりも不安感の方が大きくなっている中で、周辺の人々のソワソワしている様子が目に入る。
「気になっているか?当然であろう。黒い噂の発信源、汚物がその屋敷の前の路上に転がされていれば誰しもが表情に出てしまうだろう?」
「あ、あの・・・それも万屋としての行動なのでしょうか?」
「当然だ。万屋は神である商会長を支える従業員達で構成されている崇高な組織。無論志を同じくする私以外の従業員がいて当然。正直触れたくない汚物を晒し者にする方が方針転換よりも早かったのでな。その無様な姿を見て民は感動しているのだろう。貴方にもまもなく見えるはずだ」
馬車が角を曲がるとそこは目的地であり、とある屋敷の門の出口を遠巻きに取り巻くように人が集まっていた。
彼らの視線は一点に向けられており、そこには宣言通りに素っ裸にさせられて意識がないこの国、フェルト王国第一王子のムシャーテが仰向けに大の字のまま転がっている。
「どうだ?まぁ見たくもない汚物だろうが、貴方が聞き及んでいる噂はほぼ全て事実と言う事は伝えておこう。そこを理解すればこの程度では罰として生温いと思えるのではなかろうか?何ならコレでちょん切ってくるか?止血はこちらに任せて貰って大丈夫だ」
「い、いいえ。どこをちょん切るのかわかりませんが、遠慮させていただきます!」
フラウの視線は股間に向けられているのでどこを切るのか知っているのは明らかだが、そこを突っ込んでも話しが進まないのでダイヤキングは次の手段に出る。
「そうか、非常に残念だ。では次の罰に移るとしよう。やはり屑にはオークがお似合いだな。丁度良いタイミングだ。流石はジョ・・・万屋の同僚よ」
「ブモォー!!」
「うわぁ!!」「きゃー!!」「衛兵を呼べ!!」
ダイヤキングのセリフの直後に何故か門の前に屈強なオークが突然現れたので周囲は阿鼻叫喚の様相を見せるのだが、そんな事は全く関係ないとばかりに馬車から降りて意識のない第一王子ムシャーテの元に無防備に移動する万屋ことダイヤキング。




