(123)聖国ロナとソシケ王国の変化
「では、またこの聖国に来られた際には是非ともお立ち寄りください!」
最後にギルドの受付に挨拶をしたリーンとロイは聖国を出国してその履歴は即座に聖主ロマニューレに報告されるのだが、相当な恐怖を味わってしまった為に元凶である万屋と繋がりのあるハイス子爵家の者達が居なくなったとしても態度を変える事はない。
カードの者達としてはその辺りについては少々不安が残っており、聖国ロナ所属のスーレシアやテルミッタの様に欲にまみれてとんでもない事をしでかしかねないと危惧していたので、当初の目的通りにシンロイ商会を設立するに至っていた。
この商会では回復薬も販売しており、ギルドから回復薬の原料になる薬草も定期的に仕入れる依頼を出す事にしている。
本来は自分達の力を使えば冒険者ギルドを使用する必要はないのだが、今まで新人冒険者向けの仕事である薬草採取に対する依頼が極限まで制限されていた事から敢えて商会としてギルドに依頼を出していた。
聖国としてもこの事実は把握しているのだがシンロイ商会はあの恐ろしい万屋と少なからず繋がっていると言う情報を得ているので余計な事をする訳も無く、ギルドとしてもこれで若手をしっかりとした手順を踏んで育てられると喜んでいた。
王都にいるハイス子爵にも万屋を通して聖国ロナからの接触に制限を入れたと伝わっており、面倒な処理をしなくて済んだと喜んでいたりする。
聖国ロナからも正式にソシケ王国に対してハイス子爵に対する面会については無期限の延期が伝えられているので、まさかの心変わりに対して訝しんだソシケ王国の国王バレントが情報を収集した結果、万屋によって相当危険な状態から多数の冒険者が助けられたと言う事は把握できたのだが得られた情報の何処に強欲と知られているロマニューレが心変わりする要素があるのか理解できずにいた。
だが、どこの愚王にも数多くの臣下がおり、中には当然優秀な人材もいる訳で・・・
「想像の域を出ませんが、ハイス子爵家との交渉なしに万屋の力を手中に収めんとした所で何らかの大きなしっぺがえしを食らったのでしょう」
ロマニューレの性格を良く知る国王バレントなので言われている事は確かにそのとおりであるとの判断から、逆に自らがどのようにしてハイス子爵を上手く制御するべきかに考えが移行する。
以前巨大なシンロイ商会が王都に存在していた頃には相当な益を得ていたのだが最早王都にあるのは一子爵家の敷地内にある商会のみとなっており、国王自身は出向いてはいないが周辺の貴族達からの情報によれば貴族であっても平民達と全く同じ扱いを受けており、中には貴族としての権利を主張した者がいたがあっという間に追い出されていると聞き及び、当然彼等の矛先は商会があるハイス子爵家に向いている事も知っている。
国王バレントも同じ気持ちではいるのだが未だ王城にはオークが存在し、その元凶の万屋がハイス子爵の守護を担うと公にしている以上は自らが直接的に手を出す事は出来なかった。
国王としての最大戦力の一角である首輪が手も足も出なかった事もあって、頭脳で攻めるしかないとの思いから妾の子ながらも王位を継承させるために王城に居を移しているバミュータに策を練らせる。
今まではあまり情報を与えない内に案を要求していた為にそっけなく対応されているのだが王城に移ってから自身でも相当な情報を得るように努力していたらしく、今迄の様なそっけない回答ではなかった。
「敵である万屋の戦力が良く分からない。こっちでも調査したけど、どうしても正体が分からないんだよね。個人の実力は相当だって言う事は理解できたけど、それがどれくらいいるのか・・・そこが分かれば作戦も色々と立てられるけどさ?今は仮定で動くしかないよ?」
「それでもかまわん」
「じゃあ常識的に考えてこっちの首輪を平然と、そしてあっけなく退ける事が出来る人物何てそういるもんじゃないよね?そこを考慮すると、多くて五人程度が動いている組織。末端はもっといるかもしれないけど、その連中はそれほど戦闘力が高く無いと考えるのが普通だよ。つまり子爵家、リーン、ロイ、子爵家の領地、ルホーク、夫々全員に護衛が付いているとは考え辛いんじゃないかな?」
「それで?」
最早国王は自分で考える事が出来なくなっており、只管バミュータの言葉の続きを待っている、
「だ・か・ら!なるべく今言った連中が個別に動くように仕向けるの!それで個人を相手にして護衛がいるのかを確認しつつ、誰か一人でも本当の首輪をつけられればこっちの勝ちでしょ?でもリーンだけは静観しておいた方が良いかな。新たな情報でも相当な実績を聖国ロナで叩き出しているらしいから、実力は疑う余地がない程に本物だよね」
バミュータは仮想のミュール男爵と言う存在が所持する屋敷に首輪と共に生活をしており、首輪の強さについては一般的な騎士や冒険者達では太刀打ちできない強さを持っている事を理解していた。
それ以上の存在が万屋であり、常識的にはあれほどの規格外の存在はこの世界に多数存在しているわけはないと言う先入観によって万屋は五人程度と言う予想の元に行動する様に告げているのだが・・・これでも安全を見て人数を多めに想定している。
「当然他の連中に攻撃する時は多対一、こっちの首輪は複数で個人を相手にさせるようにしないと、護衛がいた場合には相当不利になるからね。一番良い相手は子爵夫人の・・・誰だっけ?」
「テレシアだ」
「そうそう。そのテレシアって言う人が最も安全に対処できる相手であり、最も有効なカードになる相手じゃないかな?」
現実的にはテレシアとヴァイスの陰にはクラブシックスかセブン何れかが潜って護衛をしているので仮に首輪の者達が纏めて襲い掛かっても圧倒的な戦力差で瞬殺されるのだが、カードの能力を知らないのでそこまでは想定できない。
「そうそう。もっと確度を上げるのであれば、夫々を同時に襲うと良いよ。そうすれば誰か一人は当たりを引くでしょ?」
常識外の力を持つロイの事は全く頭になく普通であれば上手くいく作戦なのだが、ソシケ王国としては破滅の方向に向かって進み始めている。




