(117)崩落(1)
数日聖国ロナで普通の討伐依頼を受けていたリーンとロイ。
リーンはその有り余る力を使ってロイに良い所を見せようと張り切り、ロイは通常であれば相当危険な状況であっても陰に潜んでいるスペードキングによって絶対の安全が確保されているので二人の普通は一般的な普通ではなくなっている。
「リーン様、ロイ様。今日もありがとうございます」
いつもの通りに収納魔法から巨大な獲物を取り出して納品すると、周囲に屯している他の冒険者達からは恐れの目を向けられている二人。
ギルドに来た初日にはロイとリーン、特にリーンは童顔なので相当舐められてしまい絡まれたのだが、さっさと拳で強制的に撃退した経緯がある。
その後は少々恐れの視線で見られており、見た目可愛らしい女性にあっという間に伸されたと言う事実が受け入れられずに一部の者達が復讐を誓っていたのだが、二人が納品する魔獣は相当な強さを有しているのは誰の目から見ても明らかであり毎日毎日全く怪我をする様子も無しに納品するのを見させられて抗う気持ちは日を追うごとに削られている。
ロイは一切戦闘を行っておらず、そもそも職員の証明は有るが冒険者登録をしていない為に一部の冒険者にもその状態を目撃されているのだが、この頃になれば受付を通してロイとリーンの関係は嫌でも理解させられているので二人揃って畏怖の目で見られている。
結果的に周囲の冒険者達は鬱憤だけが溜まって吐き出す先がない事になるので矛先はどこに向かうのかと言うと、自分よりも立場が弱い者に向かうのは通常の流れだろう。
「おい、さっさとしろってんだよ!この、能無しが!!」
「は、はい。申し訳ありません」
ギルドの中での騒動は気の荒い冒険者が屯している以上は大きな騒動になりかねず、結果的に意図せず余計な騒動になった場合には回復魔法のお世話になって高額な請求をされる事から控えるのだが、もうそんな事は言っていられないようで周囲は荒れ始めている。
今回文句を言われている人物も同じパーティーメンバーであり同列であるはずなのだが気が弱いのか言われるままにペコペコしており、その状態が更に自分の立ち位置を相当に下げている。
パーティーとして行動する以上は信頼関係が大切でありこのような状態であれば最早パーティーとは言わずにただの付き人状態であると言え、戦力は激減している上に作業効率も落ちて良い事など一つも無く更にイライラが募ると言う悪循環になっている。
周囲を見ればそのようなパーティーばかりになっており、ギルトマスターのシャインもどのように改善すべきか非常に頭を悩ませていた。
「まったく。回復だけでも悩みの種なのにこんな状態では、やがて冒険者が全く活動できなくなるぞ!」
「ギルドマスター、聖主様の使いの方が見えております」
ギルドマスターの執務室で悩んでいる所に嬉しくない訪問者の存在を告げられて、何故これほどに問題ばかり発生するのだと言う思いがありつつも業務からは逃げる訳にはいかないので入室を促す。
「シャイン殿。既に聞き及んでいると思いますが、少々前に我が国の重要資源である魔石の採掘場で崩落が起きたようです。原因は奥深くに眠っていた魔獣を刺激したのではないかとの推測ですが、今の所現場は混乱しているので確定的な情報はありません。そこで対策として、一先ず崩落の処置及び魔獣の危険排除を即座に実行して頂きたい。報酬は聖主様より回復魔法の無料行使の許可が出ておりますので、喜んでください!」
ギルドマスターからすれば呆れる物言いであり、そもそも採掘の恩恵をあずかっているのは聖主に連なる者だけで民にまでその恩恵が来ていない事は誰の目から見ても明らか。
加えて魔獣が暴れたと言っているのだが、コレは事前調査で通常はそのような事態にならないように調整するのが当然の処置であり、そこを怠ったと平然と告げている事になる。
止めはその魔獣の状態すら把握していないと平然と言いきっているので復旧作業中に担当の冒険者が怪我をする可能性が高く間違いなく回復魔法が必要になるのだが、報酬はその作業時に負った怪我を回復するのか別に回復魔法の報酬があるのかは明らかにしていないながらも、今までの流れから作業中の怪我を治しただけで報酬とみなされる可能性が極めて高い事を知っているギルドマスターは敢えて問いかける。
「その報酬、崩落の普及作業に負う怪我の回復が相当するんじゃないだろうな?」
ギロリと睨むのだが立場的には冒険者ギルドのギルドマスターよりもはるかに上であり、実際に回復薬を全く使わせないと言う制限をかける事が出来ている以上はその力関係が現実でもある為に一切怯む事のない使者。
「当然ではないですか?無料で我ら聖国に所属する癒しを・・・各国に与えている教会の総本山であるこの聖国ロナの回復魔法を受けられるのですから、それがどの場所、どの状況であろうが相当過分な報酬である事は間違いありません。その程度も理解できないようであれば、聖国ロナのギルドマスターとしては失格ですね」
平然と訳の分からない事を言ってのけるのだが聖主ロマニューレに忠実な者達の考えはこれが標準であり、自分自身でも間違った事を言っていると言う認識は一切ないので極めて質が悪い。
「ではお断りだ!誰が金銭の報酬無しに好んで怪我をしに向かい、その怪我を治す事が報酬だと言われるような作業をするのだ?作業者に何もメリットがないだろうが。お前の頭は大丈夫か?それこそお得意の回復魔法でも使ってもらえ!」
当然の返しをするギルドマスターなのだが使者としてはギルドマスターが何を言っているのか本気で理解できないながらも絶対に早期に復旧させて魔石のノルマを達成する必要があり、仮にここでこのまま引き下がれば自らの益が相当に削られる事は目に見えているので必死になる。
閉じ込められている冒険者他作業員の救出の為に必死になるのではなく、自分の利益が減る事だけが嫌で必死になっている。
「そうですか。断りますか。そうなると中で閉じ込められている冒険者達は助からないでしょうね。ギルドマスターがギルドに所属する冒険者達を助けずに見殺しにした。そんな事で良いのですかね?」
「お前・・・」
状況はどうあれ言われている事は事実であるので、更に睨む力が増えているシャイン。




