(100)王都の商会
昨晩ダイヤキングと色々と長く話して中々眠れなかったロイは、昼頃に漸く目覚めると少々重くなっている体を起こして食堂に向かう。
「ロイ、随分と疲れているようだな。もっとゆっくりしても良いんだぞ?」
リーンが朝から突撃した所、ロイが深く眠っていたと報告を受けていたルホークが昼食を取りながら心配そうにロイを見ている。
「そうそう。ルホーク兄の言う通りだよ。ルホーク兄とは違って私達には急ぎの仕事がある訳ではないから、ゆっくりしようね?ロイ君」
「ロイ様。おそらく色々と精神的にも疲れる事があったのでしょう。私の方からもゆっくりと休まれる事をお勧めします」
リーンの言葉の後に恐らく昨晩リーンが風呂に突撃しようとしてロイが困っていた事を思い出した執事エドバンが、少々厳しくリーンを見ながらロイに対して優しく告げる。
「ありがとう。でも、ちょっと考え事をして寝るのが遅くなっただけで、体調が悪いわけじゃないんだ」
「そうか。心配事であればいつでも相談してくれよ?」
<私は万屋である>
そこに、事前に相談していた通りにスペードキングによる万屋がこの場に声を響かせる。
ルホークとエドバンは少々警戒態勢に入ってしまったので、万屋としての言葉が続く前にロイが事情を説明する。
「あ、大丈夫だよ。王都で無駄な試合があった時にも助けてもらって優勝したけど、その際にハイス子爵を守護してくれると公に宣言してくれた謎の組織だよ」
「そうそう。良く分からないけど私達を助けてくれているから、安心よ?」
本能で害か無害かを判断しているリーンがあっけらかんとこう告げるので、その能力を良く知り完全に信頼しているルホークとエドバンは肩の力を抜く。
そもそも万屋自体が最も大切なロイの力による者達であり無意識下でその部分を嗅ぎつけているのか、リーンは万屋に対して全く危機感を抱いていなかった。
以前リーンがロイを探す旅に出る際に、ロイの行き先を匂いで辿ると言ってのけた部分はここに由来するのかもしれない。
<改めて、私は万屋である。王都にてハイス子爵家を守護すると宣言した義務の一端を果たそうと思う>
本来王都での出来事については当主であるハイス子爵から領地にいるルホークに伝達済みでその際に同時にロイがリーンと共に領地に戻ると聞かされていたのだが、喜びから大会の事や万屋の事は完全にすっぽ抜けてしまったルホークと、ついでに共に話しを聞いていたエドバン。
<予想はできると思うが、我ら万屋とシンロイ商会は多少の繋がりがある。そこを踏まえて色々と説明させて頂くが、現状ソシケ王国、更には聖国ロナの二か国からは現実的にハイス子爵家は監視対象になっている>
「やはりそうか」
思う所があるのか、ルホークが思わずと言った感じで呟く。
<領地の状態が上向き更には多大な戦力を有しているからに他ならないが、最近の彼等の行動は目に余る。よって、王都の税収の屋台骨になっているシンロイ商会をハイス子爵の別邸内部に収まる程度まで縮小させようと思う。商会長には了承を得ている>
目をつけられている以上何をどうしても変わらないので、逆に国家側の資金源を大幅に縮小させる反撃に出ると伝えている万屋ことスペードキング。
初めてと言って良い程のダイヤキングの真面な案なのだが細かい内容は全て説明せずとも聡明なルホークとエドバンは理解しており、当然、当事者のロイもわかっている。
唯一何もわかっていないのは、その辺りには全く興味が無く唯々ロイと今後の旅はどこに行こうかと妄想しているリーンだけ。
<当然だが領地も王都の別邸も、そして各個々人も我ら万屋の完全な庇護対象になっている事は伝えておこう>
「理解した。だが、それ程大きな事態になるのであれば俺の独断では決定できない。実際に移転先候補の王都の別邸にいる父さ・・・当主である父にも事情を話して許可をとる必要がある。暫し待たれよ」
食堂から出て行ったルホークは、通信の道具を使用して王都の別邸と連絡を取る為に執務室に移動する。
「では皆様、その間はお食事をお楽しみください」
すかさず執事エドバンが柔らかい笑顔でこう告げて飲み物を入れてくるので、この辺りも流石だと感心しているスペードキング。
少しすると、扉が開いてルホークが入ってくる。
「領民、使用人達の安全が確実に担保できる事を条件に許可が出た!」
天井に向かって話すルホークだが、どこから声が聞こえてくるのか分からないので何となくこうしている。
<む、英断だ。王都では数日後に相当な騒ぎになるだろう。店舗の移動先が子爵家の別邸である事も含め、恐らくこの領地になだれ込んでくる冒険者や商人も大幅に増加する事が見込まれる>
「確かにその通りだ。領地で活動してくれる人材が増える事は有りがたいが、物資が間に合わない可能性があるな」
建屋、消耗品、その他もろもろの生活必需品の不足が懸念されるのだが、その程度はダイヤキングも想定済みだった。
<当然そうなるだろうと思い、徐々にではあるが縮小した分の商会をこの領地に移動させてもらおうと思っている。後日で良いのでハイス殿に改めて許可をとってもらいたい>




