(111)教会とギルドの関係
一般の民や商人達とは異なって、相当怪我をする可能性が高い冒険者と言う立場の者は癒しを貴重なものであると必要以上に認識している。
その癒しをほぼ全ての国家で独占的に教会と言う組織を使って牛耳っているこの聖国ロナであれば、その内部にある冒険者ギルドも独立機関とは言え言いなり状態になってしまうのは仕方がない。
教会としては怪我をしてくれれば相応の費用を受け取って癒しを行う事が出来るのでむしろ気性の荒い冒険者は大歓迎であり、更には騒動も大歓迎である事からその意志を伝えられているギルドとしても逆らう事が出来なかった。
仮に逆らおうものなら万が一にも自らが怪我や病気となった際に癒しを行ってもらえない可能性が高いからであり、薬草依頼が極めて少ないのも教会からの圧力によるものだ。
本来教会に所属している面々は奉仕の精神がある人物達であるべきなのだが欲にまみれたスーレシアの様な者がいるのも事実であり、その総本山とも言える聖国ロナの聖主ロマニューレが直接的に管轄しているこの聖都の教会であれば当然奉仕よりもお金と言う事になる。
「オラ!ちょっと来いよ?」
ごつい体格と強面の冒険者に囲われる事になっているリーンとロイなのだが、ここまで来ても誰からも助けがない事に呆れているロイと、ロイに害を成す者をどのように始末してやろうかと言う思いで獰猛な笑みを浮かべているリーン。
流石に強者の気配を感じ取った一部の冒険者がリーンのただならぬ雰囲気を察して一瞬怯むのだが、童顔で可愛く見えるリーンに怯える要素は何一つないし周囲には同僚が多数いる事からも直感を無視して行動に移る。
「姉ちゃん、落ち着いて。やりすぎちゃだめだよ?」
「ウフフフ、大丈夫。お姉ちゃん今は冷静だよ?でも、この後はどうなるのか・・・ちょっとわからないかな?」
これはもうダメだと天を仰いだロイはこの場でカードの力を使うのもどうかと思い、冒険者、そしてギルドに対しても相当な被害が出るのだが良い薬だと割り切る事にした。
その後の賠償云々について全く心配していないのはそれこそカードの力を使えばどうにでもなってしまうからで、やはりかなり一般常識からかけ離れてしまっている。
ロイが自らの背後に移動した事を把握したリーンは、正面方向を囲うようにしている冒険者の中でも最も近くにいる、そして最も屈強な体躯を持っている男の腹に突然拳を叩き込む。
―――ドン―――
小柄で可愛らしい女性が大柄で筋肉質の男に対してたったの一発軽く殴ったように見えたのだが、男の体は数メートルほど浮き上がって地面に落ちる。
―――ドサ―――
リーンとしてはこれ以上ない程に力を抜いて攻撃したのだがカードの者達による裏からの助力によって人外の力を手にしているので、例えギルド最強と呼ばれている様な冒険者であったとしてもこのような状態になる。
男の意識は既に無く、周囲の者達は何が起きたのか分からないと言った顔をして倒れて若干痙攣している男とリーンを交互に見ている。
「で、貴方達は私達に何を教えてくれるのかしら?返礼として、私からも一般的な常識を体に教えこんであげるわよ?」
ギロリと音がしそうなほどに、順番に囲っている冒険者達を睨んでいるリーン。
あり得ない現実を見させられて視線を合わせられる者がいる訳も無い中で、ロイを不快にさせたこの場の者達に対してこの程度でリーンが止まる訳がないのだが、この言葉を聞いて冒険者達は安堵してしまう。
「おかしいわね。誰も何も言わないのであれば、教わる事はなさそうね」
この一言で助かったと思ってしまったのだが、そんな事がある訳がない。
「じゃあ、次は私が教えてあげるわね。常識を!この拳を使って!」
その言葉の直後に同じように数人が浮き上がって地面に落下すると、意識を失って痙攣している。
「「「ひぃ!!」」」
あり得ないが、どう見てもリーンが見掛けとは真逆の人外の力を持っていると把握した冒険者達から恐怖の声が漏れるが、足が震えて逃げる事もままならない。
その後はリーンとしては相当手加減をしているのだが、受付や騒動に参加していない冒険者達から見れば情け容赦ない鉄拳制裁が加えられている図になる。
僅かな時間で、依頼書が貼られているボードの近くには多数の痙攣している冒険者達の山が複数出来上がる。
「ロイ君、お待たせ!ちょっと汚い連中の無様な姿が見苦しいけど、ごめんね。ロイ君のアドバイス通りに相当抑えておいたよ?これで良いでしょ?」
本当はこれで良いかと聞かれればやり過ぎなので否なのだが、今までのリーンの行動から考えれば合格点だなと思っているロイ。
「う、うん。ありがとう、姉ちゃん」
「やった!ロイ君に感謝されちゃった!」
シーンとしているギルドでのやり取りである為に二人の会話は受付にも聞かれており、ギルド間で情報共有がなされているのか、この会話を聞いてロイと言う弟を異常に大切にしている別格の力を持っている姉の存在について思い出すギルド職員。
その女性の名前はリーンと言いソシケ王国のとある貴族なのだが、古龍すら手懐ける程の実力を持っていると言う事を・・・
冒険者達にはそこまでの事情は分からないが受付達はどう見ても目の前の可愛らしい女性が古龍を手懐けていると理解してしまい、必要以上に緊張する事になっていた。




