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再び巡り合う時 ~転生オメガバース~  作者: 一ノ瀬麻紀


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結婚式前夜

ここからは番外編となります。

時系列はバラバラですので、ご承知おきください。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

「とうとう明日かぁ……」


 ミッチェルは、ベッドに寝転がったまま天井を見つめてポツリとつぶやいた。今日まで本当に色々なことがあった。一時は未来を夢見ることを諦めそうになったこともあった。けれど、幾度の困難を乗り越え、とうとう明日結婚式を迎えることができる。


 明日は朝から準備があるからもう寝なくてはいけないのに、今までのことを思い起こしていたら、寝付けなくなってしまった。

 どうしても眠れないので、ミッチェルは気分転換に中庭に足を運んだ。六月の柔らかな風が心地よく、月明かりが夜の庭を優しく照らしていた。見慣れたその光景だけで、ほっと心が軽くなったような気がした。


「ミッチ?」


 中庭に設置されたベンチに腰を下ろし、星空を仰いでいると、ミッチェルの名を呼ぶ声がした。

 まさかこんな時間に声をかけられると思わずびっくりして振り返ると、そこには二人の思い出の飲み物、ハニーベリーフィズを乗せたトレイを持ったフレドリックが立っていた。


「フレッド!?」

「なんか眠れなくてさ。ちょっと中庭で風にあたろうと思って来てみたら、ちょうどミッチがいたんだよ」


 そう微笑みながらフレドリックは近づいてきたけど、手には二人分の飲み物を持っている。絶対偶然なんかじゃないはずだ。


「たまたま、まだ起きていた使用人が、たまたま、俺にハニーベリーフィズを持たせてくれたんだ。そこにたまたま、ミッチがいたんだよ。ちょうどよいから一緒に飲むか?」

「へー。偶然だねー。僕もちょうどハニーベリーフィズを飲みたいと思っていたんだ」


 おそらく笑いをこらえているはずなのに、平然と「たまたま」を強調して説明するフレドリックに、ミッチェルもなに食わぬ顔をして返事をしたけど、やっぱりこみ上げる笑いを抑えきれずに吹き出してしまった。


「あはは! なにが、たまたまだよー! そんな偶然あるわけないじゃないか!」


 使用人たちも仕事を終え、部屋で休んでる時間だ。こんな夜更けに、たまたま二人分の飲み物を用意していたと言うなら、相当気の利く使用人じゃないだろうか。でももしかしたら、あの使用人ならあり得るかもしれないなと、笑いを止めて一瞬考え込む。


「結婚式前夜で、ミッチが眠れずにいるかもしれない。様子を見に行ってみてはどうかと提案されたんだよ」

「使用人?」

「あいつは気が利くからな」


 にやりと笑うフレドリックに、どこまでが本当なのかわからなくなる。でも、ミッチェルのことを心配してくれるという気持ちは偽りはないはずだ。


「うん、そうだね。せっかく用意してくれたから、いただこうかな」


 月明かりが照らすテーブルに、持ってきたランタンをそっと置いた。


「寝ようと思ってベッドに入ったんだけど、色々と考えていたら眠れなくなってしまって」


 そう言いながらミッチェルは、フレドリックの注いでくれたグラスに口を付けた。いちごと蜂蜜の香りが鼻をくすぐる。


「そうだな。色々あったからな」


 フレドリックとミッチェルは転生者だ。前世でも結婚を約束した恋人だったのに、不慮の事故で還らぬ人となり今のこの世界に転生した。

 前世でも転生したこの世界でも、二人を取り巻く環境は厳しかった。挫けそうになりながらも、再会を信じていた二人の思いが通じて、無事再会することができた。

 そして、紆余曲折ありながらも、ようやく明日二人は結ばれる。夢にまで見た結婚式が執り行われるんだ。


「本で読んだ、幸せすぎて怖いってセリフ。今ならわかる気がするな……」


 ミッチェルの言葉を、フレドリックは小さくうなずき黙って聞いてくれた。


「もしかしたらこれは夢で、僕はまだあの塔の部屋に閉じ込められたままなんじゃないかとか、転生に失敗してなにもない空間を彷徨っている時に、脳が見せた幻覚なんじゃないかとか、そんな怖い事を考えてしまうんだ」


 小さく震えるミッチェルの手を、フレドリックはしっかりと握りしめた。


「このぬくもりは夢じゃない。俺たちは生まれ変わって再びめぐり逢い、また恋に落ちた。前世の記憶がないのにもかかわらず、俺はミッチのことをまた好きになったし、ミッチも俺が生まれ変わりだと気付かなくても、好きになってくれただろう? これが夢なわけがない。ちゃんとした現実だ。俺はもう二度とこの手を離さない。だから安心して俺にすべてを委ねてくれればいい。ミッチは俺が守り抜く」


 こちらの世界で出会ったばかりの頃に比べて、フレドリックはかなり饒舌になった。思いをはっきりとぶつけてくれるようになった。前世でちゃんと思いを伝えなかったことで、すれ違ってあんな事になってしまったから、もう後悔はしたくない。

 それはミッチェルも同じ気持ちだった。前世では、勝手に勘違いして喧嘩して、つらい最期になってしまった。もうあんな思いは二度としたくない。


「うん、ありがとう。僕はフレッドのことを信じてる。もう大丈夫だよね、僕たちはもう二度と離れないし、一生一緒に寄り添って生きていくんだ」


 二人の瞳が重なり合い、手を握りしめたまま身を乗り出した。そしてふわりと微笑むと、そっと唇を合わせた。ファーストキスのような甘酸っぱい香りに包まれ、何度も幸せを噛み締めた。


(終)

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