(101)何度目かの激震
過去にあった商会が統合した際も相当な激震が走った王都なのだが、今度の激震はその当時の激震とは比べ物にならない程の騒動に襲われる。
広大な敷地に多数の商店が集約されて来訪者に重宝されている商会、休憩場の銅像に願いを告げれば基準は不明だが万屋が受託して叶えてくれると噂になっている商会が、その機能の全てを停止すると案内があったのだ。
利用している貴族や冒険者、民は驚愕し、市井の施設利用を拒絶していた国王バレントでさえ税収と言う意味で動揺している。
「な、何故だ?情報を精査しろ。それと誰か騎士を商会の銅像の場所に向かわせ、商売停止を覆す様に願わせろ!」
完全に他力本願でそもそも万屋がハイス子爵側にいるのは明らかなのだが、ここで商会からの税収が無くなると極貧生活が待っているのでなりふり構っていられない。
「おい!お前の頭脳はこんな時のためにあるんだ。何か良い案が無ければ、お前が国主になった時には国の存続すら危ういぞ!」
妾の子、優秀であるが故に自らの地位を脅かすと判断して実在しないミュール男爵の邸宅で生活をさせていたバミュータに対しても、詳しく事情を説明しないままに解決策を求めている。
「え?突然言われてもわかる訳ないじゃん」
その様子を相当冷めた目で見ている宰相ブライアンはこの騒動に関して間違いなく万屋が一枚かんでいると判断し、この後ハイス子爵家に出向いてわかる範囲で事情を聞こうと思っている。
無駄にバタバタしている王都、特に王城内部なのだが、今尚シンロイ商会が近々営業を停止するとしか情報が無いので誰もが何もできずにいる。
「本当に・・・全く国家に関係のない一商会が営業を停止すると宣言しただけでこのザマですか。良く利用している民であれば理解できなくも無いですが、国家元首がこれ。ここまでくると呆れを通り越して笑えてしまうのは、私だけなのでしょうかね?」
国家は大切だが王族に対する忠誠は全くなくなっている宰相ブライアンは、平然と今の状態を批判しつつハイス子爵家に向かっている。
「今日は如何しましたか?ブライアン殿」
「いや、実はですね・・・恐らく全てご存じなのでしょう?ハイス子爵。もちろん商会の業務停止だけではありませんよ?その先についてもご存じなのかと思いまして、足を運んだ次第です」
ハイス子爵としても軽い挨拶程度のつもりで問いかけたのであり、目の前の宰相ブライアンであれば相当正しい推理の元にこの場に来ている事は理解している。
「ハハハハ、流石ですねブライアン殿。確かにご指摘の通りですよ。王都で生活している面々には相当不便になりますが、今後あの商会は規模を小さくしてこの邸宅の敷地で再開する事になっています」
「・・・つまり、納税が無くなると言う事ですね?それでいて民と冒険者達のフォローは出来るようにする。なるほど、考えましたね。ハイス子爵の庇護を宣言した万屋の知恵ですか?」
「そこについては正直良く分かりませんが、事の大きさから考えるとそうなのでしょう。私も領地からの連絡で簡単に説明を受けただけですので」
ブライアンからはリーンの妾騒動の際に助言を貰っていた事もあって、特に何かを隠すと言った事をせずにしっかりとわかる範囲で説明をしているハイス子爵。
「縮小して営業再開するまでの情報は回っていないようですが、コレは何時頃公開されるのでしょうか?王族に関してはどうでも良いですが民も相当焦っているように見えますから、正直私としては早く民には安心してもらいたいと言う気持ちがあります」
「流石は名相ブライアン殿ですね。私が制御できている事ではないので確約はできませんが、数日以内に情報が回るのではないかと思います。今後は私のこの王都での別邸内部のみの店舗になりますから、正直今迄の様に来店していた方々全員に商品が回るのかは・・・そもそも主な販売品目も聞いていないので、冒険者向けなのか貴族向けなのかもわかりません」
「まぁ、そこも万屋が考えているでしょう。今の所万屋がハイス子爵の後ろにいる事は明らかになっている為に貴族の中で大きな騒動は起きていませんが、今回商会の移動で影響が出るのは民と貴族達の奥方が大半。そう考えると、奥方達がシンロイ商会の品を手に入れられないと分かった際に暴動が起きないかと言うと・・・暴力的ではないにしろ何かしらがあると思いますよ?」
「やはりそうですね。私でも不思議な万屋が背後にいて、更にはシンロイ商会までが敷地の中にある貴族であれば無関係で居続けられるかどうかは微妙な所ですから」
謎の集団万屋を味方に引き入れ、王都の屋台骨とも言える商会すら敷地内部に招き入れるハイス子爵が王都の面々からどう思われるのかは簡単に想像する事が出来る。
「まぁ、私も脅すような事を言ってしまいましたが、そう深く考えなくても良いでしょうね。何と言っても万屋を知らない面々であっても、リーン殿は王都に入れば誰しもが知っていますから。っと、そうだ!何なら敷地にリーン殿が手名付けた古龍。ザグリエ町の近くにいるのでしたか?ここまで来たら思い切って、その龍を飼ってしまっては如何でしょうか?」
頭が切れる故か今のハイス子爵家の持っている強大な力については良く理解できており、そこを踏まえて簡単に今後来るのであろう貴族や王族からの各種攻撃を容易に防ぐ事ができる手段を提案したのだが、普通に考えればとんでもない事を言っている。
「ブライアン殿・・・その、王都に古龍が存在していると言う事自体が異常事態ではないでしょうか?それこそ他国から相当警戒されると思いますが?」
「そうでしょうか?どの道ソシケ王国内に生息しておりましたし、逆にそれ程危険な存在をしっかりと制御できていると感謝されるのではないでしょうか?まぁ、国によっては確かに警戒されるでしょうが、だからどうしたと言う話しですよ」
ハイス子爵はまさか王都に古龍を招き入れる等全く思いもしていなかったのだが、国家の宰相がこのように言って来た事で選択肢としては有りなのかと思い始める。
確かに相当な力はあるがその存在が良く分からない万屋であれば、視覚的に脅威にはならずに勘違いした面々がハイス子爵家を攻撃する可能性は捨てきれず、その点見た目から相当な強さを感じさせる古龍であれば十分な脅しになるだろう。




