(12)真実を知って
とても料理とは言えない黒い物体を何とか一口だけ飲み込んだロイだが、即効性の毒のように激しい腹痛に襲われている。
「ハ、ハートキング!」
最も癒しの効果が高い光魔法の上位版である聖魔法を最高威力で駆使できる者を何とか召喚するロイ。
そこまでしなければ復活できない程に、破壊力のある料理?だった。
ハートキングのおかげで何とかお腹の激痛も治まり、事務所の席に着く。
「ふ~。朝からえらい目にあったけれど、冷静に考えれば以前とは違って全く人がいなかったのは頷けるな。本当に久しぶりだから朝早いから人がいないのかと思っていたよ」
この呟きに反応したのは、隣に座る同僚だ。
「あ!ロイさん?あの職員食堂行っちゃいました?ロイさんは長く行っていなかったので連絡が漏れていたみたいですね。あそこ、料理長が代わってから雰囲気も味も全部最悪ですよ。なんであんな生ゴミみたいな料理にお金を払わなくちゃいけないのか心底理解に苦しみます。何でもギルマスの権限をフルに使って強引に料理長の座につけたみたいですけれど、腕はご存じの通りゴミを作るだけ。あそこで働いている人達が可哀そうですよ!」
「そうだね。本当に参ったよ。でもあのままじゃ潰れちゃうんじゃないの?」
「そこなんですよ!何でも従業員の給料は下げて、諸悪の根源である料理長の給料は上げたまま。そこで不足している分はギルマスが補填しているみたいです。だからギルマスは最近リーン様の依頼達成を異常に気にしているんです。自分の取り分が少なくなると食堂にお金を回せなくなりますからね。私達もお給料を減らされないか気にしているんですよ」
思った以上に労働環境が悪くなっている事に眉を顰めるロイ。
「そう言えば、前からあそこで働いていた女性・・・えっと・・・なんでも弟妹を養う為に働いている方・・・」
「あぁ、レノアさんですね。直接本人から聞いたわけではないですが、相当給金を減らされている上に毎日食材を自腹で購入させられているって聞いています」
全くブレる事がないクズの所業で捻りも何もないと思っている所に、自らの陰にいるスペードキングを通してレノアと言う名の女性を追うように命じたスペードフィフスからの情報が伝えられる。
どうやら相当の量の野菜と肉を購入するように命じられていたらしく店の前で途方に暮れているとの情報だったので、ロイは迷わず助けるための行動を開始する。
とは言え直接自分が赴くわけではなく、誰にも明かしていない自分の特殊能力であるカードの力を使って助けるのだ。
長きにわたって地道な活動を行っていた結果、ロイが活動当初想定していない程にこの町を含む周辺の大きな商会はダイヤ部隊の息がかかっている店がほとんどになっていた。
今日は直接召喚が三度目になるので相当疲れが出てしまうが、すぐに動かなければレノアがより困り果ててしまうと思い行動する。
「ダイヤサード。スペードフィフスの場所に赴いて、近くのダイヤ部隊が経営する商店にレノアを連れて行ってくれ。最大限配慮して手土産も持たせて!もちろん収納袋込みで」
収納魔法を使える希少な人物は国家の管理下にある程なので近似した性能を有する魔道具である収納袋も非常に希少で高価になっているのだが、その袋と共に物資を渡すように指示を出すロイ。
商会の状態から考えると収納袋の一つや二つ上げても何も問題はないのだが、一般人から言わせると目が飛び出るくらい破格の対応だ。
実は、実家のハイス子爵領にも商会の人物が行商人を装って商品を格安で商売しており、少し多めに税を納める等ハイス子爵家に還元するようにしている。
その頃の厨房では客もいないので名ばかり料理長であるドノデラとその金魚のフン達が、あろう事か厨房の中でタバコをふかしながら談笑している。
「今日の購入でレノアは間違いなく料理長である俺のものになる!どうあっても借金地獄に陥るだろうからな。そこを俺様の財力で助け出してやる代償として・・・」
「流石はドノデラさん。完璧な作戦ですね!」
全く完ぺきではなく穴だらけだし本当にみっともないのだが、言われた当人は“したり顔”で兄と同じくだらしなく緩んだ腹を揺らして笑っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「失礼ですが、レノア様ですね?」
突然、見た事もない程に美しい女性に声を掛けられるレノア。
目の前にある目的の商店には色とりどりの新鮮な野菜や高級な肉が陳列されており、そこの食材を大量に購入するように命令されていたのだが・・・正直に言ってとても自分の手持ちのお金では指定量を購入できずに途方に暮れていた。
そもそもの原因は恰幅の良すぎるドノデラが厨房を我が物顔で無駄に歩き回り、食材の下ごしらえをして運んでいるレノアにわざと豪快にぶつかった事なのだが・・・
ぶちまけてしまった食材よりもはるかに高級で大量の食材を仕入れるように言われて、もうどうして良いのかわからなくなっていた。
今迄は余った食材や料理を持ち帰れていたので家で待っている弟妹の食事にできていたのだが今ではそれもない上に何故かいつの間にか給料も下がり、更には毎日のように自腹で食材を購入させられているのだから、先立つものが無くなってしまったレノアは店の前で右往左往するしかできなかった。
そこに突然知らない女性から声をかけられたのだが、まるで作られたような美しい容姿に同性ながら見惚れてしまう。
「実は、とあるお方からの命でレノア様に食材他を提供させて頂くためにお声がけいたしました。さっ、どうぞこちらへ」
半ば強引に、自分には相当敷居の高い目の前の店に連れられてしまうレノアだ。




