(114)噂に縋る
リーンの驚異的な力を見せつけられている冒険者達なので今ギルドマスターと共に座っている席周辺に近寄ろうとする強者がいる訳も無く、相当な距離を取られているので会話の内容は一切聞かれていない。
そこを踏まえても相当危険な事を話すようで、更に席を移動して個室に移動する様にリーンとロイに促すシャイン。
「ここで話せるような内容ではないので、少々移動してもらえるとありがたい」
リーンとしては何が起きようが誰が相手であろうがロイの安全は絶対に確保する自信があるので、態々移動するのもどうかと思っている。
「いちいち移動せずにここで話をして頂けないかしら?これだけ周囲に誰もいなければ聞かれる事も無いでしょう?それでも気になるのであれば・・・」
突然立ち上がると、少々不思議そうにしているギルドマスターと受付の視線など一切意に介さずにこう告げる。
「ちょっと!そこの有象無象はボードの前で無駄に寝ている連中と共に席を外してくれるかしら?私達、聞かれたくない大切な話しがあるの!」
誰かを指名していたわけではなくギルドの中にいる冒険者全体に対して言い切っているリーンであり、少し前の惨状を目の当たりにしている以上は我先にと未だに気絶している冒険者を抱えてギルドの外に消えていく。
「さっ、これで大丈夫よ。ロイ君も面倒な移動をしなくて良くなったわ!」
この一言だけで何故この暴挙に出たのか理解したシャインと受付、そして元よりこうなるだろうと思っていたロイ。
「なんだか・・・申し訳ありませんシャインさん」
「い、いや、大丈夫だ。じゃあ早速ここで話しをさせてもらうが・・・」
一応何があるのか分からないので、陰に潜んでいるスペードキングに防音の処置をさせているロイ。
「繰り返しになるがこの聖都では回復については魔法に頼るほかなく、回復薬練成の技術も他国に比べて遅れるばかり。回復魔法が容易に受けられる状態であれば文句を言う筋合いはないが、一般常識からかけ離れている金額だから救えない」
ギルド職員としての常識を持ち合わせているロイは、このギルドマスターの言っている事は事実であると理解できているので頷くだけで余計な事を言わない。
「そこに現れたのが、他力本願で申し訳ないが噂のハイス子爵家のお二人と言う訳だ」
「え?噂・・・ですか?」
「そう、噂だ。と言ってもギルドからの情報なので確信があるのだが、俺の目で確認したわけではないからな。貴殿の屋敷にはリーン様が手懐けた古龍がいる。更に万屋と言う不思議な存在の助力を得ていると聞く」
「あ、あはははは。そうですね。そうみたいですね」
流石に万屋の名前が他国にまで届いている事に愕然してしまうロイだが、冷静に考えればギルドと言う組織間で情報が公開されている以上はそうなるだろうな・・・と、強制的に自らを納得させる。
「そこで・・・だ。是非ともその万屋にこの聖国での癒しについて助力をお願いしたいと思っている。何やらその万屋と少なからず繋がっているシンロイ商会と言うあり得ない程の商品を販売している商会も敷地に支店を設けたようで、そこには回復薬、薬草もある事までは聞き及んでいる。場合によっては万屋ではなく確実に存在して冒険者の目にも触れているシンロイ商会の助力を得る事でも良いのだが、そこに橋渡しをしてもらえないだろうか?」
実際には支店を出したわけではなく王都の店を縮小して移動したのだが、とりあえずその程度であれば問題ないのかと思い始めているロイ。
「えっと、じゃあ実家の方に聞いて、そこから万屋かシンロイ商会に問い合わせると言う形で動いてみますよ」
「おぉ、恩に着る!ロイ様!!」
当初は相当力のあるリーンに対して依頼をした方が確実だろうと声をかけていたのだがいざ話しを進めると略ロイしか話さず、更には交渉までしてくれると言うのだからシャインは少しだけ肩の荷が下りて楽になっていた。
冷静に考えれば交渉事はギルド職員に必須の能力であり冒険者として活動しているリーンよりもロイの方が間違いなく話しが早いのだが、相当追い詰められていたようだ。
「え?ロイ君。また戻るの?それはお姉ちゃん、ちょっと嫌だなぁ・・・」
一方のリーンは、折角ロイと異国の旅に出ているのにまたとんぼ返りになるのではと少々不満そうにしているのだが、ロイが帰ると言えば最終的に同意する事だけは間違いない。
「いや、姉ちゃんが持っている連絡用の魔獣で伝えれば大丈夫でしょ?」
「え?その程度で良いの?じゃあ直に準備するね。でもギルドの通信の方が速いし正確じゃないかな?」
このまま旅ができると理解したリーンは笑顔なのだがこれほど重要な案件であれば確実に連絡できる手法を使った方が良いと言う思いが頭の片隅にあるのも事実で、場合によってはギルド設置の通信方法を使う事もありではないかと思っている。
「リーン様。どこから情報が漏洩して潰されるのかがわかりませんので、公的な設備は使用しない方が良いのです」
そこまでかと思わなくもないロイだがどの道リーンにお願いした魔獣の連絡もロイにとっては囮の様なもので、実際にはカードを通して実家にいる家族に万屋の声として通知し、この場所での対応は自分がいるので全く問題ないと思っている。
「結構な状態ですね、シャインさん。わかりました。姉ちゃん、とりあえず近況報告を軽く書いたからコレを送ってくれるかな?」
本当に近況を報告するだけの手紙を直ぐに準備して、リーンが持つ魔獣に届けてもらう。




