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異世界にモブ令嬢として転生しました。悪役令嬢の断罪事件を歓迎します。

作者: りな

「人間、どうしても理解できないタイプがいる」


そうつぶやいたのは私――公爵家でも伯爵家でもなく、ただの中級貴族の娘、クラリッサ。

はい、異世界転生者です。モブです。すごく地味です。


理解できないタイプ? それはもう、はっきりしてます。


人の悪口を大声で言う。


自分の失敗を謝らない。


堂々と嘘をつく。


気に入った人には優しくするけど、嫌いな人にはとことん嫌がらせする。


そして自分の思い通りにならないとヒステリックにキレる。



要するに――この学園にいる、悪役令嬢セレーナ様のことです。


学園の日常

「まあ聞いてくださる? クラリッサがこの前、絨毯の上で転んでドジを踏んだのですって! 本当にみっともないわ!」


(いや、あんたが後ろから蹴ったんだろ…!)


「セレーナ様、わたくしも見ました! みんなドン引きしてましたわ!」


(全員、あんたの取り巻きだろうが…!)


笑い声が講堂に響く。いや、別に死にはしないんだけど。地味にダメージは受ける。


「……はぁ」


私は机に突っ伏した。心の中でこう付け加える。


(いや、マジで理解できんわ、この人種)



ちなみに私、前世ではただの会社員でした。

「波風立てないように」をモットーに、上司のパワハラを右から左へ聞き流して暮らしてました。


……でもね?


異世界でまで、悪口と嫌がらせを見せられたら、流石に堪忍袋の緒も切れるんですよ。



そして来たる日――学園大ホールでの卒業パーティー。

定番イベント「王子による婚約破棄」が始まった。


「セレーナ・グランディア! お前の数々の横暴、俺はもう見過ごせない!」


おお……やっときた! 主役イベント! 

周囲がざわつき、仲良しグループと虐げられグループの視線が交錯する。


しかし――


「違うのです、殿下! わたくしは何もしておりません! 誰かが私を陥れようとしているのです……!」


おいおい。始まったよ、堂々嘘タイム。


「セレーナ様はそんなことしません!」

「殿下、騙されないで!」


取り巻き軍団の大合唱。

虐げられグループは「いや、やってたけど?」って顔でおろおろ。


……で。


「……」

気づいたら私は前に出ていた。



「失礼します、殿下」


「クラリッサ?」

「何の用ですの?」


セレーナが鼻で笑う。いや、今は鼻より口の臭いをどうにかした方が……いや脱線した。


「セレーナ様の悪行、わたくし全部メモしておりました」


ざわぁっ。


「メ、メモですって!?」

「はい。例えばこちら――“講堂でクラリッサを後ろから蹴り、転ばせる。大声で笑う”。日付入りです」


「そ、それは偶然足が当たっただけよ!」


「では次――“嫌いな子に向かって消臭剤を噴霧し、『臭いわねぇ!』と叫ぶ”。三月十七日」


「……っ!」


「さらに――“全員に配る差し入れを自分たちで分ける”。四月五日。」


「な、何を根拠に!」


「あったはずの現物のリスト、持ってきてます」


ドンッ!


机の上に証拠の山が積まれる。複数回、あったわね。

ざわめきが一気に「どよめき」に変わった。



「……殿下、わたくしたちも証言いたします!」

虐げられグループが勇気を出して一歩前へ。


「わ、わたし……セレーナ様に“その服、オバサンみたいね”って言われて……! 半年間ずっとからかわれてきました!」


「私も! たった一度、ダンスで足を踏み外しただけなのに……“ドジ娘”って渾名をつけられて、毎日のように言いふらされました!」


「わ、わたくしも! 学園の花瓶が割れた時、犯人じゃないのに“あの子よ”ってセレーナ様に言われて、ずっと疑われ続けたんです!」


「……っ!」


会場が一気にざわめく。

セレーナは顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「そ、それは冗談で言っただけよ! 大げさだわ!」


「冗談で人の人生潰すのやめろおおお!」

虐げられグループ、全員で涙ながらに叫ぶ。


取り巻きたちの表情も揺らぎ始めた。


「……いや、そういえば私も“太っていて可愛いわ”って毎日言われてたわ」

「私も“おバカさんね”って! ……あれ? これって優しさじゃなかった?」


「う、嘘よ! みんな私を裏切るの!?」


セレーナの悲鳴がホールに響き渡る。



「セレーナ・グランディア。貴様の婚約は破棄だ! 人の上に立つ心が出来てない。そして卒業まで自宅謹慎とする!」


王子の宣言に拍手喝采。

セレーナは「いやあああ!」と泣き叫びながら連れ去られていった。


……しんと静まり返る会場。


「……クラリッサさん、すごいです」

「あなたがいてくださらなければ、私たちは泣き寝入りしていました」


虐げられグループが次々と頭を下げてくる。


私は笑って肩をすくめた。


「いえ。ただ――どうしても理解できない人種を、このままにしておけなかっただけです」



翌日。

学園の廊下で私はそっとノートを閉じた。


“セレーナの悪行リスト”はもう必要ない。

ページの最後に書き残す。


『理解できない人種を、理解する必要はない。

 ただ、野放しにしない努力をするだけでいい。』


……そして私は今日も、地味にモブとして生きていく。


いや、モブって最強じゃない?



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