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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お針子王女が王位継承をした話

作者: 山田 勝

 ラララララ~とハミングを口ずさみながら、身を整える。お気に入りのドレスに身を包み。髪をすく。

 私は王女だが手伝ってくれるメイドはいない。


 ベッドには幸せだった幼少期の思い出、縫いぐるみ、絵本、お人形を並べている。さすがに棺に入れてくれるだろう。


 私は一月前に屈辱を味わった。

 私が18歳になった日、王宮に貴族たちを集めて、お父様は、私の側近候補を募った。

 王位継承の儀だ。





 ☆☆☆回想


『メルシーラの後ろ盾になりたい家門は名乗り出るが良い』


 誰も手を挙げなかった。お父様は困った顔をしているが目は笑っているわ。義母と異母妹はお父様の側に控えている。


『う~む。スキル超お針子ではな。スキル持ちはスキルで判断されるものだ。仕方ない。なら、第2王女のメリッサの後ろ盾になりたい家門は?』



 大勢の貴族たちが挙手をした。

 その中には、お母さまが婚約の内定を取り付けたゲオハルト様もいた。


『メリッサ殿下は聖女ですからな』

『全くです』

『どこかの陰気な方とは大違いだ』


 結局、王位継承の儀は一月後に再開となった。


『それまでに自分で側近候補を選んできなさい。メルシーラが唯一のクレメンス王家の血筋なのだからこれも試練だ』


『お異母姉ねえ様なら、きっと素晴らしい方が見つかりますわ』



 ・・・・・・・・・・




 私は自裁することを決断したわ。

 本来なら、お母さまが後ろ盾を用意してくれていたのに・・・お母さまが崩御されてから皆手の平を返したわ。お父様は公然と愛人とその子を王宮に連れ込んだわ・・・







 さあ、つらい思い出はおしまい。 お母様に会いに行こう。

 何故か簡単に手に入った毒薬を両手で持つ。


 これで楽になれる。女神様はどのような方だろうか?


 『ここにいるぞ』


 まあ、声が聞こえた。天上界はどのようなところかしら


 『天上界など存在しない。女神は血の中にいる。言うならば血の流れだ。なぜなら、私は人族の守り神だからな』


「!!!」


 はっきり聞こえた。後ろにいたわ。何故、入ってこられたのかしら。

 護衛騎士のガデムがドアの前で番をしているはずなのに・・・



 異様な女がいた。黒髪の縮毛に、目は私と同じ碧眼、肌は、不思議な色だわ。若干黒い。褐色でもないわ。

 服は図鑑で見たことがある。砂漠の民の服だわ。



「どなたですか?女神様は金髪碧眼の慈愛に満ちた方ですわ」


 女は口元をつりあげて「ククク」と声に出さないけど嘲笑をしているようだわ。嘲笑は慣れているわ。


「ほお、私が慈愛に満ちていたら、何故、この世界は戦乱、災厄、不条理に満ちている」


「女神さまの試練ですわ!人を成長させるために、乗り越えられる試練を与えているのですわ!」



「なら、何故、メルシーラは死のうとしている?」


 何も言えないわ。でも、何故、私の名を知っているのかしら。



「この世は不確定だ。未来は私でもわからない。ところで何故、有益なスキルがあるのに死のうとしている?」


「馬鹿になさらないでください。王女なのに、お針子ですわ・・・名は『超お針子』、なのに・・・ハンカチの刺繍すら上手く縫えないわ!ふざけていますわ」



 私のスキルは王族なのにお針子、普通、スキルがあれば、何も練習をしなくても中級ぐらいの腕はあるはずだわ。

 だけど、ドレスを見てもアイデアがわいてこない。



「だといっても死んでどうする?死に戻りなんて存在しない。過去にはいけない世界線だ。まあ、未来にはいけるが、お前たちの考えている未来とは少し違う。物事は移り変わるもの。心だって移ろうぞ」


 そう言いながら女は手を出し私の額に手を当てたわ。



「万物流転!ものごとは移り変わる!心も移り変われ!」


「ヒィ」


 突然の出来事で思わず目を閉じた。

 しかし、目を開けたら女はいない。ほんの一瞬目を閉じただけなのに・・・


 自裁の前に幻覚を見たのかしら。本で調べておけばよかったわ。

 でも、自裁の時に現れる現象を書いた本はないわ。何故なら死んでから本を書くことはできないわ。


 気がそがれたけど・・・と思ったが、心が定まらない。


 さあ、生き恥をさらす人生なら、お母さまの元にいくわ。本物の女神さまがいらっしゃるはずだわ・・・・あら、なんか、死ぬのが面倒くさくなったわ。


 グウゥ~


 お腹が鳴いたわ。はしたないわ。


 食堂に行こう。


 ドアを開けると、護衛騎士ガデムが目を見開いて驚きの表情を見せた。


「お・・お嬢、生きる道を選んでくれたのですか?」

「さあ、私でもわからないわ。お腹がすいたの。食堂に行くわ」

「ようございました」


 喜んでいるのかしら。目には涙が浮かんでいるわ。

 彼は元奴隷剣士、私には護衛騎士が付かなかったので奴隷商人から買った。身長は180cm超え。筋肉隆々の巨躯だ。

 私が死んだら開放せよとの遺言を書き。お金まで渡したのに。



「お嬢・・・お金返す」

「とっておきなさい。貴方は開放よ。お給金を払うわ。自由にしていいけど、でも、しばらくはいなさい」

「ようございます。ずっと側にいたいです」


 食堂に行くとメイドたちが談笑していたわ。私が来ても談笑をやめない。



「ねえ。お前たち。お腹が減ったわ。食事を作ってきなさい」



「あら、メルシーラ様、お食事の時間は過ぎております。出直してくださいませ」


 いつもはここで引き下がるが、

 自分でも信じられないくらいの声が出た。



「さっさと作れ。私は王女よ。好きな時に食べて好きな時に寝るわ。そのためのお給金を払っています」


「は、はい」


 渋々ながら作ってきた。


「ねえ。貴方、材料と予算が合わないのだけれども・・」


 ジャガイモを煮たのを持って来た。

 なので皿から床にぶちまけたわ。

 メイドは私に意見を言う。


「もったいないですわ。庶民は芋も食べられないのに!メリッサ様はこのようなことはなさらないですわ」


 私は国の予算にも目を通していたわ。前々からわかっていたわ。

 食材をごまかしていたわね。



「もったいないわよね。だから、これはお前が食べなさい」


 私は席を立ちあがり。バチンとビンタをした。



「私は王族よ。クレメンツ王家に対する不敬罪で死刑にもできるのよ。ガデム」

「はい、お嬢、ようございます」


「ヒィ」


 ガデムは察して無礼なメイドを床に這わせ。床に落ちたジャガイモを食べさせた。



「ウグ、ゲホ」


 せき込みながら食べている。よほど辛いのね。

 わざと不味く作るイジメはされていた。いつもは耐えていたが。

 だが、今日は違う。体の芯から怒りの衝動が沸き上がる。




「そこのメイド、次、早く持ってきなさい」

「は、はい」


 今度はステーキを持って来た。食べながら。


 チリン♪チリン♪

 と鈴を鳴らし。執事を呼ぶ。

 さすがに、呼び鈴を無視する使用人はいない。ただ、いつもは来てもとぼけて用を聞いてくれないが、今日は違う。


「第一王女殿下、何でございましょう?」


「この女、殺します。理由は不敬罪よ。後の処理はお願いします」

「御意・・・えっーー」

「ヒィ」

「ガデムお願い。この毒薬を飲ませて」

「お嬢、ようございます」

「ヒィ、これは本当に毒薬なのですよ!」


 何故、すんなり毒が手に入ったか今はっきりわかったわ。彼女から毒の瓶を手渡されたわ。

 楽に死ねるというものだ。

 彼女のお給金では買えないものでしょう。


 ガデムに無理やり飲ませたら、苦しみながら亡くなった。こんなに苦しむのなら死ななくてよかったわ。


「このステーキを作った者を連れてきなさい」

「ヒィ、わかりましああああーーー」


 来たのは私よりも年下のメイドだったわ。聞けば14歳、茶髪の地味な子だわ。


「おいしかったわ。王族が食べるお肉ね。お前、名は?」

「ケリーでございます・・・」

「いつもメリッサたちはこのようなものを食べているの?」

「はい、左様でございます」

「そう、正直者ね。私の専属のメイドにしてあげるわ。ついてきなさい」

「は、はい」


 おそらく、メイドたちは私が食べる食材を流用していたのね。




 それから、王宮の奥にいる賢者たちに会いに行く。


「ほお、これは、これは、王女殿下、何か御用ですか?私たちは忙しいので用がありましたら手短に」

「左様です。2回目の王位継承の義に向けて忙しいのです。王女殿下が失格になりましたから」

「次で決まりますがね。三回目はございません。私たちはあなたの側近は辞退しますと伝えたはずですが?」


 無礼な物言いに腹が立つが興味ない。

 今までは畏れていたが、そそるものがない。


「・・・つまらぬ」


「な、なんですと」


 どうせ、王家の血がない異母妹に王位を継がせるために法解釈をこねくりまわしているのね。


 側近は外に探しに行くか。

 王宮を歩いている執事を捕まえ外出の準備をさせる。


「は、はい、第一王女殿下」


 怯えている。もう、メイド処刑の噂が広まったか。


 王都を馬車で回る。

 そそるものがない。


「どう、どう」


 馬車が止まったわ。


「だれ、王族の馬車を止める者は?」

「はい、ハンスという者が、この先の塔で実験をしております・・すぐにやめるとのことです」

「面白い。馬車を降りる。その実験とやらを見物する」

「御意!」



 塔の上から鉄球を二つ落とすだけの実験だわ。

 重さが違うのか。大きさが違うが同じ速度で落ちたわ。

 そのために交通を止めていたのね。聞けば賢者を目指しているとのことだ。


「お前、何故、そのスカスカの鉄球で実験をしている?」

「え、殿下のおっしゃる意味がわかりませんが、もしかして、原子論でございましょうか?」


 私は何故か鉄球に手を伸ばし唱えた。


成物せいぶつ!」


 すると鉄球は縮んだわ。手の平に乗るサイズになったわ。


「はあ、何と、重さは・・変わっていない。これは何という現象だ」

 ハンスは私の前でも縮んだ鉄球を持ち観察を続けたわ。


「捕らえなさい。王族無視の不敬罪で連行よ」

「御意」

「そ、そんな。こんな興味深い現象を見せてズルいです!」



 賢者はこいつでいいか?面白い実験をしてもらおう。王宮に連れ帰り私の側近にする。


 更に街を回る。何故かお針子の『見』を使うと街のほころびが見える気がする。


 すると、今度は、大量の綿を質屋に持ち込んでいる男を見かけた。自分の背よりも高い綿を背負っている。


「あの男を捕まえろ」

「御意!」



 捕まえて理由を聞いたら、資金難なので、質屋に仕入れた綿を預け。倉庫代わりに使い。綿を質草にしてお金を借りてさらに仕入れていた。綿を仕入れたのは軽いから荷馬車を借りなくて済むらしい。


 名をロバーツという。金髪の22歳だが、わざと、白髪に染め。服を着こんで小太りにしているという。年上で金持ちに見せるためだそうだ。


 有能なのかズルいのか判断に困る。

 これで良いのか?と問うたら悪びれもせずにのたまう。


「エへへへへ、金は天下の回りものでございます。お金がグルグル回れば世のため人のためになるってものでさ」


 しかし、この商法、ほころびが見える。


「一歩、つまずいたら多くの者を巻き込んでの破産ではないか?綿の値が下がったら?他の重い商品には使えない商法ではないか?」


「え、そりゃ、そうですが・・・しかし、商売、仮定の話を持ち出したり破産を恐れていたら何事もできませんぜ」


 商務卿はこいつでいいか。


「気に触ったから王宮に連れ帰るわ」

「そ、そんな」


 それから二人には王宮で研究を続けさせたわ。


 更に

 街で宰相候補を探す日々を送った。

 王都一番の清貧という者に会いにいったが、世の不条理をなげいて横にした大樽の中で生活をしている変わり者だ。


「私は天下を家にしております。誰にも仕えません。立身出世に興味ありません!」

「天下が家なら、その樽も必要はないな。壊せ」

「お、おやめください!」



 反骨精神の塊との噂だったが、樽の中に金貨がたくさんあったわ。皆、こいつを見学しにいきその対価としてお金を払っていたようだ。

 立身出世に興味ないという名誉で商売をしていたのね。これも違う。



 街を見たら、家を回って御用聞きをしている男がいたわ。

 こいつに何かを感じたわ。



「あの男を捕らえなさい。怪しいわ」

「御意」


 男の名をクルトというらしい。20歳の行商人の駆け出しだわ。


「はい、私は才がないので、こうして家々を回って御用聞きをしてお金を稼いでいます」


 宰相はこいつで良いか。


「お前、王宮で御用聞きをしなさい」

「えっ」


 こいつも連れ帰った。


 私の側近は、宰相はクルト、商務卿はロバーツ、賢者はハンスの布陣で臨む。皆、平民ね。


 それから、数日後、王位継承の義が行われたわ。





 ☆☆☆


 多くの貴族が集められた謁見の間に、側近候補たちとガデム、ケリーをつれて登場した。

 陰口が聞こえてきたわ。


「平民・・・」

「いや、あの王女にしてはよく集めたというものだ」

「まあ、女男爵にはなれるのにな。僻地だけど、そこの側近に相応しいな。プゥ~クスクス」


 王位選別の義では、候補者が王位に継ぐにふさわしい成果か威容を見せて後ろ盾を求めるのが慣例だ。

 義妹のメリッサはジョブ聖女だわ。

 とうていかなわない。と今まで思っていた。



 玉座には代王なのにお父様が座り。義母、異母妹が両隣に椅子を用意されてひかえている。皆、王家の血がない。

 義妹についた宰相と側近候補の貴公子5人と賢者8人もメリッサの後ろにいた。


 まるで、私が謁見を申し出る立場ではないか?まあ、どうでもよい。こちらは成果を見せるだけだわ。



 現宰相は公爵、本来なら、小公爵のゲオハルトと婚約を結ぶはずであったが、メリッサに気がある。

 彼女のスキルは公式には聖女だ。しかし、帳簿を見てわかった。偽物だわ。



 賢者たちはいう。

「メリッサ様の聖女のスキルが発現してから、王国の四隅に聖獣が現れ、魔物が姿を消しました」


「大国からも関心を持たれています。ここにいらっしるのはザルツ帝国のゲーリー卿も興味を持ってこられました」



 大国、我が国とは国力5倍差のザルツ帝国の大使もいらっしゃる。



 いかにメリッサが素晴らしい乙女なのかを皆口々に言う。

 やっと口上が終わったわ。今度は私の番だ。



「私のスキルはお針子です。超お針子です」


 クスクスと笑い声が漏れて来たわ。


「ほお、王女殿下はドレスを縫われたのかな?」


 国王代理の父上はいう。


「そうだ。メリッサのドレスを縫う役で王宮にとどまることを許そう。今、王位継承権を放棄すれば僻地に行かなくてすむぞ」


 しかし、私は口角をあげる。


「私のスキル、超お針子は天下のお針子ですわ。国や物事のほころびが見えます。今、王国はありもしないメリッサのスキルで無理がたたっていますわ。

 大国から購入した聖魔法発動装置を王宮の床下に埋め。多量の魔石を消費して、日に数人の軽症者を治している状態ですわ」


 これは、王宮の予算を調べてわかったことだ。

 しかし、お父様は数でメリッサに王位を押し通す気だわ。


「ほお、それは、ゲーリー卿のザルツ帝国から贈られたものだ。効果を試しているのだ。聖女とは徳だ。魔物がいなくなったのをどう説明する」


 論点ずらしだわ。お父様や賢者は滅多に王宮を出ていない。

 もっとも、つい最近の私と同じだわ。




「それは嘘ですわ、魔物は国々に満ち。物流は護衛を雇わなければ成り立ちませんわ。強力な武具が必要です。私なら・・」



 目くばせをして、ガデムに小さな鉄球を持ってこさせた。彼にしても両手で持っている。直径1cmくらいの鉄球だわ。私が最小単位原子レベルで縫った鉄球だわ。


「これは、私のお針子の能力で縫った鉄球ですわ。ガデムにメリッサに軽く放りなげさせます。これで聖女の徳で無事ならば、私は王位継承権を放棄しますわ」



「ま、待て、待て!メリッサは貴重な聖女だ。それはならん」


「なら、一人、盾になることを許しましょう。その方がメリッサの婚約者になればよかろうと思案いたします」


 ゲオハルトが名乗り出たわ。王宮騎士から盾をもらいメリッサを背にかばい身構える。


「さあ、どんとこいです」

「ゲオハルト様、こわいわ」

「大丈夫です」


 ガデムはその小さい鉄球を放った。かなり重そうだわ。あれは・・・50キログラムはある。さらに極限まで摩擦力をなくしたわ。


 バシャとゲオハルトの骨が砕ける音がしたわ。あら、盾と体を貫通してメリッサに当たったようだわ。

 メリッサは死に至らないが、腹に鉄球を受けた。まあ、子供を埋めない体にならなければ良いのにと本気で心配したわ。


 鉄球の勢いは止まらず反射して斜めにいた賢者の誰かに当たった。

 摩擦力を極限までなくした効果だろう。


「グハ、骨が砕けた。なんだ。この転び方は・・・聖女様、治療を・・」

「グヘ、グハ、それどころじゃないわよ!この陰気女を殺しなさい。聖女を早く連れてきなさい!」


 メリッサは聖女なのに聖女を要求している。やっぱり偽物だったのね。



 私は王位の継承について、父ではなく、大使殿に尋ねた。



「私のスキルのお針子は金属を縫うタイプのものですわ。金属はスカスカ、かなり空間があるそうですわ。それを圧縮、またはさらに軽くすることもできますわ」


 大使殿は指を顎にあて、少し考えた後。


「欲しいスキルだ・・・いや、失礼をした。殿下も、いや、陛下も貴重な人材とお見受けします」


「良いのです。スキル持ちは、スキルで判断されるもの。さあ、お父様、そこをお退きなさい」


 私はおののくお父様をどかして玉座に座り。大使殿から礼をされた。右腕を胸にあて、頭を少しさげ。左腕は腰に回したわ。



「第12代、クレメンス王メルシーラ様にご挨拶を申し上げます」

「貴国との友好をさらに発展させましょう」


 結果、大国を後ろ盾にすることに成功したわ。

 お父様は私に懇願するわ。




「我が子よ。ともに王国を発展させようぞ」

「お父様は元の侯爵家に戻りなさい。その妻と子を連れてね」

「今更、戻る場所など・・・」

「なら、甥の子弟の爺やでもすればよろしかろうと思いますわ」


 賢者たちも手の平を返したわ。



「メルシーラ様、私たちはお仕えします」

「いらないわ。白馬は馬かどうかで議論する賢者など、市井で文芸でもなさりなさい」

「「「そ、そんな」」」




 閣僚は平民たちだけども国は回った。

 クルトは貴族間の調整をし。

 ロバーツは国の金を回す。

 二人にとってはスケールが大きくなっただけだ。


 だが、ほころびが見えたら是正する指示を出す。

 ハンスは相変わらず役に立つのか立たないのか分からない実験をしている。


 あんまりなので投石機や兵器を作らすとやはり性能が良い。思わぬ拾いものだ。

 今は水車や井戸から水をくみ上げる道具を作らせている。こいつ、指示をする者がいたら途端に有能になるわね。


 私は余った時間で超金属を作る毎日だ。ザルツ帝国に輸出をしている。

 ドワーフに見せても再現性はない。


 私、一代の技術だわ。いや、子に受け継ぐ可能性もあるわ。

 ザルツ帝国から皇子との見合いを薦められたけども。



「大使殿、本当に困ったときに側にいる殿方が・・・忘れられませんわ」

「ほお、それは道理、その方と婚姻を結ばれるのですか?」

「王命で無理強いをしたくありませんわ・・・断られたら貴国の皇子殿下との婚約をお受けしますわ・・それは不遜でございましょうか?」

「いや、信義を重んじる方は信用におけます。良い結果を期待します」



 私はガデムに求婚をした。彼は側にいただけだ。侮りもせず媚びもせず淡々と自分の役目に忠実だったわ。


「どうかしら?」

「お、お嬢、いや、陛下、待ってください・・身分不相応でございます」


 これは簡単に『ようございます』とは返事がいただけなかったわ。




 ☆☆☆40年後



 数年前に息子に王位を譲り大勢の賢者を連れ。ガデムと旅に出た。行先は砂漠よ。

 娘にスキルが出たから、ザルツ帝国から皇子を迎え国内にとどめている。行先は砂漠の国よ。

 あの女は砂漠の民の服装をしていた。自裁をしようとした時以降、あの女神と名乗る女は現れなかった。


 この砂漠の国はザルツ帝国の保護国だわ。


 ここに最も古い女神教の教会があると伝えられている。


 この地は交易を通して、いろいろな種族が集まり混血が進んだそうだ。

 民の姿がどことなくあの女に近い。


 原初の教会にはそそるものがなかったが、風を感じたわ。地下からだわ。



「そこのタイルをはがして」

「御意!」


 床下に穴があったわ。その先には・・・地下都市があったわ。



「これは、女神歴よりも前の発見です!アカデミーに報告いたします」


 松明を灯りに地下都市の奥に進む。壺や遺骨があるが、かなり古いものらしい。

 一番奥の広場に数々の壁画を見つけた。



 あの女が描かれていた。髪は黒で縮毛、巨人やドラゴンと戦う様や、これは、人族に何かを授けている姿ね。


 随行した言語学の賢者に書かれた文字の解析を命じた。


 あれ以来、我が国はアカデミーの国としても知られている。

 私が追放した賢者は知識は総合的と言えば聞こえがいいが、どこか漠然とした知識だわ。あれからそれぞれの専門家を養成したわ。



「メルシーラ様、お針子と鍛冶のスキルが・・・分かれていません。金属を縫い合わせるとあります。これを『すごいお針子』・・と書かれています。子供が書いたようです」


「どういうことからしら」


 今度は歴史学の賢者が答えた。


「人族が服を縫うことを覚えた段階の遺跡でしょう。昔の技術は未分化でした。現在でも床屋が外科医を兼任している国もございます。

 大昔、巨人とドラゴンが戦争を起こしたと伝承にあります。人族は地に潜み神の出現を祈ったと、民話からもうかがえます。それを裏付ける遺跡でしょう・・」


「そう・・」


 更に言語学の賢者が解析の結果を報告する。


「・・・メルシーラ様、金属を縫い合わせる。これを『オリハルコン』と言うとあります。前女王陛下の作られた金属はオリハルコンではございませんか?」


「とにかく調査をしなさい」



 オリハルコン・・・合金らしいけど、ドワーフの名工が作っても合金の域を出なかったわ。

 なら、調査は任せて、王国に戻り金属を縫うことと、このスキルがなくなっても国が回るようにしなければ・・・


 女神は『心だって移ろうぞ』と言ったけども・・でも、私はガデムの手をギュと握る。

 彼も控えめに握り返す。

 この気持ちは移ろう気がしない。いえ、考える気もしなかったわ。




 ・・・その後、メルシーラの孫にはスキルが継承されなかった。しかし、クレメンス王国は栄え続けることになる。基礎はメルシーラの側近たちが作っていたのだ。


 もし、あの時、女神が現れなかったら、オリハルコンは幻のままであっただろうと年代記には記されている。

 メルシーラの作った金属で勇者の鎧を作り。対魔族戦争で活躍することになる。





最期までお読みいただきありがとうございました。

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