(122)はしゃぎ過ぎた冒険者
ギルドからの救出依頼に及び腰であった冒険者とは言え、仲間、そこまで行かず共顔見知りの人物が無事に帰還すればやはり相当に嬉しい。
ほぼ全ての冒険者が喜びあまり事情を知らない冒険者達も雰囲気にのまれてはしゃいでいるので、中には少々酔っぱらって無駄に気が大きくなっている者もいる。
酒の肴は崩落に関する話しばかりなので事情を知らなかった者達でもある程度の状況は把握する事が出来ており、今尚崩落状態にある場所からどのように無事に無傷で帰還する事が出来たのか・・・誰の手で助け出されたのかだけは分かっているのだが、その手法については全く分からなかったために想像で語り合っている。
「やっぱり、あの万屋って言うのが本当に俺達を助けてくれたんだな!」
「あぁ。俺は正直もうダメだと思っていたが、気が付けば外の景色が見えていた。本当に不思議な組織。いや、組織なのかは知らないが、不思議な存在だ」
と沸き立っており、互いの無事を喜びあっている。
この聖国ロナは回復魔法を行う教会と言う組織を牛耳っている中で万屋の脅しも有って、聖国内部の有り得ない程の傲慢な立ち位置は霧散している。
受付側の相当な喧噪を聞きながらも<万屋>の声を聞き終えたロイ達は、全てを理解したので一般的な話しに移行している。
「それであのロマニューレから相応の依頼に対する報奨、今までのお詫びと言う名の補償金まで出ているので、是非とも今回万屋に橋渡しをしてくれたロイ様に受け取って頂きたい!」
「え?あぁ、俺は少し願い事を呟いただけですから、そう言うのはちょっと」
「ううん、ロイ君。そこはしっかりとしないと!」
「そうです。リーン様の言う通りに、仕事の成果に応ずる報酬は受け取るべき!と、職員であった経験上は知っているでしょう?」
ここまで言われてしまっては断る事は出来ずに、ギルドマスターが渡そうとしている報酬の一部だけを受け取り残りは孤児院に寄付するようにお願いしたロイ。
その後は他愛もない話しに終始した後で今日の依頼は受けず共お礼を兼ねていつも通りの報酬をリーンとロイに渡すと告げられ、断られる前に追い出される様に受付に戻された二人。
「じゃあ、ロイ君。せっかくだから今日もゆっくりしようか?」
「そうだね、姉ちゃん!」
こうして受付から報酬を受け取るのだが気分が良く無駄に高揚している一部の冒険者、特に昨日入国した者達からしてみればリーンの情報も得ていなければリーンとロイの関係も分からないままに周囲が飲み始めているので勢いに乗って勝手に飲んで酔っ払い、二人の雑魚が何も依頼を受けていないのに報酬を受け取っているように見えてしまう。
その上今日もゆっくりすると言っているのだから、働かずに報酬を貰っている不届き者ではないかと言う思いが暴走し始める。
「ちょっと待ちな、そこの姉ちゃんと坊主。っと、坊主はギルド職員かよ。なるほどな。それで何も仕事をしちゃいねーのに報酬を受け取っていたわけだ。この聖国ロナのギルドではそんな横柄な行動がまかり通るのか?コソ泥が!!」
ロイとリーンは未だギルドの中にいるので、暴走し始めている冒険者の声を聞いた周囲の者達は慌て始める。
古龍さえ従えていると言う情報に加えてこの聖国ロナでも確かな実績を叩き出している以上は間違いなく強者であり、更にそのリーンが溺愛している弟のロイに対しても暴言を吐いているのだからその後どうなるのかなど考えるまでも無い。
いくら気持ち良く酔っていても身の危険をしっかりと把握できるのは冒険者にとって必要な能力であり、逆にリーンとロイに絡んでいる冒険者はその部分の力量が大きく不足していた。
「おい!お前!!ちょっと来い!!お前だお前!!リーン様とロイ様に余計なちょっかいをかけている無駄にデカいお前だよ!新顔!!」
リーンがロイの事になると周囲が一切見えなくなる事も聞き及んでいる為に、この場で暴れられては折角良い気分で仲間の無事を喜んでいるのに巻き添えで大怪我をさせられかねないと危惧した者達によって新顔はリーンが反応する前に即座に連れ去られる。
酔っ払いながらも奇跡的な連携を見せた冒険者達の言葉の中にロイ様と言う声が聞こえていたので、リーンはそこの部分だけに満足して特段暴れる事なく笑顔のままロイと共にギルドを後にした。
その後のギルドでは新顔冒険者複数に対して相当苛烈な説教が行われ、その騒ぎを聞きつけたギルドマスターのシャインが事情を聞いた結果更に烈火の如く雷を落とされて何が何だか分からない内に聖国を追い出されていた。
一方のロイとリーンは早くもその功績が広められており道行く人々にお礼を言われ、時にはお礼を渡され・・・と、恐縮しつつも今日も楽しく一日を過ごしている。
その日の夜、再びダイヤキングから報告を受けているロイ。
「我が主。あのロマニューレとか言う不届き者に対してはハイス子爵家への接触も厳しく禁じております。今後約束を違えた場合、我ら万屋としてサイクロプスを婿としてロマニューレの寝室に送り届けると伝えております」
「そ、そうだったんだ。オークではなく、今度はサイクロプスなんだ。一つ目の大きな魔獣だよね?」
「その通りです。実はそのサイクロプス、あの崩落現場にいた魔獣です」
「そっか。結果的にハイス子爵家との接触が無くなるのは良い事だよね?」
その後は魔石を無償で鍛冶士の元、そしてギルドマスターの元に提供して聖国を出る事にした二人。
相当に噂が出回ってしまい普通の旅とは言えない状況に陥ってしまったからであり、丁度良いきっかけだと頭を切り替えてお世話になった人々や顔見知りの人々に対して丁寧にお礼と別れを告げた後に旅立っていく。




