(121)聖国ロナに対する脅し
冷静に考えればダイヤキングが相当不満そうにしていた事・・・聖国ロナから神国ロイと言う訳の分からない国への移行を禁止した時点で気が付けば良かったのだが、あの口ぶりから聖国ロナをこのままの状況にするはずがなかった事に今更ながら気がついたロイは、胃の痛みを感じて若干お腹を庇ってしまう姿勢になりつつ状況を見守る。
せめて許容範囲であってくれと言う儚い願いを持ちながら。
「おやおや?聖国ロナの頂点に君臨しているお方がそのように慌てて一体どうしたのでしょうか?常に冷静に行動する必要があるのではないですか?」
特段椅子を勧めるでもなく明らかに不敬な態度を崩さずに落ち着きながら対応しているギルドマスターのシャインと、その様子を胃がキリキリしつつも見守っているロイ、何やら面白そうな事が起き来そうだと言う期待の目で見ているリーン、更には視線でシャインから許可を取ってこの場から消えていく受付達。
ただの受付にとっては聖主ロマニューレとのやり取りを聞けるほどの強靭な心を持っているわけではないので、シャインがこの場から逃がす様にしていた。
「ギルドマスター。もうわかっているのでしょう?万屋の件ですよ。何やら今回の崩落の対処を万屋がしたようですが、崩落自体は修復されていない。合っていますね?」
「そうですね。そもそもそこの使者から受けた依頼は崩落の処置及び魔獣の危険排除だ。俺にとって崩落の処置とは取り残された人々の救出が該当する。魔獣については崩落がそのままである以上は地上に危険はない。よって依頼は完全に遂行されたものと判断する」
「それは無いでしょう?シャイン殿。私の意図を汲み取っていない勝手な解釈ですよ。これでは魔石が採掘できないではないですか?コレは聖国ロナの大きな損失になるのですよ?ギルドマスターとしての失態である以上は、補填をする事になるのは分かっていますね?」
使者は捲し立てるのだが本来最も益を得るために必死にならなくてはいけないロマニューレは青い顔をしているだけなので、その姿を見たロイは思わず何度目かになるのか分からないが天を仰いでしまった。
ダイヤキングの暴走が確定したからだ。
「相変わらず面白い事を言う使者だ。だがお前の主である聖主ロマニューレ様はそう思っていないようだが?」
キョトンとしてロマニューレを見る使者だが、真っ青になって震えている初めての姿を見て動揺する。
「しゃ、シャイン殿。何をした!まさか聖主であるロマニューレ様に毒でも盛ったか!いくらギルドのトップであったとしても、死罪は免れないぞ!」
「よ、良いのです。もう全て終わったのです。良く分かりました、ギルドマスター。どこまで事情を知っているのかはわかりませんが、相当理解していると判断しました。もうあの鉱山は閉鎖します。回復魔法も値下げして二度と暴利は貪らない事を誓います。ですので、どうか例の件だけは宜しくお願いします!」
「例の件の詳細は聞いていないが、何やら脅しをかけたとだけは聞いている。まぁ、今後俺達冒険者ギルドに所属する面々に不利益がないのであれば、もう俺からは何も言う事はない」
「ありがとうございます!行きますよ!」
嵐のように現れて嵐のように去って行ったロマニューレと、彼女に引き摺られるように共にこの部屋を後にしている使者。
「あ、あの・・・俺が万屋に頼んだ事は崩落に巻き込まれた人の救出だったのですが、他には何をしたのですかね?」
「ロイ様。残念ながら俺もさっきロマニューレに伝えた通りに脅しをかけたとしか聞いていないのだが、間違いなく今日謝罪に来て今後この国は過ごしやすくなるとの事だった。当時は半信半疑だったが、あり得ない救出劇をこの目で目の当たりにした以上は脅しについても事実なのだろうと判断して待ち構えていたのだが、その前にお二人が来られてしまい鉢合わせになってしまった。そこは申し訳ない」
「い、いやいや、大丈夫ですよ。ねぇ、姉ちゃん?」
「そうね。ロイ君が良ければ私は何でも良いわよ。正直に言えばもう少し面白いものが見られるかと思っていたけれど、期待外れだったわね」
リーンは相変わらずだなと思っているロイなのだが、このまま何も事情を知らないのは納得できない事もあって折角ならばこの場で説明してもらおうと一旦席を外してスペードキングに伝言を頼む事にした。
「あの、ちょっとトイレに行っても良いですか?」
「ん?あぁ、勿論。っと、恩人にお茶も出さずに申し訳ない。直ぐに準備させよう」
こうして部屋から出たロイは小声でスペードキングに対して部屋に戻り次第万屋としてダイヤキングが説明をするように伝言を頼んで部屋に戻るが、慈愛溢れるナンタラカンタラは言わないように釘を刺している。
ロイが戻るとそこには美味しそうなお菓子が多数並べられている上に温かいお茶が準備されており、受付達からも今迄の依頼の達成具合や今回の件で相当信頼され喜ばれている様子が見て取れる。
「ロイ様、是非食べてくれ!」
「美味しそうですね。遠慮なく頂きます!」
ロイがサクサクとお菓子を食べている所、指示を受けていたダイヤキングが万屋としてこの部屋の中にいる者達だけに聞こえるように話し出す。
<私は万屋である。此度はハイス子爵家の願いを受け、神である至上のお方の御判断によって人々を救出した。そして神であれば絶対に見逃さない不敵な連中にも先行して釘を刺させてもらった。その具体的な内容とは、あのロマニューレとか言う不届き者はあろう事か以前とある商会の商品入手ルートに被害を与えた者であると判明しているので、その部分もあって素敵な旦那を紹介する事にしたのだ。ギルドマスターであれば聞いているであろう?ソシケ王国のブタ王子の話しを>
この説明だけでダイヤキングが間違いなく聖主ロマニューレの元に魔獣を送り込んだ事が確定したのでまたしてもとんでもない事をしでかしていたと頭を抱えたくなるロイなのだが、以前のシンロイ商会への妨害工作の事もあって許容する事にした。




