(13)怪しい雲行き
「いらっしゃいませ。レノア様ですね?お待ちしておりました。早速必要な食材を教えて頂けますでしょうか?」
目の前の女性に手を引かれて店に入ると双子だろうと思われる程にそっくりな商店の女性から声を掛けられ、何かを考える余裕がなく言われた事に素直に答えるレノア。
高級食材を相当な量必要と言っているのだが、聞いている女性は微笑みの表情を変える事なく従業員によって淡々と食材が目の前に積まれているのを見ている。
「以上で宜しいでしょうか?」
一人では絶対に運べない程の量の食材が積みあがっているのだが、未だに表情を一切変えずに微笑んだままの女性がレノアに問いかけている。
「え?え、えぇ、はい。ですが私には持ち合わせがありませんので、ここまで準備して頂いて今更ですが購入する事はできません。本当にごめんなさい」
この言葉を聞いた商店の女性は、レノアをこの商店に連れてきた女性を見て何かを確認するとすかさずこう告げた。
「レノア様。既にお聞きの通りに私達はとある方の命でレノア様をお助けするように仰せつかっています。ですので、料金の方はお気になさらずに。この食材の運搬は我が商会の方で責任を持って運ばせていただきます。それとこちらはあまり公にしない方が良いかと思いますが、どうぞお納めください」
小さな袋を渡されるレノアだが、これがただの袋ではない事位は良くわかっている。
「こ、こんな・・・これって収納袋ですよね?」
「はい。レノア様の仰る通りに収納袋です。中の食材は徐々に劣化しますので、早めの消費をお勧めします」
ここまでの高待遇を受けると、怪しさよりも不思議さが勝ってしまい黙って受け取ってしまうレノア。
あれよあれよという間に店の従業員と共にギルドの職員食堂に戻り、食材が納品される。
その納品の様子はギルド職員やギルドに屯している冒険者の目にも入っているので、誰しもがその大量で且つ見事な食材に目を奪われる。
当然ロイの隣に座っている職員も同様だ。
「ロイさん。私、あれだけ立派な食材初めて見ましたよ!ひょっとしたら今日は料理長が本気を出してくれるのかもしれませんね。お肉も美味しそう!!」
レノアが右往左往していた店が偶然ダイヤ部隊の経営している店だった事も含め全ての報告を受けているロイはそんな事は無いと知っているのだが、とりあえず話しを合わせる。
「そうですね。あの立派な食材を不味く作る方が難しいですからね。今回ばかりは期待できるのかもしれません」
ざわついているギルドの声を聞き奥からギルドマスターであり職員食堂の料理長の兄でもあるクノデラが出てくると、即冒険者達に事情を問い詰められている。
クノデラも弟であるドノデラの余りにもふざけた計画を知らされていないので、大量の高級食材の使用用途を聞かれても即座に答える事が出来ない。
そこで、ロイがこうなれば良いなと思った事をわざと大声で呟く。
「冒険者の皆さんの慰労を兼ねた料理を、お礼として提供してくれるのかもしれませんね」
その声に即座に反応した冒険者達。
「おぉ、流石は新料理長じゃねーか!そうなのか?ギルマス」
「確かギルマスの弟が料理長になったんだよな?流石じゃねーか!」
ギルマスとしてはそのような事を一切聞いていないのだが、自分の目から見ても普通では消費しきれない程の超高級食材が大量にある事、更には弟の事を手放しで褒められている事から冒険者達の言葉を否定する事はせずに肯定する。
「そ、そうだな。そうに違いない」
その言葉を聞いた瞬間、冒険者達は我先にと職員食堂の方になだれ込んでいく。
厨房では相変わらずタバコをふかして喋っているドノデラ一行がいるのだが、突然流れ込んできた大量の冒険者と少し後に続く大量の高級食材に目を丸くする。
「料理長。レノア様に指示された指定の食材をお持ちしました商会の者です。確認をお願いします」
食材を持ってきた商会の従業員にこう言われると、ドノデラはいやらしい笑みを浮かべる。
自分の給料でさえこれだけの食材を購入する事はできないのだから、どう見てもレノアはどこかから借金をしたのだろうと確信していた。
ざっと食材を確認すると・・・
「確かに指示通りの食材だ。ところで、レノアはこの食材を即金で払ったのか?」
実はドノデラ、まさか指定数量全数が納品されるとは思っていなかったので自分が借金を肩代わりするにも少々負担が大きいのではないかと思っていた。
「えぇ、そのような感じです。では私はこれで失礼いたします」
従業員はあいまいな返事をすると直ぐに踵を返してしまったので、詳細はレノアに聞くしかないと思っていた所で冒険者達が騒ぎ出す。
「おい、料理長!さすがだな。俺達の為に昼飯をこの高級食材で作ってくれるなんてよ!ギルマスも鼻が高いな?」
「否定はしない」
気が付けば、実兄であるクノデラも席についているのだから内心焦りだす。




