(10)古龍の真実
――過去のとある日の早朝――
間違いなく程なくして自分に会うためだけに高難度の依頼を受けるべくリーンがギルドにやってくると、一切調べる事もなく理解できているロイ。
誰よりも早くギルドに赴き、未だ夜勤の職員との交代時間ではないのだが業務を始めている。
その中身は・・・リーン向けの高難度の依頼の選定。
今までもこうしてリーン用の依頼を見繕って与え、その全ての依頼を問題なく達成して相当な力を得ているリーンだが、実際はロイが裏で手を回している事がほとんどだ。
手を回さない時でも隠密行動を得意とするスペードの部隊を秘密裏にリーンの護衛に就かせて危険がないようにし、その時点でのリーンの実力を把握した上で次の依頼選定基準としていた。
つまり本来のリーンの実力では少々危険な相手を見繕いロイの力であるカードの力を使って事前に敵の力を少々削いでおき、リーンが安全に討伐する事で10歳を超えて尚収納以外の能力にも目覚め、且つその力も相当底上げされていた。
だが、この日に限って良い塩梅の依頼を見つけ出す事が出来なかったロイ。
その理由は・・・ギルドマスターであるクノデラが突然しゃしゃり出てきてしまい、強引にとある依頼書をロイに押し付けたからだ。
「ロイ!これは昨日の夜にお前がさっさと帰宅した後に代理で俺が受け取ってやった依頼だ。是非ともこの依頼をリーン様に受けて頂くように手配しろ。わかったな?」
有無をも言わさず依頼書を押し付けたクノデラは、未だ交代時間にはなっていないのだがその足でさっさと帰宅してしまう。
「参ったな、古龍か。今の姉ちゃんにはかなり厳しい相手だ。仕方がない。じっくり調整する時間もないし・・・」
一人呟きギルドを出て裏手に回ると、収納魔法からカードを取り出して二体程この場に召喚する。
「クラブエース!それと、ないとは思うけど念のためにハートエース」
「はっ、ここに。我が主」
「参上いたしました、ご主人様」
ロイから見ればエースからテンまでは外観の違いが判らないのだが持っている力は同じであるため、その時々で空いている者を順次呼ぶようにしている。
ちなみにジャック、クィーン、キングについては数が上がるほど強い力を持っているのだが、古龍程度であればエース・・・戦闘に秀でている部隊のクラブエースでなくとも十分対応可能だと判断したが一応安全を見てクラブの部隊を選定し、その他に回復及び防御が得意なハート部隊も一人派遣する事にした。
「すまないけど、ちょっとザグリエ町で目撃されている古龍と話しをつけてきてほしい。姉ちゃんが今日古龍の爪を入手する依頼を受けるので、事前に危険がないように調整してほしいんだ」
「「承知しました」」
これだけで、二体は即この場から消えて行く。
ここでロイがもう少し色々と説明しておけば希望通りに爪だけ残して古龍は姿を隠したりしてくれたのかもしれないが・・・クラブエースに完膚なきまでにボコボコにされて涙目の古龍が、自分でも治せないような怪我をハートエースに瞬時に治されて更に怯えてしまい完全に下僕状態になっていた。
そんな古龍が聞かされた言葉は今日か明日に自分の爪を取りに来る冒険者がいて、その存在が目の前の二体の主の姉だと聞かされては、知能が高い事もあって何とか媚び諂い仲良くなろうとするのは仕方がない。
もちろん主については完全に秘匿するように釘を刺されているので、手も足も出ない相手からの命令を違えるつもりがない古龍は指示通りに爪の準備だけをしていた。
リーンとしては一刻も早く依頼を達成してギルドに戻りロイに会いたいので急いで目的地であるザグリエ町に到着すると、何故か既に切り取られた綺麗な爪の前にチョコンと座っている巨大な古竜がいたのだから拍子抜けだったのだ。
「貴公が爪を欲していると聞いた。我の爪を献上する故、友誼を結んでは頂けないだろうか?」
初手から遜っている古龍だが、リーンとしては余計な時間が取られない事に安堵して何の違和感もなく申し出を受け入れる。
これがリーンが古龍と友誼を結んだ上で予定よりもはるかに早くギルドに戻ってくる事ができた、真の理由だ。
クラブキングからの報告を聞いたロイは、ここに至り始めてクラブエースやハートエースに碌な説明をしていなかったと思い出した。
「あ、そうか。わかった、ありがとう。他には何かある?ダイヤクィーン」
「ございません」
報告が全て終わると召喚された者達がカードに戻り、ロイがそのカードを収納すると部屋に静寂が訪れる。
一ギルドの職員として生活をしている弟の世話をしていると思っている姉だが、実際は逆の立場だと言う事はロイ以外には誰も気が付いていない。
「今の立場が理想だよな」
この世界ではありえない力を持っているロイ。
なぜ自分がこのような特殊とも言える能力を持っているのかはわからないが、血の繋がっていない自分を温かく迎えてくれたハイス子爵家に恩返しをする為に日々陰ながら行動しているしこの行動を変えるつもりもない。




