(108)旅
カードの者達は自分達が準備した服、装飾品に対して喜んでもらえたと狂喜乱舞しているなどとは知らないロイは、改めて旅をする事を両親に伝える。
そもそも領地に向かってルホークに会う流れのまま旅をするつもりではあったのだが、王都の邸宅に商会が開店し、更には龍まで引き入れる事になったので確認の意味もあって一旦王都に戻って来ただけだ。
「そうだな。領地までの往復の旅も全く問題なかったようだし、リーンもいる。わかった。気をつけて行ってくると良い。だけど定期的に連絡だけはしてくれると助かるな」
「そうよ。リーンちゃん、ロイ君の事を宜しくね?」
「大丈夫よ、お父さん、お母さん。私がいるのだから大船に乗ったつもりでいて。私とロイ君は楽しく旅をしてくるだけ!絶対に安全よ」
確かにリーンはソシケ王国の王都にあるギルドでは最強の名をほしいままにしており、自ら第三者に吹聴したわけではないのだが古龍まで配下にしていると噂が立ち上った結果他の町、国でもその名は有名になっているので実力的には安全である可能性が高い。
だが有名になっているとは言っても他国であればその風貌が完全に知れ渡っている訳もないし実際にこの王都の様に龍を見た者もいないので、その実力も相当な尾ひれがついていると感じている者が大半なのも事実だ。
「じゃあ、行ってきます!」
前回とは異なってしっかりと了解をとった上での旅立ちである為かあっさりとしたもので、これから寝る時間だと言う時にロイとリーンは邸宅を後にする。
ロイはさておき別格のリーンがいる以上はいくら夜の街道でも問題ないと判断している門番は、特に何も忠告する事なくあっさりと二人の通行を許可していると同時にその情報は即座に王城に上がる。
「おい、リーンが出来損ないのロイと出国したようだぞ?コレはチャンスか」
「は~、陛下。そんな訳はないでしょう?そもそも子爵家には未だに龍が鎮座しているのではないですか?そして存在すら把握できない万屋。安易に考えすぎですよ」
何時もの様に、宰相ブライアンに窘められて大人しくなる国王バレント。
因みに頭脳が突出しているはずのバミュータは既に眠っている為に、この場にはいない。
「ふふふ、ロイ君。どっちに向かう?いっその事ソシケ王国から出ちゃおうよ?同じ国の中ばかり見ても仕方がないよ?違う国を見るのも楽しいと思うな」
今まで国内を色々回っていたので、リーンの言う通りに他国の状況を見るのも良い勉強になると同意する。
「そうだね。俺も賛成だよ、姉ちゃん」
「やった!じゃあ、どうしよっかな~!」
ロイが同意した事により、鼻歌を歌うような形で行先を真剣に検討しているリーン。
ギルド職員であったロイよりも実際に冒険者として相当な範囲で活動していたリーンの方が色々な生の情報を持っているのだろうと思っているので、行先について特に希望がないロイは黙っている。
リーンは確かに相当な広範囲で依頼をこなしていたのだが依頼を受注していたのはロイが勤務する王都のギルドであった事からソシケ王国の国内に限定されており、実は通常であればギルドの受付、他の冒険者達から入る多種多様な情報も大して持っていない。
「じゃあ、こっちにしよっか?」
街道の分岐点でリーンが迷いなく指定するのでその先がどうなっているのか等わかる訳も無く、特にカード達にも調査の指示を出していないのでそのまま進んでいる二人。
「ちょ、姉ちゃん。俺にはこの道、夜に歩くのはきついかな」
山を登る様な街道になっており、元から体力のないロイでは流石にスペードキングの補助があっても相当体力を削られた結果いよいよ足が上がらなくなっていた。
「あっ、ごめんねロイ君!じゃあ、今日はここで終わりにするね。旅が楽しみ過ぎて張り切りすぎちゃった。お詫びとして早速お姉ちゃんがマッサージしてあげようか?」
「い、いやいや、大丈夫だよ。でもお腹が空いたから夕飯にしようか?」
リーンの申し出を受けようものなら何をどうされるかわかったものではないと言う気持ちがあるロイは、断ると同時に即座に他の事に意識が向かうように誘導する。
「そうだね!ふふふ。じゃあ食べようか?じゃじゃーん!!お母さん指導の元にお姉ちゃんが作った自信作です!」
ロイの思惑通りに意識が完全に食事に向き、嬉しそうに収納魔法から椅子と机、更には湯気が立っている食事を取り出しているリーン。
いくらリーンの力が別格の存在でも同行しているロイ自身には力がある訳ではないので移動距離を稼げておらず、二人がいる位置からは王都が一望できている。
「わ~、こんな場所があったんだね。姉ちゃん、知ってた?」
「ううん。でもすっごく綺麗だよね、ロイ君。一緒に見る事が出来て嬉しいな!」
魔道具による明かりか炎による明かりかは不明だが山の中腹から見下ろしているソシケ王国の王都は非常に幻想的に見えており、自分が住んでいた場所ですら見た事のない景色として映し出してくれている事から他国に行けばもっと良い経験が出来ると期待に胸が膨らんでいる。
気分の良いまま景色を眺め、食事をし、ロイが珍しく強い意志でリーンの要望を断って一人で風呂に入り・・・と、初日の行動は終わりになった。
翌朝・・・
「ふぁ~、こうして見ると普通の王都だな。今後行く場所では、夜景は別の景色が見えると意識しておいた方が良いのかもしれないな」
何の変哲もない王都が見えたので、思わずこのような感想を漏らしていたロイだ。




