表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再び巡り合う時 ~転生オメガバース~  作者: 一ノ瀬麻紀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/86

68. 弱音と覚悟

 僕とフィルは、広場の中央に設けられた舞台に立ち、領民たちに向かって挨拶をした。

 まずは、ハイネル家長男である僕が、先に口をひらいた。


「皆さん、今日は僕たちの誕生日を祝ってくださり、ありがとうございます」


 僕が話し始めると、先程まであちこちで聞こえていた賑やかな話し声はピタリと止み、広場は静まり返った。


「本日、僕たちは十八歳の誕生日を迎えることができました。こんなに盛大に皆さんに祝っていただけるとは思っておらず、大変嬉しく思っています。先日は、我が父ハイネル伯爵への嘆願書にご協力いただきましたこと、誠にありがとうございました。私たちハイネル伯爵家の問題に関して、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを、ここにお詫び申し上げます」


 そう言って、僕とフィルは深く頭を下げた。そして顔を上げたあと、今度はフィルが話し始めた。


「そして、ここで正式にお知らせがあります。嘆願書への協力の際の説明と、広場の掲示板にもお知らせした通り、私、フィラット・ハイネルは誕生日の宴をもちまして、ハイネル伯爵家の当主を引き継ぎましたことを、ここにご報告いたします。尊敬する父の教えを守りつつ、新たな試みにも挑戦したいと思っています。このハイネル領がますます繁栄するように、精一杯努力していきますので、これからも皆さんのご支援ご協力をよろしくお願いします」


 僕とフィルの言葉を、噛みしめるように聞き入っていた領民たちが、わぁっと一斉に歓声をあげた。

 あちこちから聞こえる『ハイネル領は安泰だ』という声に、僕たちは顔を見合わせ微笑んだ。







 盛大な誕生日を祝ってもらった僕たちは、皆に挨拶をすると部屋へ戻った。領民たちはもう少し宴を続けるようだった。


「はぁぁぁぁー。つっかれたー!」


 フィルは僕のベッドに大の字で仰向けになると、大きな声でため息をついた。


「お疲れ様。とても立派だったよ」

「そう? 僕、ミッチに褒めてほしくて頑張ったんだから!」

「ふふふ。頑張ったね。良かったよ」


 僕に褒められるためなんて、やっぱりまだ十八歳になったばかりだし、元来の甘えん坊気質もあり、僕にはこうやって心を許して甘えてくれるのが嬉しい。


 一家の主は引き続きお父様だし、家族皆の心の支柱だと思っている。若くして当主となったフィルはまだ未熟で、お父様から学ばなければならないことも多い。今まで交流のあった人たちも、まだまだお父様への信頼が厚いはずだ。


 僕には本音を話して甘えてくるフィルを見ていると、隣でしっかりと支えてあげたいと思った。


「明日からもやることがたくさんあるでしょ? 湯浴みをしてゆっくり休まないと」

「うん、そうだねー。……あ! 久しぶりに一緒に背中流し合おうよ!」

「良い案だね。待ってて、準備をするようにお願いしてくる」


 僕たちはその後、二人で湯浴みをした。何年ぶりだろうか。

 今まで僕が守ってきた背中は、いつしかとても大きくなり、たくましくなっていた。


「ミッチ……」

「なぁに?」


 さっきまではしゃいでいたフィルが、急に声のトーンを落として話しかけてきた。


「僕ね……不安なんだ」

「うん」

「色々あって、振り返る余裕もなくここまで走ってきた感じだけど、やっと今日一段落が付いて、ふと思ったんだよ」

「うん」

「本当なら、もっと僕たちが成長してからの交代だったかもしれないし、僕じゃなくてミッチだったかもしれない。本当に僕でいいのかな……」


 僕より大きくたくましくなったフィルが、フィルより小さな僕の背中にピタリとくっついた。


「大丈夫。フィルなら大丈夫。この一年間の頑張り、ちゃんとみんな見てるよ。アルファだからという過度な期待にも、しっかりと応えてきたじゃないか。……フィルは、僕の自慢の弟だ」

「本当? 僕は、ミッチにとって自慢できる弟?」

「もちろんだよ。双子の片割れの僕が言うんだ、間違いない」

「ふふふ。ミッチが言うなら、間違いないね」

「大丈夫。フィルがいるだけでまわりが明るくなる。みんな笑顔になれるんだ。……僕もそばで支えていくから、大丈夫。一緒に頑張っていこう」

「そうだね。僕たち二人揃えば百人力だ」


 フィルはよしっと気合を入れて「そろそろ出ようか」と言うと、先に湯浴みの部屋から出ていった。


「大丈夫。大丈夫」


 僕は祈るような気持ちで、フィルの背中に向かって、そっと魔法の言葉をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ