(124)聖国ロナのロマニューレ(1)
時は少しだけ戻り、万屋としてロマニューレにダイヤキング一行が接触する少し前。
「聖国ロナに侵入してきたハイス子爵家の者。子爵程度の戦力があの武術大会でまさか私の騎士を破るとは思いもよりませんでしたが、逆に言えばその戦力を手に入れる機会と捉えられる私の素晴らしい慧眼と言えるのではないですか?フフフ、今回関連の者が聖国に入国して活動しているのも、その前振りの様な気がします」
崩落の対処についてはふざけた命令を出しただけで、勝手に自分の益になる事だけを妄想している聖主ロマニューレ。
「そうです!きっと崩落を万屋が処理し、その過程で私と接触する機会が訪れるのです。そうすれば忌々しい子爵程度を介さずに直接不思議な存在を手に入れる事も不可能ではありませんね。下級貴族程度では見る事も出来ないような報酬を与えれば、どんな者でも抗う事はできませんから」
自分基準で言えば財が全てであり、財力をもってすれば戦力も思いのままになると思っており、事実今迄思い通りになっていたロマニューレ。
各国に設立している教会についても元を辿ればあり得ない程の暴利を貪って貯め続けていた財力によって設立しており、今はその教会を拠点とした情報収集を行うとともに少なくない上納金を得つつも各国に対しての脅しの手段、回復魔法を脅しのネタに夫々の国家から直接お布施の名のもとに相当額を引っ張っている。
ロイが所属している領土の大きいソシケ王国も例外ではなく一部ジンタ町の様に教会跡地にシンロイ商会を設置されて教会の無い地域もあるのだが、やはりそれはほんの一部に留まっている。
「で、崩落の処置はまだ終わらないのかしら?」
少しでも益を出す事が当然の流れで今まで得られた益を失う事など言語道断と言う感覚のロマニューレなので、机に置いてある鈴を鳴らして臣下を呼びつける。
「お待たせいたしました、ロマニューレ様。如何致しましたでしょうか?」
「あの崩落現場の件です。処理をするように伝えていましたが、どうなりましたか?」
処理と言っても一刻も早く魔石が取れる様な状態に戻せと言う事と報酬は回復魔法を無料で数回行えると言うあり得ない事を伝えただけなのだが、ロマニューレに従っている臣下達は同類が集まっており違和感なく自らの益になる事を常に考えて行動している。
結果的に使者として冒険者ギルドに出向いた者もあり得ない程に傲慢な態度でふざけた条件を提示してギルドを去っていたので、その後の状況など把握しているわけがない。
「ギ、ギルドマスターのシャインにしっかりと命令をしておきました。間もなく朗報が届くと思われます」
「そう。なら良いわ」
一瞬冷や汗をかいていたこの臣下はギルドに出向いた使者と同一人物なのだが、慌てて豪華な城を出て崩落現場に向かい軽く視察して全く手が付けられていない現状である事を把握すると急ぎギルドに出向いて改めて強く命令しようと思ったのだが、何故か異常に酒臭いギルドで何やら無事を喜びあっている冒険者達がいる。
一瞬キョトンとしてしまう使者は耳を澄ませてよくよく話しを聞けばいつの間にか崩落現場の外に出されて無事に戻ってくる事が出来たと聞こえてきたのだが、少し前に自分の目で崩落現場が改善されているわけではない事から信じる事が出来ずに周囲の者達に自ら確認した結果、信じられないが作業員として依頼を受けていた依頼書まで提示されては彼等の言葉を信じる他なかった。
この使者が聖主ロマニューレから受けていた指示は作業員の救出ではなく採掘が出来る様な原状復帰を最優先にするように言われているので、真逆の結果になっている以上は再び強引にギルドマスターに対して命令をしなくてはならないと行動する。
この間、聖主ロマニューレは思いもよらない状況に陥っていた。
「こ、ここは?いつの間に??さっきまで部屋にいたはずでは?」
一瞬フワッとした気分になったと思ったのだが、気が付けば薄暗い場所に横たわっていたロマニューレ。
少し目が慣れれば周囲の状況を把握する事が出来るのでゴツゴツした岩や岩壁がある洞窟のような場所である事だけは分かるのだが、やはりなぜこの場にいるのか・・・そもそもこの場所がどこなのか、なにも理解する事が出来ない。
「何が起きたの?ここはどこなの?」
攻撃的な力を持っているわけではなく、現状を打破できるだけの情報も無ければ頭脳もないロマニューレなので焦り始める。
周囲が徐々に明るくなり視界がしっかりと確保できるとロマニューレの視線の先には数人の姿が見えるのだが、全員が外套を羽織った上にフードで顔を隠していた。
「あ、貴方達!私が誰だか知っているのですか?聖国ロナ、大陸中の回復を担っている教会の総本山である聖国ロナの頂点ですよ?今ならば謝罪の上で元の部屋に戻せば許してあげます。さもなくば、一生光魔法による回復は受けられないと知りなさい!」
普通の人、国家も含むが、一般的に言えばロマニューレのこの言葉は相当な脅しになるのだが、目の前の人物はダイヤキングを筆頭としたカードの者達なので何の脅しにもなっていない。
「フハハハハ、私は万屋。よろずや、よ・ろ・ず・や である。そこな強欲ババァと言う立派な二つ名を持っているロマニューレよ。何やら我らに接触しようとハイス子爵家に対する面談を望んでいたようだな。更にご子息とご息女が入国しているとの情報を掴み、あわよくば!と言う考えがあった事も知っている。我ら万屋、神である商会長を擁する組織にかかれば強欲ババァ程度の情報を抜く事など造作も無い」
「強欲!?そ、そんな事より、ここはどこなの?早く私を元に戻しなさい!」
得体のしれない恐怖を覚えて、全く交渉にならない事を叫ぶしか出来なくなっているロマニューレ。
「無様!あまりにも無様!全く呆れるばかりだ。全知全能、神たる我が商会長の爪の垢・・・は強欲ババァには過ぎた物だな。しかし本当に少しでもあのお方の英知があれば良いのだが、それは不可能と言うモノだった。で、本題だ。ここはお前が作業者の救出を無視した崩落現場の内部だ。お前程度が信じられなくとも事実である故、異論は受け付けん」




