(132)モバイ王国へ
リーンと別れて単独で行動するロイは、自分には合わない程の豪華な宿に泊まるに至ったこの現状は普通の旅とは言えないと思い迷う事無くムジカ王国を出る事にしていた。
行先は当てもないと言えばないのだが、最も近く行った事のない国になるので必然的に隣接国家であるモバイ王国になる。
何もなければモバイ王国はムジカ王国に攻めて来る予定であった程の強権国家ではあるのだが、ダイヤキングの指示によって万屋としてカードの者達が動いた結果、聖国ロナのロマニューレからの一言で大人しくなっている国家だ。
道中の移動はインチキと言う名の、クラブの部隊に運搬してもらったロイ。
こうでもして時間を稼がなければ最悪はモバイ王国に到着する前にリーンが帰ってくる可能性に思い至ってしまったので、本来は体力をつける事や道中の景色に加えて新たな出会いも含めて楽しみたかったところではあるのだが止む無くクラブの部隊に任せている。
道中の人々には認識されない程の速度で移動する事が出来るので出会いも無ければ余計に絡まれる事も無いままに、既に門が見える位置の街道に見かけ上は単独でいるロイ。
「随分とまぁ」
聖国ロナの手下のような形になっているのは回復魔法の有無が国家存続の要になっていると言っても過言ではない状態になっているからであり、常に戦いを求めている様な国主が治めている国で、その為に防御にも相当力を入れているのか入国の列が見える門も他の国とは比べ物にならない程重厚になっている。
相当威圧感のある、逆に言えば威圧感しかない門である為に何も知らない人々が入国するには少々ハードルが高くなっているので、荒事に慣れている冒険者であったとしても無駄な圧を感じて頭の回転が速く非常に慎重なごく一部の者に至っては他国との戦争の道具にされる可能性が高い事に思い至って入国せずに去っている場合もあるだろう。
新たな住民の流入が無ければ内部は淀み発展する事は夢のまた夢なのだが、そこを補うかのように他国に侵入し物資を奪って強制的に活性化している国だ。
事前情報があった事から瞬時に全てを理解したロイなのだが、ここまで来て入国しないと言う選択肢はないので他国と比べて圧倒的に商人が多い入国待ちの列に並ぶ。
「今回は武器の素材を持ってきました」
「良いだろう、入れ。次!」
どうやら商人が多いのは戦闘に関する消耗品の販売が活発に行われている為であり、ロイとは異なりあまり事情を知らなさそうな冒険者達や危険な国であると察知できない冒険者達は一般的な国家とは違う入国の状況に多少の戸惑いを見せている。
ロイの前にも二人の冒険者が並んでいるようで、仲間と少々不安げな会話をしているのが嫌でも聞こえてしまう。
「ねぇ、ちょっとこの国ヤバそうじゃない?列の長さの割に冒険者の比率が少なくない?他は商人ばっかり」
「確かに。そもそもさっきの商人もその前の商人も、素材を持ってきたと言わずに態々武器の素材と言っていた所も気になるわね。生活物資の素材も数多く在るはずなのに、今の所そんな声は聞こえてこないわ。危ないかもしれないわね」
危機回避能力は少々劣るが身の安全が第一である事は肌で理解できている為に通常ではない状況にある事を把握している二人の女性の冒険者達の少々不安がっている会話を聞いて、この国の状況を事前に嫌でも知っていたロイは感心している。
「次!」
目の前の二人が移動して冒険者として活動する為に入国すると門番に告げており、武器のチェックだけされると難なく入国できているのを確認していたロイは別の門番から声をかけられる。
「次!お前だ。そこの金髪!!」
名前を知らないのでこう呼ぶしかないのは理解できるロイは、そのままギルド職員であった身分証を提示する。
「お前はモバイ王国のギルドに異動になったのか?何も連絡を受けていないが?」
こう言いながら何やら情報を確認しているように見える門番に対し、別段隠す事は何もないので事実を告げる。
「いいえ違います。コレはソシケ王国の王都で勤めていた時の証書で、今は退職しているので異動ではありません。単純に旅の途中でこちらに立ち寄っただけです」
異動と言う情報を検索する必要が無くなったのか門番は何かを調べている手を止めてロイを見ると、鼻で笑うかのような仕草を見せた上で荷袋を見せるように指示を出した。
「大したモノは持っていないだろうが、念のために調べるぞ?」
本来は収納袋、更にはカードの者達による収納魔法があるので手ぶらで良いのだが、入国時には怪しまれないように何の変哲も無い荷袋を準備しているロイ。
背負っていた荷を机の上に置くと、門番は荒い手つきで袋を掴んでひっくり返して中身を机の上に散乱させる。
自分の前に並んでいた二人の冒険者達は武器のチェックはされていたがここまで手荒な検査は無かったなと思いつつも、正直壊れようが何のダメージも無い品しかないので極めて冷静にガサガサ荷を荒らしている門番を見ている。
「おい、コレは何だ?」
「あぁ、それは鉱石ですね。旅の途中で金銭が必要になった際に換金する予定で持っていました」
金銭に関する物が何もなければ怪しまれる事も想定済みで、ダイヤキングと相談した結果適当な鉱石を荷物に入れておいたのだ。
リーンと共に行動していた時にはこれほどの強権国家に来たことがないためかここまで入国時に時間がかかる事はなかったのだが、仮に今この場にリーンがいるとすれば間違いなくこの門番はロイの荷物を“ぶちまけた”時点でボコボコにされているのだろうなと思い無意識の内に頬が緩んでしまったロイは、門番が発したあり得ない内容の声を聞いて表情が一変した。




