(102)とばっちり
ハイス子爵領にある屋敷の一室で、珍しくロイが自発的にダイヤキングを召喚して話しをしている。
「ねぇ、ダイヤキング。兄ちゃんから聞いたけどさ?商会を邸宅に移動した後にあの古龍を護衛として飼育するって父さんが言っていたらしいんだ。今の所は姉ちゃんの言う事を素直に聞いているけど、そこまでしても大丈夫かな?」
王都の父の行動については、領地にいる兄のルホークを通してしっかりと家族には伝達されている為にカードの力を使わず共情報が入ってくるロイ。
見かけ上はリーンが制御している事になっているのだが、実際にはカードの力を恐れており、つまりロイが制御している。
「我が主。あの龍は獣にしては比較的知能が高いので、改めてしっかりと言い含めれば全く問題ないかと思います。そもそも我が主の御両親のお二方、王都の邸宅にはクラブの部隊二名が護衛についておりますので、そこからもしっかりと指導をしておけば宜しいかと」
「そうだね、そうだった。突然召喚してごめんね」
ロイとしては家族が心配になった為に自発的に確認するつもりで行った行動なのだが、カード達、特に本当に珍しく自ら願い出ずに召喚してもらえたダイヤキングにしてみれば正にしっかりと対応する様にと暗にお願いしてもらえたと言う感覚でいる。
異常に高揚したままのダイヤキングがカードに戻ると、何時もの会議が開催される。
「皆の者!!今日、我らが至高の主はこう仰った。王都の子爵邸にあの龍を移動させると。もちろんハイス子爵家の守護神として移動させるのであって、その任をしっかりと認識させる必要がある。そこでだ!今顕現している面々にその任を実行してもらっても良いのだが、実は夫々重要な任務、店舗運営や各種守護、運搬等非常に忙しい。そこで、龍には自力で王都に来てもらおうかと考えている」
「確かにダイヤキング殿の言いちいち尤もだが古龍ともなれば結構な大きさになっているはずであり、移動中に民の目に触れて大騒動にならないだろうか?何なら私が我が主に顕現を願い出て対応するが?」
かろうじて常識がある発言をしたのはハート部隊の長であるハードキングなのだが、この場において真面な案は秒で切り捨てられる。
「いやいや、我が主は暗に今回の任務をお伝えくださった。つまり裏から対処しろとの仰せであり、これ則ち万屋としての活動を指示されている事に他ならない。流石は我が主。我らにとってみればどうと言う事のない存在ではあるが、人族にとっては相当脅威になる古龍を移動するだけで万屋の名声が広がる。これほど素晴らしい案をさりげなく御提示頂ける我が主の頭脳、尊敬と言う言葉だけでは言い表せない!」
訳の分からない持論で標準的な案が切り捨てられたハートキングなのだが、簡単に納得した上で同意してしまう。
ロイとしては父であるハイス子爵が言っていた事を兄のルホークから聞いて単純に安全かどうかを確認しただけなのだが、勝手に事は進んでいく。
「さ、流石は我が主。そしてその意を完璧に読み解いて見せた頭脳集団のトップのダイヤキング殿だ!して、どの様に行動するのだろうか?当然協力は惜しまない!」
「そこよ。そこが問題よ、ハートキング殿。皆も良く聞いてほしい!この任務は恐らく我らカード部隊の力を、そして信頼度を確認するために我が主がお与えくださった試練でもある。したがってこの件で安易に顕現を願い出る事は愚策。既に顕現している面々を使う訳にもいかない。となれば、今出来得る最善の手段は決まってくる」
「成程。我らの出番ですね」
絶大な力があるカードの部隊の仲間であってもその存在が良く分からない、性別すら不明のジョーカー二体が立ち上がる。
この二体だけはロイの意志に関係なく勝手に顕現できる存在で、過去に一度だけ自らの意志で顕現して行動した事がある。
「その通りだ、ジョーカー殿。だが我が主の事だ。奥の手であるジョーカー殿を二人も使っては間違いなく失望されるだろう」
「確かにその通りですね。では、我が出向きましょう」
「では、我は吉報を待っていますよ」
ジョーカーの一体が大人しく座り、未だ立ち上がったままの一体に向けて説明を始めるダイヤキング。
「今回の案としてはシンロイ商会が子爵邸に移動したお披露目時に万屋として民に龍について周知し、そこで龍を厳かに降り立たせる。どうだろうか?」
「素晴らしい案ではありませんか、ダイヤキング殿。これ以上ない程の名案だと思います。それで我は何をすれば良いのでしょうか?」
いつもの流れではあるのだが、彼らカード達にしてみれば人族に恐れられている古龍であってもそこいらにいる有象無象よりも少しだけ強いか?程度の感覚なので、王都に空から古龍を来訪させるとしても多少驚かれるだろうと言う感覚だ。
相変わらずこの認識のズレが補正されないままに話しは進み、古龍来訪とシンロイ商会移転再開の準備は着々と進む。
実際の作業としてはカードの者達の力あればすぐに済むのだが商会には少数ではあるが元第二王子ミラージュを含めた信頼できる人族の従業員もおり、その面々に対して事業を閉鎖するわけではなく縮小するが継続する事、雇用関係も条件も変わらずに働ける事を説明する時だけが最もカードの者達にとっては大変だと思わせる時間だった。
カードの者達にとって万屋として最大のイベントになると考えられている古龍は、突然朧気に見える存在が目の前に現れて最大限警戒するのだが、その警戒などまるで無視するかの様に強烈な圧をかけられた上で訳の分からない住処の移動の話しをされてしまう。
「わ、我は、時折爪や髭を取りに来るリーンと言う冒険者をこの場で待つ必要があるのだ!」
古龍としては、ジョーカーは過去に自分をボコボコにして更には一瞬で癒して見せた者達とは明らかに風貌が異なるのでカード達の仲間だとは思えず、必死に抗ってしまった為に更に圧を受けて心身共に大きく凹んでいたのだがかろうじてリーンの名前を出せた事によって圧は無くなり、その後流石にジョーカーでも事情を把握する事が出来た。
結果、事前準備では何も事情を知らない古龍だけが物理的にも精神的にも疲弊した。




